第29話「悪魔の証明」
「悪いがここからが本番だぜ、満智院! 第一トランプは工場出荷時点で十二分にシャッフルされ、おれにも中身が分からない状態だった。この状態でお前が言ったようにカードの順番を操作しておくなんて可能なのかァ!?」
「……可能でしょう。その【協会】とやらの力を使えば未開封のトランプを作ることくらいは出来る筈です。もしくは単純に貴方がシュリンクを張るだけでもいいでしょう」
「トリック? 最初から仕込まれていた? バカ言うな、これは全て《未来を見通す目》による予知の結果だ。それともなんだァ? おれが最初に仕込んでいたという証拠でもあるのか? 今から工場に行って確認でも取るかァ!」
「ですが、これはトリックで再現可能で……!」
「だから、それがどうした? トリックで再現可能ということは《未来を見通す目》を使っていない証拠になるのかァ? ならねぇだろ! なあ、お前も見ただろう? 白銀真白の超能力を。これが存在するならおれの《未来を見通す目》が存在しないとなぜ言い切れるッ!」
悔しさに奥歯を強く噛む。
今まで超能力ハンターとして数々のインチキ超能力者の嘘を暴いてきた経験から、先入観を抱いていた。こういったものは全てトリックによるものだと思い込んでしまっていた。
いや、正直に言って今でもそう思っている。
間違いなく先ほどのトランプを使った予知はトリックによるもの。それは間違いがない。そうではくてはおかしい、もし本当に未来が視えるというのならばわざわざトランプなんてものを使わず、じゃんけん100連勝でもすればいいのだ。あんな手間をかけて能力を見せびらかす必要がない。
だが。
「最初から、これが狙いだったのですね──!」
そう──だからといって、あれが《未来を見通す目》によって起こされたものだと否定する材料もない。というより、不可能だ。そんなもの出来るはずがない。
「悪魔の証明」
淡島は胸に手を当て、おどける様に一礼する。
「一般的に言って『ないこと』を証明するのは『あること』を証明するよりも難しい」
当然だろう? と淡島は口角を釣り上げて嗤う。
「故に、この一連の予知を《未来を見通す目》によるものだと否定する術はない」
「~~~~~ッッッ!」
そして、淡島は片手で銃の形を作り、指先をこちらに向け。
「どん、ズバリ。《
そう呟きながら、銃口を僅かに跳ね上げて。
敗北の2文字が、わたくしの心臓を貫いた。
◆
『side:まだ何者でもない少女 単なる満智院』
脳裏を過ったのは、翡翠色の後悔。
あの日、自分が弱かったせいで先生は翡翠になってしまった。
そして今、あの時と同じようにオユランドさんたちは死地へと向かおうとしている。
止めようと思った。
助けようと思った。
でも、自分には無理だった。
結局のところ、自分はあの日から一歩も進むことが出来ないまま、今ここにいる。
どれだけ強くなろうと、どれだけ経験を積もうと、人はそう簡単に変われないらしい。
論理はそう言っている。
「──それでも」
脳裏を過ったのは、紫色の信頼。
──キミは、今日から
まだ何物でもなかった私に、名前をくれた親友がいた。
──先生みたいに超能力ハンターとして活躍すれば、先生を元に戻すきっかけが掴めるかもしれないね、最強子ちゃん!
『私』を『わたくし』にしてくれた彼女は、わたくしならそれが出来ると──ずっと、ずっとずっと信じてくれていた。
弱い『私』が吐いた『強くなりたい』という嘘を、『わたくし』なら叶えられると、信じてくれていた。
「──それでも」
脳裏を過ったのは、白色の決意。
自分と同じような立場で。
自分と同じような瞳をして。
自分と同じように、弱い自分を隠す嘘をついて。
それでも前を向いた、強い人。
彼女の白い輝きが、目に焼き付いて離れない。
「──それでも」
確かに、自分には力がないのかもしれない。勇気だって元々持っていない仮初のものかもしれない。名前も、目的も、全部借り物で、自分には何もないのかもしれない。
「──それでも、『ないこと』は証明出来ない」
「……何?」
「悪魔の証明」
そう、再び立ち上がる力も、勇気も『ないこと』は、証明できない!
『私』が、『わたくし』を信じて──満智院最強子であり続ける限り!
「何度でも、言って差し上げましょう」
今度こそ、目の前の誰かを助けることのできる自分になるために。そんな自分になれたと、胸を張って生きるために。
「オユランド淡島──貴方は、インチキ超能力者ですッ!」
宣言する。胸を張って、前を向いて。
この道で間違いないのだと、自分自身に言い聞かせるように!
「……おいおい、一体なにを思いつめていたのかは知らんが」
淡島は怪訝な表情を浮かべながら肩を竦めてみせ。
「悪魔の証明を破る方法なんてものはない。《未来を見通す目》が本当にあるかどうかなんて誰にも確かめようがない以上、それは永遠に証明することが出来ない。それともおれが負けを認めるまで駄々をこねるつもりか?」
「いいえ、悪魔の証明は破れます。その方法が一つだけ存在するのです」
「ほう。それは、どんな」
淡島の問いに。
わたくしは、はっきりと応えを返す。
「ヘンペルのカラス」
◆
『side:超能力ハンター 満智院最強子』
ヘンペルのカラス──それは、有名なパラドクスの一種。
『カラスは全て黒い』ということを証明する際、世界中の『黒くないもの』全てを調べ、その中にカラスが含まれていない場合、帰納的に『カラスは全て黒い』ということになるという荒唐無稽なもの。
「《未来を見通す目》なんてものは存在しない──それを証明したければ、わたくしがこの村で見た不思議の数々──《うけい様》《白銀真白》そして貴方の《未来を見通す目》が、科学によって再現可能なインチキ超能力だと証明すればよいのです!」
「ほう」
オユランド淡島の目が、ぎらりと光る。
「先ほどまで散々白銀真白とやりあって、その上おれと『うけい様との契約書』を使った勝負までしておいて、事もあろうにそれら全てがインチキだと証明する、か。正気か? 時間の無駄だ、負けたいなら大人しくそう言え」
「そ、そうですよ! いくら満智院さんでもめちゃくちゃですよ! だって私の金平糖は本当に超能力で……!」
「安心しなさいな。わたくしは正気ですし、負ける気もありません」
「………………チッ」
淡島は顎に手を当ててしばらく考え込み。
「なら、ハンデをくれてやる。『うけい様との契約書』はあまりにもアンフェアな契約には乗ってくれなくてね。おれが発言した内容の中で、絶対に正しく間違いのないものには【 】を付けてやる。【 】が付いた言葉は証明の必要なく真実だ」
「あら、随分とお優しいこと。負けたときにそれを言い訳にしないと良いのですけれど」
「抜かせ、おれが負けることは万に一つもあり得ない」
そう言って、自称超能力・オユランド淡島は不敵に笑って見せた。
「ククク……ククク……ハーッハッハー!」
笑う。嗤う。
「さあ! お前が見たもの全てを否定しろ! 不可能を証明してみせろ! できるものならなああああああああ!」
ああ、怖い。
理性は言うのだ。さっきまで散々目の前で見てきた白銀さんの超能力が存在しないしないだなんて大嘘、貫き通せるはずがない、絶対に不可能だと。
それでも。
「わたくしの名前は満智院最強子。超能力ハンター満智院最強子」
その言葉を、自分の全身に染み渡らせるように、ゆっくりと呟く。
「インチキ超能力者、《
そして少女は飛び立つ、偽の翼を携えて。
「貴方の嘘を、証明してさしあげますわ」
さあ、
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読んでいただきありがとうございました。
作品のジャン…ル…?うみ…ねこ…?赤き真実…?ちょっとそういう難しいことはわからなくて…大人の人に聞いてもらわないと…
もし面白いと思ってくださいましたら、
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