第2話 だって、羨ましかったんだもん!
シーン:夕方の小さな公園(続き)
「と、いうわけなんです。なのでせんぱいには、あたしの彼氏としてその子たちと会ってもらいたいんです」
詳しい話を聞いたがやはり後輩の自業自得で、同情の余地はない
クラスの子がイジワルをしてきたのならまだ理解できるが、「かっこいい
「クラスの子、悪くないじゃないか。婚約者の自慢しただけだろ? 女の子っぽくてかわいいじゃないか、ですか……だって、
羨ましい? わからなくはないが……
「羨ましいのはわかるが、そんなウソを口走るのは
後輩のお父さんはまともな人らしい。お母さんもまともっぽいのに、どうしてこいつは
でも後輩の書く字は、とても美しい
見とれてしまうほどに、きれいな字を書く子なのだ
本当に困っている顔の後輩
「だからお願いします、せんぱい。かわいい後輩を……いえ、かわいいあたしを助けるチャンスですよ! あたしを助け、どうかちっぽけな
そのいい方にはムカついたが、
あなたはガマンして頷く
「いい……ですか? ホントですか! やったーっ」
「はー、よかった……でもどうせ引き受けてくれるんなら、最初から黙って引き受ければいいんですよ。それをあーだこーだと好感度を下げる選択肢ばかり、まったくせんぱいは」
あなたの冷めた目に気がつく後輩
「はわっ! す、すみません生意気いいました! やだっ、帰っちゃヤだぁーっ」
「も、もう……せんぱいはイジワルですね。変わってないです」
「はい? あたしも変わってないですか? それは失礼な、といえばいいのでしょうか」
「あたし結構変わりましたよ! 具体的にはお胸のあたりが、AからBへとグレードアップしました。女の魅力がモフンモフンですねー♡ せんぱい、あたしに本気になっちゃ、ダ~メ♡ だぞぉ~?」
本当にムカつく。あなたは巨乳派だ
妹のサイズを教えて現実を思い知らせてやろう
「はぁ!? え? うそ。せんぱいの妹さん、中3なのにCあるんですか!? なにそれ
さすがにそれは聞き捨てならない
妹がどうとかじゃなく、巨乳イコール淫乱がだ
あなたが
「す、すみません妹さんを淫乱なんていってごめんなさい、帰らないで、かえらないでー!」
――3日後(土曜午後)
シーン:おしゃれな美容室
「まずは美容室ですよ。せんぱい、来たことなかったでしょう? せんぱいが行きつけにしてる1900円の定額カットのお店とは違います」
「なんですか、値上がりして2100円? はっ! 本当に定額カットに行ってるんですか、せんぱいらしいですね」
定額カットのなにがいけないんだ
これだからお嬢さま系女子高校生は
「ですがここは、定額ではありません。美容室ですからね! さぁ、入りますよ。大丈夫です、予約済みです。そしてお金もかかりません。実は
美容師が後輩に近づいてくる
「あっ、お兄ちゃん。うんうん、この人。あたしと並んでも変じゃないようにしてください」
「ムリ? 即答は失礼じゃない?」
「うん、うんうん。ムリなものはムリ? はいはいわかるー、わかるけどやってー。あたし? あたしはいいよー、これ以上かわいくならないよー、もう十分かわいいよー」
「うん、お願いねお兄ちゃん」
「あっ、せんぱい。せんぱいは黙って、されるがままにしててください。余計なこといわないでくださいね。できれば口内炎が痛くて話せないとかいい訳して黙っててください」
――1時間半後
「あんま変わりませんねー。まぁ、元がもとですからね」
「仕方ないです、じゃあ次、服を見に行きましょう! 服装をどうにかしたいんですよ。せんぱい、基本クソダサTシャツじゃないですか。今も、
「気に入ってる? なおさらダメじゃないですか。ママが買ってきて仕方なくとか、妹さんのプレゼントとかでガマンしてとかじゃないんですか。せんぱいのセンスなんですか」
「はぁ……まぁ、せんぱいらしいといえばらしいですけど、それではあたしの彼氏役は
「……じゃあ、彼氏役やめる? す、すみませんっ! 勘亭流ねこ屋敷いいですよね♡ ですがご
シーン:美容室の外へ
「あの、せんぱい。手、つないでいいですか? 彼氏役の練習です」
後輩のクラスメイトたちとは、明日、顔を合わすことになっているらしい
「きゃっ! なんですか急に。あたしからつなごうと思ったのに……もう、そんなにあたしと手をつな――」
手をつなぐといったのは後輩だろう。つないでほしいんじゃないのか
後輩の口からムカつく言葉が出る前に、あなたは手を離す
「にゃっ! は、離してとはいってませんけど!?」
「もう! なんなんですか。せんぱい、中学のときとまったく変わってないじゃないですか。あたしをなんだと思ってるんですかっ」
「……あ、はい。後輩としか思ってない? ま、まぁ……そうっスね」
「あ、あたし!? あたしだってせんぱいとしか思ってませんけど!」
「なら同じじゃないかって……」
「違う……同じなんかじゃない」(呟くような小さな声)
よくわからないが、つぶやくよな小さな声は無視して、あなたは再度後輩の手を取る
「あっ、せんぱい、手……えへへ、ありがとうございます♡」
モテない自分とはつり合わないほどに
後輩にふれるのは、これが初めてではない
部活ではお互いに相手の手を取って、自分の中の筆の運び方を伝えあったりもした
なのにあなたは、やけにドキドキしている
これが、部活ではないからだろうか
変にニコニコした後輩が、
「それでですねー。せんぱいは、
信じられないこと言う
小首を傾げるあなた
「はいはい、それは保証します。せんぱいが思ってるほど、せんぱいって悪くないですよ? 私服がクソダサ……いえ、センスが前衛的なのが一般受けしないだけで、元がどうこうって話じゃないです。制服姿なんて、普通にカッコよかったです」
「なんでそんな、疑わしそうな顔するんですか。もしせんぱいがどう飾っても絶望的なら、彼氏役を頼むと思います?」
「あっ、いえ……確かに選択肢がせんぱいしかないのはなかったんですけど、選択肢に入ってくるくらいには、せんぱいカッコいいですよ」
カッコいい? 女の子にそういわれた覚えはない
「女の子にカッコいいなんていわれたの初めて? 照れる?」
「あー……そう、ですか。あたしのセンス的な問題でしょうか。もしかしてせんぱい、自分で思う程度かもしれません、ごめんなさい」
やはりそうなのか
「う、うそ! うそですよー♡ カッコいいですって。あたしは、カッコいいせんぱいだって、中学のときから思ってましたよ? そんな気落ちした顔、しないでくださいよー」
気分が沈んだあなたに、後輩がフォローを入れる
「モテない? あぁ、それは……せんぱいの勘違いじゃないですかねー? もしかしたら、せんぱいのこと好きな子もいるかもしれませんよ」
「誰それって……そんな食いつかれてもわかりませんけど、あたしは、好き……ですけど?」
「あっ! 好きっていうか頼りになるっていうか利用しやすいっていうか便利っていうかっ」
「……だから、とりえずあたしでガマンしてください」
「ガマンじゃない? 演技とはいえ、女の子と手をつないで街を歩けるのは嬉しい?」
「それ、相手があたしでも嬉しいんですか?」
あなたは頷く
「そ、そうなんですか! 嬉しいんですかっ」
「せんぱい、さすがにそれはチョロすぎですよ! あはははっ」
楽しそうに笑う後輩の手を握って、あなたも笑った
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