第31話「あるのだ、死角が」

「確かに、

【満智院さんが部屋を飛び出した瞬間、協会のカメラには全ての住人が映し出されていて】

【森に近い一番場所にいた、満智院さんを止めた村人たちは、やられた後も協会のカメラに映り続けており】

【うけい神社にいた人たちはまっすぐ下山していて】

【現在も村人のほとんどはカメラに映り続けている】のであれば、私に協力出来る人はいないように思えます。ヘンペルのカラスは成立しています」


 一見、どこにも隙がないように見える。

 村のみんなはずっとカメラに映り続けていて、協力者足りえる人物がいない様に見える。


「……しかし」


 引っかかるものがある。

 オユランドさんが言った4つの【  】。

 それは本来【九頭竜村の住人たちはずっとカメラに映り続けている】の一文で説明出来るはず。そうしないということはつまり。


「現在カメラに映っておらず、私の行動を先回りできる人間がいれば、ヘンペルのカラスは成立しません」


 あるのだ、死角が。


「……!」

「フン、いいだろう。しかし本当にそんな奴がいるのか? いたとして、どうやってその対象がカメラに映っていないことを証明する?」

「簡単ですよ」


 そう、それは。


「答えは、満智院さんが知っています。満智院さんが今まで超能力ハンターとして生きてきた知識が、教えてくれます」

「いったい、なにを……」


「ええ、満智院さん。よく動画で言われていますよね? 因習村や悪徳宗教団体で隠しカメラを仕掛けてある確率が低い場所を」

「お風呂と、トイレ……! なるほど、つまり!」


「そう、九頭竜村にはお腹を壊してトイレにこもり続けているバカが一人います! 満智院さんが部屋を飛び出した後、トイレに向かった可能性が高いバカが!」


「入っているか入っていないか、誰も確かめることが出来ないシュレディンガーのトイレ……!」


 そう。


「黒沢凛、それが私の協力者です」



『side:超能力ハンター 満智院最強子』


 白銀さんの推理を受け、オユランド淡島は笑う。


「──クク、ク」


 笑う、嗤う、哂う。

 何か緊張の糸が切れたかのように、先ほどまでのインチキ超能力者のような噓くさい表情を脱ぎ捨てて、子供の様に笑い続ける。


「ハーッハッハッ!」

「何がおかしいんですか! この勝負、私達の勝ちです!」

「……いや見事だった、マジでやられたよ。友情パワーここに極まれりだな」


 目尻の涙を拭きながら、だがな、と淡島は続ける。


「まだ根本的な問題が残っている」


 そう、まだ終わりではない。


「たとえ協力者がいようと出来ないことがある!」


 協力者の存在はヘンペルのカラスを崩す第一段階!


「【九頭竜村にはいたる所にカメラが仕掛けられている】! そして【森の中でカメラに映っている村人は白銀真白だけだった】!」


 残された疑問をぶつけるように、オユランド淡島が叫ぶ。


「つまり黒沢凛は、【真っ暗闇の中】! 【どこに仕掛けられたのか分からないカメラに映らず】! 白銀真白のサポートをしたことになる! こんなことが人間に可能なのか? 偶然のひと言で片付けるには出来すぎていやしないか?」

「それは、その……!」


 淡島の一気呵成な攻めに、白銀さんの言葉が詰まり。

 じり……とわずかに下がった身体を。

 しっかりと、力を込めて支える。


 今度こそ、私が。

 白銀さんに貰った勇気を振り絞って、一歩を踏み出す。


「ありがとうございます、貴方には教えられてばかりですわね」



 そして、以前石炭を出した時と同じように。

 懐から石を取り出した。



「なんだァ、その石は? またダイヤモンドでも作る気か?」

「それは、まさか……!」

「これは、どこにでも落ちている、少し見た目が綺麗な石ですわ」


 そう、これは所詮どこにでもある石ころに過ぎない。


「これを手に入れたのは、白銀さんに落とされた落とし穴の中」


 ただし、この場ではどんな宝石よりも美しく輝く。


「穴に落ちたとき、この石を見つけてピンと来ましたの。似たようなトラップが他にもあるかもしれない、これはその目印だと」


 同意するように白銀さんが首を上下に激しく動かし、補強の言葉を紡ぐ。


「それは満智院さんがくる当日に置いたものです。その、お恥ずかしながら子供の頃に仕掛けたイタズラが結構そのままになっていまして……撤去する時分かりやすいように置きました。結構量があったから大変でしたけど…その、色々考えながら歩いていたから、ほとんどの罠に置いてあると思います」


「なるほど、ありがとうございますわ。余計に情報の信用性が増しましたわね」

「だから何が問題なんだ! そんな物が何の役に立つんだ!」


 もういいだろう、と言わんばかりに淡島が吠える。

 吠えるが──そんなものは気にも留めず、白銀さんに向き直る。

 二人の世界に、余計なものは入ってくるなと主張するように。


「もう二つほど聞きたいことがございますわ、貴女が石を置いた時、不自然に片づけられた罠はありましたか?」

「いいえ、何も違和感は抱きませんでした」

「もう一つ、貴女が石を置いたことを黒沢さんは知っていますか?」

「ええ、確実に連絡しました……その、スマホを置いてきちゃったので証拠はないんですけど」


 それであれば、間違いなく──!


「であれば、黒沢さんがカメラの死角を知ることができました」

「だから、どうやって……!」


 憤るオユランド淡島に、銃口のごとく指を突きつけ宣言をする。



「さあ、嘘にまみれた解答編に入りましょう」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

うんこを漏らしたことで救われる命があった──

この作品を通して言いたいことはつまりそういうことなのです(適当)

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