第25話 竜妃様の教育
「今日はこちらの文字を覚えましょうか」
そう言って
(そういえば竜妃様のことが書かれた書物もあるんだったっけ)
棚の書物を全部確認した
そうした書物が置いてあるのも、ここが竜妃様の部屋だからに違いない。「大した内容じゃなくても、いつか読んでみたいなぁ」なんて思いながら
(これに書かれてるのはわらべ歌だって話だけど、字だとそんなふうには思えないんだよね)
細長い虫が紙の上をうねっているようにしか見えない。わらべ歌を知っているわたしでも字と音を組み合わせて覚えるのが大変なのだから、歌すら知らない
(……と思ってたんだけど)
チラッと隣を見た。毎日煮卵の絵を描いていた
「
「……そう?」
「えぇ、それに大変よい筆運びだと思います」
「……そう」
嬉しそうな声に再び視線を向けると、完璧な美少女の白い頬が赤くなっている。手元を見れば、すでに次のページの字を書き写しているところだった。思わず「
「……どうも」
「お世辞じゃないわよ。わたしが初めて字を学び始めたときよりもずっと上手だわ」
そう言って微笑む
「
「えぇ」
「その書物に竜妃様は食事を取らなくていい、みたいなことって書かれてませんでした?」
「どういうこと?」
「わたしがここに来たとき、そういうことを言っていたので……」
チラッと
「食事のことは書かれていなかったけれど、宝珠の話なら書いてあったわ」
「ほうじゅ」
「えぇ。宝の珠と書いて宝珠。竜が持つ尊い珠のことよ」
そう言いながら
「宝珠は竜にとって宝と呼ぶべきもの、そんなふうに書いてあったわ」
「そうですか」
てっきり書物に食事のことが書いてあるんだと思っていた。それを掃除に来た侍女が読み、
(そっか、侍女が
たとえ姿を見かけても幽霊と思っているものに話しかける下女や侍女がいるとは思えない。それなら誰があんなことを
「宝珠、ここにある」
そう言って以前と同じように胸の辺りを指さしている。
「
(やっぱり違うんだなぁ)
生まれや育ちがわたしと似ているとは思えない姿だ。それに何も知らない
(でもって、それを見た
やっぱり
「え?」
「死にたくないなら、食べるなって」
「ええと、
わたしの問いかけに
「いまのって、どういうことですかね」
「書物にはそんなことは書かれていなかったけれど」
「食事をしなくても死なないとして、あえてするなと言うのが気になりますよね」
「理由があってそう言ったのかしら」
首を傾げるわたしたちに「蛇だったから」と
「蛇だったから食べてはいけないということですか?」
「蛇だとわかったら、竜が困る」
「あー……もしかして好物を食べて蛇だとばれると困るってことですかね。でも、
「本物の竜じゃない。偽物は殺される。そうしたら、次は竜が殺される。それは竜が困る」
美少女の口から出てくるには物騒すぎる言葉に眉が寄った。いまいち理解できなかったものの、食べなかった原因が竜のせいだということはわかった。
きっと竜に厳しく言われたに違いない。竜はとても大きいというから、蛇だった
それにしても酷すぎやしないだろうか。竜自身が蛇だった
「契約って、昔の皇帝陛下と竜が交わした契約のことですか?」
「えぇ」
「竜との契約は絶対に反故にできないそうだから、竜のほうも
「そうまでして、竜は
「そういうことでしょうね」
「どうしてそこまでして……って、そっか。竜妃様になって子どもを生んだら……」
「竜と言えども命は惜しいでしょうから」
竜妃様は皇帝陛下との間に子どもを作らなくてはいけない。そのための契約だと聞いた。ところが子どもが生まれたら自分は死んでしまう。それを避けるために身代わりを寄越したということなのだろう。
しかし、それでは
「蛇は保存食。竜の代わりに皇帝に食べられて殺される保存食」
突然そうつぶやいた
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