第23話 提案
そんなわたしたちを見た
「後宮から逃げ出せたとしても、どうせわたしに行くところなんてない。それに逃げ出したことをあの男が知ればすぐに追っ手が来る。その後どうなるかなんて火を見るより明らかよ。それならこのまま後宮で捕らえられたほうがましかもしれないわね」
「帝室の方々への暗殺は、たとえ未遂や計画段階であっても極刑になります。上級侍女のあなたなら当然知っていますよね?」
「えぇ、知ってるわ」
「わかっていて、敢えて話したということですか?」
「だって、この命がある限りあの男からは逃れられないんだもの。そんな命、後生大事にしていても仕方がないじゃない。それならあなたたちに何もかもぶちまけて終わりにしたほうがいいかと思ったのよ」
(そんなふうに笑うしかないくらい追い詰められてたってことなんだ)
わたしが生まれ育った街もそこそこ酷い環境だった。金銭を得るために子どもを売る親もいれば、犯罪の片棒を担がせる親もいた。それでも
(その日食べることに精一杯で先のことなんて考える余裕がなかったってのもあるんだろうけど)
貧しい民でさえそうなのに、
(貴族も後宮も全然幸せそうに見えないじゃない)
毎日ご飯が食べられて上等な服を着て、寒くない綺麗な家に住むことができるのに幸せには見えなかった。皇帝陛下の次に大事だと言われている
(妃たちだって子どもを生まないといけないだとか皇帝陛下のお渡りがないといけないだとか、いつも大変そうだし)
そんな妃に仕える侍女も、準備をしたり駆け引きをしたりと大変そうだ。そうなると何も考えなくていい下っ端下女が一番幸せな気がしてくる。
(やっぱり下女のままが一番よかったってことかぁ)
下っ端下女から侍女になるなんてすごい出世なんだろうけれど、こういう面倒くさいことに巻き込まれるのは最悪だと思った。主が手のかからない美少女で、皇帝陛下のお渡りだとか妃同士のあれこれだとかに巻き込まれないだけましなものの、このままじゃ絶対に面倒くさいことになる。
(後宮の墓場って呼ばれるようなここが一番平和だったはずなのに)
ふと思ったことに「そっか、墓場か」と閃いた。
(ここには後宮の誰も近づかない。ってことは、後宮の外の人もここの中のことはわからないってことよね)
つまり、ここは秘密を隠すのに最適な場所ということだ。
(それに、どうせ巻き込まれるなら少しでも自分に都合がいいほうがいいし)
この状況でそんなことを考えるのはよくないのかもしれないけれど、一生を後宮で暮らしていくためには平和な後宮勤めが続くようにしなくてはいけない。
「よし」と思ったところで「
「あなた、まさかまたとんでもないことを考えたりしていませんよね?」
「わたしがいつ、とんでもないことを考えたりしたりしたって言うんですか」
わたしの言葉に
「陛下を地面に転がそうと考えた挙げ句、本当にやってのけたことを忘れたんですか?」
「コソコソ覗き見してた不審人物を捕まえようとしただけです。それにあんな覗き見野郎が皇帝陛下だなんて誰も思ったりしません」
「わからない振りをして『知りませんでした』と押し通そうとしただけでしょう?」
白々しいと言わんばかりの
「結局お咎めもなかったんですし、いまさら蒸し返さないでください。それにあのことがあったおかげで
「それは結果論です。一応あなたは
延々と続きそうな説教を「わかってますって」と無理やり遮った。そうして「だから、侍女はわたし一人じゃ駄目だなぁと反省したんです」ともっともらしいことを口にする。
「どういうことです?」
訝しむようにわたしを見る
「ということで、
「……何ですって?」
「だから、上級侍女の
わたしの提案に、
「
「もちろんです。そもそもわたし一人で
挙げればきりがない。それに、このままではよくないと
「だから、上級侍女の
わたしの提案に
「少しいいかしら」
それまで黙っていた
「先ほどから口にしている『こうしゅんさま』というのは、どなたのことかしら?」
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