第3話 手つなぎデートで準備しましょう

 シーン:駅前の広場


「というわけで、本番です」


 後輩がいつになくお嬢さまなよそおいで、待ち合わせ場所に現れた

 こうしていれば、確かにお嬢さまに見える

 美少女度が、通常の1.5倍だ


「ふむふむ、いいですね! あたしの指示通り、ちゃんとできます」


 髪型をセットして、服装も後輩が「こんな感じで」と選んだものに近づけた


「妹さんが変な服装だって? いつもの方がかっこいい? はぁ、兄妹きょうだいっすね。大丈夫ですか? 妹さん」


「妹の服装は変だから、大丈夫じゃないって……せんぱい、どのくちでそれいうんですか」


 あなたはスマホを出し、妹と写っている画像を後輩にみせる


「スマホ? 見ろってことですか。これ、せんぱいの妹さんですか? そっくりですね」


「でも服装、変じゃないですよ。確かにちょいハデですけど、スタイルがいいから似合ってるのかも……」


 あなたはスマホをポケットに戻す


「それでですね、せんぱい。やつらと会うには、まだ時間があります。恋人っぽさをかもし出すのに、手つなぎデートで準備しましょう!」


「やつらっていうな? 言葉使いがお嬢さまっぽくない、せっかくお嬢さまっぽい格好してるんだから、言葉もちゃんとしろ、ですか……」


 考える顔をする後輩

 そして


「ごきげんよう♡」


 胡散臭い笑顔で挨拶をした


 お嬢さまといえば「ごきげんよう」

 その程度の知識なのだろう

 本当にお嬢さま系の女子高に通っているのだろうか


「どうです! お嬢さまっぽくないですか」


「な、なんでため息つくんです! もいっかいチャンスください、あたしだって……いいえ、わたくしも、やればできる女なのですわ……ご、ごきげんよう?」


「そんな絶望的な顔しなくていいじゃないですか! ほ、ほらせんぱい、ちゃんと手をつないでください。彼氏なんですよ!」


 あなたは仕方なく、差し出された後輩の手を取る


「それでは、どこにまいりましょうか? せんぱいがエスコート……できるわけないですよね」


「ドヤ顔しなくていいですよ、褒めてませんから」


 別にドヤ顔はしていない


「せんぱい、もっと近づいてください。腕がくっつく? くっつければいいでしょ。はい、くっつきました」


「なっ、なんでそんな照れ顔するんですか!? あたしも恥ずかしくなるじゃないですか、やめてくださいっ」


 少しの間、あなたちたちは恥ずかしげに見つめ合う


「あたしの手の感触が女の子っぽくて照れる? にゃっ! そんなキモいこといわないでくださいっ」


「あっ、キモくないです、ないですけど……いい方があるじゃないですか、きみの手の温もりが愛おしくて心臓が苦しい……とか?」


「うわあぁっ! あたしもキモいこといってるうぅ~! せんぱいと同レベルだあぁーっ」


 あなたは思わず、なつかしさに笑ってしまう

 後輩との関係は、時間があいても中学時代と変わっていない

 迷惑をかけられることもあるが、後輩と過ごす時間は楽しくて気がらくだ


「なんですか、あはは……なんで笑うんですか、楽しくなっちゃうじゃないですか」


 あなたは後輩の手を強く握り、半歩彼女に近づく


「はぁ……行きましょうか。せんぱいがいれば、それでいいです。それが一番楽しそうです」




 シーン:夕方 小さな公園のベンチに座るふたり


「あの子たち、いいほえヅラでしたねー……ぷくくくっ」


「あたしに彼氏がいるなんて信じてなかったんですよ、きっと。ザマァ!」


 あなたは調子に乗っている後輩に釘をさす

 そもそもの始まりは、後輩が見栄みえをはりウソをついたからだ


「あ、はい、すみません。せんぱい彼氏じゃないです、調子こきました」


「でもせんぱい、ちゃんと彼氏の演技してくれたじゃないですか。ありがとうございます。お礼です、腕に抱きついてあげましょう」


 後輩が腕に抱きついてくる、胸を押し当てて

 大した質量ではないが、照れるのは照れる

 そういえば妹以外にお胸を押しつけてもらえるなんて、これが初めてだ

 妹がよく抱きついてくるから感触はわかるけれど、肉親以外だとこうもドキドキするものなのか

 妹のなんか、その時の気分によってはキモッとすら感じるのに


「あたしのお胸がやわらかふわっふわで、せんぱいってばドッキドキのもっにゅもにゅなんですね、わかります」


 ドキドキしているの見抜かれた

 冷めた目でごまかそう


「いや、本気の目で見下すのやめてくださいよ。ちょっとショックなんですけど……」


「スレンダー美少女。スレンダー、ぷらす美少女、いこーる、あたし。それでどうです?」


「なにがどうって……なんでもないです、忘れてください」


「そんなバカトークより、あの子たちがせんぱいをしっていた理由ですか? せんぱいは面識がないのに」


 どうも後輩のクラスメイトたちは、あなたのことをしっている感じだった


「うーん……実はせんぱい、ここあたりではそこそこ有名人ですよ? ダサい服装の超絶金髪美少年って、あれ、せんぱいのことですよ? しりませんか?」


「そうですか、しりませんか……中学卒業してから、このへんには来てないですか?」


「あたしに呼ばれたから来たけど、それまでは来てない? せんぱいの高校、逆方向ですしね」


「このあたりは外国人って珍しくないですけど、せんぱいほど美形の金髪きんぱつ碧眼へきがんさんは、日本中探したってそうはいませんよ」

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