入れ替わり
月は高く昇り、街が紅く染まる。
星がきらめくたびに命が消えていく。
飛び立ったカラスが死肉を啄む。
妖が雨のように雲から落ちる。月の影から這い出る。木の葉が姿を変え幹から零れだす。60年に一度の妖の日はまだ終わらない。
窓がびっしりと黒い何かで埋め尽くされている。カーテンを閉めてもわかる嫌悪感、ずっと見られてる感覚。部屋の真ん中に蹲って時間が経つのを、朝がくるのを待つしかない。
窓に石がぶつかるような軽い音がなる。気になって覗いてみると小さくて丸い黒が居た。
ただ見つめていると黒の中から黄色い目のようなものがポンと産まれる。それと目を合わせた瞬間物凄い勢いで目が増える。黒い本体も段々大きくなって窓を埋め尽くしてしまう。
ここまで10秒もかからない。お父さんがカーテンを閉めてくれたおかげでこれ以上大きくならなかったけど、私の小さい悲鳴を取り込んだせいか甲高い声で『アけて』とか『イれて』とか窓を叩きながらぶつぶつと話す。
優しく窓を叩く、激しく窓を揺らす、ボソボソと呟く声、不快な絶叫。それらが混ざり合った音は私達の精神をどんどんすり減らして行った。それでも朝までの数時間耐えたら良いという考えが唯一の希望で、それに縋っていた。
突然、外の音が鳴りやんだ。訪れる不気味な静寂。夜が終わったのかと期待して見た時計の針は、12時前を指している。途端、エアコンから風のように蛇口から水のように溢れ出てくる黒い物体。私は咄嗟に視線を外すが、どこを見ても部屋中にいる黄色の目と交差する。
私の視線を、息を、体温を吸収して大きく育っていく。目の数はどんどんと増えていき、口のようなものからは延々と言葉が繰り出される。
ついに黒い妖は父に、母に触れる。瞬き一つの間に全身が覆われて丸く縮む。周りの妖より一回り大きくなったそれはもぞもぞと動くと人型に成る。丁度同じ身長同じ顔、真っ黒な身体に黄色い目が本人ではないことを強く否定する。
『おいで、おいで』真っ黒な母は笑顔で言う。『一緒に行こう』真っ黒な父は手を差し伸べる。私は後ずさるが、後ろの黒に手が触れる。
目が外れる口が取れる。何も見えない叫べない。手がなくなる足がなくなる。身動き一つとれなくなる。頭が無くなる私が亡くなる。
時計の針が真上に揃った時、黒い家族が家の中で嗤っていた。
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