第28話「世界は不思議で満ちている」

「ここにあるのは、未開封のトランプ」


 九頭竜村を巡る一連の事件。

 最後の戦いは、オユランド淡島がトランプの箱からシュリンク包装されたトランプを取り出し、白い机の上に置いたところから始まった。


「このトランプは工場から出荷された時点で十分にシャッフルされており、並び順はバラバラ」


 淡島はトランプを扇状に広げ、こちらに掲げる。確かに不審な所はない。エースからキングまで全てのカードが4枚ずつ揃った、一般的なトランプだ。


「しっかり手に取って仕掛けがないか確認するかい?」

「いえ、結構ですわ。どんな仕掛けがあろうと見抜てしまえばよろしいだけのこと。それよりも早く勝負を始めましょう」

「……一度勝ってるからって随分とお優しいことで。ま、その方が助かるが」

「それで、今回はどうされるおつもりで?」

「前回と違って後出しはしない。今回は先にお前が引くカードを当てさせてもらう……もちろん、《未来を見通す目フューチャー・ヴィジョン》の能力によって」


 淡島は忌々しげに呟いて、トランプの中からカードを一枚取り出し、それを白銀さんに渡す。


「後から選んだカードを変えたと言われても困るからな、『予言のカード』はソイツに渡しておく。ああ、カードは満智院に見せるなよ? 未来が変わっちまうからな」

「わ、わかりました」

「これ以降おれは白銀真白が持っているカードに一切触れることはない。お前がカードを選んでから後だしで変更するのは不可能だと思っていただこう」


 白銀さんは受け取ったカードを確認し、胸へと抱く。それを確認したのち、淡島はトランプの山を絵柄が見えるよう表向きにし、その上から1枚ずつカードを別の場所に置いていく。


「このように、おれはカードを置ていく。好きな所でお前がストップをかける、OK?」

「ええ、では遠慮なく」

「そしてまず1枚目は……クラブの3だ」


 続いて、2枚、3枚……とカードが捲れていく。わたくしは無作為に適当な場所で「ストップ」の一言を放ち、その動きを止めさせる。


 その時淡島が持っていたトランプの柄は、ハートの7。


「このハートの7が貴方の予言したカードなのでしょうか?」

「まぁ落ち着け、これはまだ山を二つに分けただけだ。なんならハートの7のことは忘れてくれていい。今この机の上にはおれが捲り、お前のストップの声でめくるのを止めた山Aと残った山Bがある、そっちを覚えておけ。これを両方ひっくり返して絵柄が見えないようにする」


 淡島の宣言通り、机の上には絵柄の見えないトランプの山が二つある。


「好きな方を選んで指をさしてくれ」

「……では、山Bで」

「OK。それじゃあ満智院、山Bの一番上にあるカードをめくってくれ」


 山Bの山からカードを一枚取り出し、表にする。

 そこに書かれていたのは……スペードの5。


「こ、これって……!」


 そして──そのカードを見た白銀さんの顔が驚愕に歪んでいく。

 彼女が胸に抱えていたトランプがゆっくりと机の上に置かれ、その絵柄が顕になる。

 それは……ハートの5。


「それだけじゃない。山Aのカードを5枚めくってみるんだな」


 淡島の言葉に従い、山Aのカードをめくると……。

 そこに現われたのは、ダイヤの5。


「そしてこれで最後だ。ここまで来ればおもうお前もわかっているよな? 山Aの次のカードは──!」


 当然、クラブの5……!


「どん、ズバリ……!」


 彼の予言通り、机の上に置かれた4枚の『5』。


「どうだ、これがおれの《未来を見通す目》だッ! おれの予言がインチキだと言うのなら、どうやって『5』を予言できたのか言ってみやがれッ!」

「~~~~~ッッッ!」


 白銀さんは彼の勢いに気圧され、奥歯を強く噛みながら目の前に置かれた4枚の『5』を見つめていた。

 確かに、一見して不可解。偶然『5』が4枚揃った──なんてことはあり得ない。


 だが。


「意図が分かりませんね」


 顎に指を載せ、抱いた疑問を素直に口へと浮かべる。


「……ほう」

「先ほど行われたオユランドさんの手品──それは至極単純なトリックにより再現が可能です」


 机の上に置かれていたトランプの山を一つの山にまとめ、『5』を4枚抜き出す。

「先ほどからオユランドさんはカードをめくらせたり、山を2つに分けたりと、なにやら色々苦労をなされておりましたが──」


 抜き出した『5』を山の上から5番目と6番目、そして一番後ろに仕込んでいく。残った1枚は机の上に放置。

 そして、先ほど彼がやったのと同じような手順で山を2つに分けていく。


「あっ……!」


 そこで、白銀さんが声を上げる。


「そっか、結局これって満智院さんがどこでカードを止めようが関係ないんですね! あらかじめ山の一番下に仕込んでいた『5』が選ばれるようになってるから、絶対に5番目と6番目のカードが表になる様になってて……!」

「ええ、その通り。言ってしまえばこれは極々ありふれたカードマジックです。動画でも見ながら少し練習すれば一晩で習得できてしまうもの。だからこそ……」


 そこで言葉を切り、オユランド淡島を挑戦的に見据える。

 期待を込めて、確信を込めて。


「この程度だとは、到底思えない。貴方にはまだ何か、奥の手がある」


 獰猛な殺意を視線に載せて、狩人ハンターの挑戦状を叩きつける!


「ハッ……随分と高く買って貰えて光栄だねぇ」


 そして、視線を受け取った淡島の喉が、ごくりと鳴り。


「期待には応えねぇといけねえよなァ! なんせこっちは3流エンターテイナーだからよォ!」


 叫び、獲物は捕食者の牙を向く。


「いいぜ、見せてやる! これがおれの奥の手だッ!」


 淡島が取り出した牙、それは。



『うけい様との契約書』



 彼によって掲げられたそれは、淡く、光に満たされていき……。


「さっきから、お前たちが何の話をしているのか全く持って理解不能だ。最初から言っているだろう、この予言はトリックによって引き起こされたものではなく、《未来を見通す目》によるものだと。お前たちはただその事実だけを受け入れて、敗北を認めればいい」


「……何をおっしゃるかと思えば、負け惜しみですか? そんな《未来を見通す目》なんて荒唐無稽なもの、ある訳が」



 そう、荒唐無稽。


 あり得るはずのない、超能力。

 そんなもの、ある筈が。


「~~~~~ッッッ!」

「随分と気が付くのが遅かったなァ! 満智院ン! それともかつて瞬殺したモブの言った事なんかすっかり忘れちまってたかァ!」


 どうして、そんな簡単なことにも気が付かなかったのか。

 先ほどまで、散々見ていたじゃないか。


「《未来を見通す目》は、存在する! 白銀真白の超能力と同じようになァ!」




 そう、世界は不思議に満ちてしまっている。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 読んでいただきありがとうございました。

 そう、実はこの作品って満智院さんがインチキ超能力者の嘘を暴く作品だったんですよ…!作者もちょっと忘れてた!あと手品シーン書くの本当に難しくて……もう二度とやりたくない……


 もし面白いと思ってくださいましたら、

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