第18話―〝魔女の末裔〟、その真価

「もし最初から勝つつもりでいたなら、先程の『居合』を使って私の攻撃にカウンターを合わせれば一撃だったはずです。それに……今なら解ります。ラグナ殿、貴殿の極致……まだ先がありますね?それも………世界を、滅ぼしかねないほどの」

「……そうなのですか?」


周りの団員はそれにざわついた。恐らく、今までこの二つの極致のみしか使ってこなかったのだろう。その証拠に、隣で1番視ているはずのディーレですら、目を見開いている。


「貴殿は本当に………。その推察力は一線を画すものがあるな」


彼女はそう首を振りながら呟く。


「貴殿の言う通り、私の極致にはまだ先がある。もっと言えば、私のスキルで、どの剣を握っても、すぐにその“魂”に触れることができるのだ。それが、私が〝千龍〟と呼ばれている所以だ」


周りから驚愕の声が漏れる。これには私も驚いた。まさかそれほどに剣の道を極めているとは。私も“至った”から解るが、剣の“魂”に触れるのはそう容易ではない。それを握ってすぐにやってのけるとは。

私がそう考えながら固まっていると、ラグナ殿が私にこう言ってきた。


「そういう貴殿も、本気は出していなかっただろう?〝魔女の末裔〟たる貴殿が得意なのは近接よりも魔法による遠距離支援のはずだ。それなのにここまで私と渡り合えていること自体、素直に驚嘆に値するのだが……」

「……バレていましたか。確かに私も、剣のみで言えば本気でしたが、それ以外を少し縛って戦っていましたから。………せっかくですし、〝魔女の末裔〟の力、少しお見せしましょう」


そういって私は、先程ラグナ殿が使おうとしていた甲冑人形の前に立つ。

そして、無詠唱で、全系統魔法【火】、【水】、【風】、【土】、その最高等魔法をそれぞれ2つずつ発動する。それも、全て一度に。


「…………〝魔女の末裔〟と知ってはいたが………まさかこれほどとは」


周りからも、もはや何度目ともわからない驚嘆の声が漏れている。

魔法とはイメージ。そして詠唱とはそのイメージの手助けに過ぎない。発動した時の様子をほぼ完璧にイメージできるならば、詠唱は不要となる。だが、魔法をイメージのみで具現化させるのは相当の思考領域が必要となる。そのため、私たち魔族にすら、最高等魔法ならば2つまでが限界と言われてきた。

だが―魔法は私たち〝魔女の末裔〟の専門分野だ。こと魔法に関しては、他に追随を許さない。

今私が使った技術、『多重無詠唱アクセラレーション』は、私が独自に編み出したものだ。そのため、姉上を除く他の〝魔女の末裔〟―サーリャ様も恐らくここまでは発動できないのではないか。


「―ッッ!!」


私は無声の気合いと共に、前に突き出していた手の平をグッと握り、魔法を発射する。

豪炎が、激流が、暴風が、岩塊が、一つの甲冑人形に向けてブチ撒かれる。

一点に発射され続けた最高等魔法の嵐の跡は、そこにクレーターのような、とてつもない大きな穴を残すのみだった。


「おっと……。少し、張り切り過ぎてしまいましたね。―〚幻想創造ファンタズムクリエイト〛」


私がそう詠唱すると、先程の穴が無かったかのように、元の床が甲冑人形と共に創られた。


「少し魔力を多めに創っておきました。魔力が切れないうちは、踏んでも切っても問題ありませんので、存分にお使いください」


そう言いながら私が振り向くと。

魔法科の団員たちは全員跪いていた。そしてラグナ殿は絶句しており、あの凛としている姿からは想像できない、可愛らしい表情をしていた。

私の視線に気づくと、咳払いをし、いつも通りの彼女に戻った。


「………すまない、私としたことが……。魔法科団長として申し分ない実力だった。見事だ」

「お褒めに預かり光栄です」


そして、団員の中から1人が歩み寄ってきた。


「近衛騎士団魔法科、ルオ・ライオットと申します!先程の魔法、感服いたしました!是非、これから指導のほど、よろしくお願いいたします!」

「「「よろしくお願い致します!」」」


その団員―ルオと名乗った青年に続き、他の団員も口を揃えて頭を下げる。


「ええ、もちろんです。私の全てで以て、貴方達を人間の宮廷魔術師を超えさせてみせましょう」


こうして、私は初日で、全団員から認められることとなった。


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