第27話「……関係ないだなんて、寂しいこと言わないでください」
『side:超能力ハンター 満智院最強子』
「ところで、白銀さん。この地下空間はご存知でないとのことでしたが……心当たり自体はありませんの? 例えば最近この村で珍しいことが起きたとか」
「あー……えーっと、そのぅ……」
白銀さんはチラチラとわたくしの胸元についたカメラに視線を送る。村の秘密に関わる事だ、配信に乗るのを恐れているのだろう。
「ああ、これは気になさらず。貴女のペイントボールが当たった時点で壊れてしまいしたの。もう配信は止まっていますわ」
「す、すいません。あとで弁償します」
「お気になさらないでください、あの時はお互い様ですし、超能力ハンターに荒事は付き物ですからね。カメラは消耗品と割り切っております」
それに、とわたくしは続け。
「まだ詳しいお話は聞けてはおりませんが、もうわたくしに九頭竜村の隠し事を暴く気はありませんわ。貴女の様子を見る限り、悪意があったり誰かを騙そうとしていたようにも思えませんし……というかある程度察しはついていますもの、おおかた村おこしのために因習村をでっち上げたら想像以上に話が大きくなってしまった、というところでしょう?」
「え゛っ……いやー……ちなみになんでそう思ったのか聞いてもいいですか?」
白銀さんの顔が愉快に歪む。ビンゴなのだろう。
「簡単な話ですわ、そもそもわたくしが九頭竜村の事を怪しんでいたのはこの村の方々が悪い方たちだという先入観があったからで、九頭竜村全体が貴女のように……その……愉快で善良な方々であると仮定すれば、自ずと理由は見えてきますもの。やけに夕食が豪華だったのも宣伝の一環だったのでしょう?」
「あはは……お恥ずかしながらその通りでして……いやお金に目がくらんだ瞬間はないと言えば嘘になるのですが……」
「もちろん、その点は反省が必要ですわね。動画を見てくださっている方々や世間の方にも説明が必要でしょうが……それはおいおい、この白い部屋から脱出してから九頭竜村のみなさまと一緒に考えることといたしましょう」
「ありがとうございます。そう言って頂けると助かります……」
「それで、この地下空間の心当たりですが」
「そうですね──」
白銀さんは少しの間顎に手をやり、悩むような仕草をしたあと。
「本当は、この村おこしってこんなに上手く行くはずじゃなかったんです」
「と、いいますと?」
「村中に監視カメラを仕掛けるようなお金なんてなかったですし、テレビやインターネットでの宣伝なんて夢のまた夢。私や凛がSNSで宣伝するのが関の山です、私たち以外みんなおじいちゃんおばあちゃんでネットなんて使えませんから。でも、」
「そうはならなかった」
「ええ、なぜなら……」
白銀さんは、その続きの言葉を紡ごうとして、
「どん、ズバリ」
聞きなれた決めゼリフにかき消された。
簡単な消去法だった。
この九頭竜村を巡る事件において。
九頭竜村に疑わしい人物はおらず。
当然わたくしはこの地下を知らず。
つまり、導き出される答えは一つしかない。
白銀さんは目を見開き、わたくしは溜め息を吐いて視線を後方へ向ける。
そこには──
「おれたち【協会】がこの村おこしに協力して、金と人員を惜しみなく投入したからだ」
生野菜とサプリメントだけを食べて生きてきましたと言わんばかりの不健康な白い肌に、鶏ガラの擬人化みたいな細い身体。
一目見ただけで真っ当な社会生活を送っていないとわかる。
間違いなく9時5時に出社して会社勤めをしているタイプではない。
あの時と違ってキチンとその細身に合ったダークグレーのスーツを着た、その男は。
「まったく、人の家に入る時は玄関からって教わらなかったのか?」
《
「さ、もういい時間だ。さっさと帰って『2001年宇宙の旅』でも見ながら寝るんだな」
インチキ超能力、オユランド淡島だった。
◆
「……ったく、アホだアホだとは思っていたが、まさか自分の村の神社をぶっ飛ばしちまうとはな。淡々ちゃんのビビりもあながち間違っていなかった訳だ」
「い、いやぁ……すいません、戦ってたらテンション上がっちゃって……」
「神社に着いた時点で村人たちが逃げたのは分かりきってたんだから大人しくトンズラこきゃ良かったじゃねえか」
「ぬぎゅ……せ、正論は時に人を傷つけるんですよ! だいいちあの時はいっぱいいっぱいでそんなことまで考えている余裕がなかったって言うか……!」
オユランド淡島はうんざりしたように呟き、白銀さんはそれに猛然と抗議する。
そのまま2人でやんややんやと口論が始まったので、わたくしはその間に割って入り、淡島へと問いを投げた。
「貴方、テレビの時と随分雰囲気が違うのですね」
「悪いがこっちが素でね。テレビなんて家事したり会話したりしながら見るもんだからな、パッと見て分かるよう必死こいて分かりやすい超能力者を演じてたって訳だ。満智院お嬢様は着ぐるみのチャックが見えると萎えるクチかい?」
「いえ、誰かを喜ばせようと努力している人には好感が持てますわよ、それは賞賛されるべきものです」
「あー……」
淡島はガリガリと頭を掻き、バツが悪そうに目を逸らし、わざとらしく肩をすくめて軽薄に笑う。
「そりゃどうも、アンタにそう言われちゃあおれもまだまだ捨てたもんじゃないな……いや、まぁいいさ。今はそんな話をしている場合じゃない」
「そうですわね……それで、貴方は帰れと仰いましたが……あるんですの? 帰り道。それと、当然この空間についてもご説明頂けるのでしょう?」
「帰り道はお前らがぶっ壊した向こう側にエレベーターがある。乗っていけば森の中へ出れるだろうさ。ここの説明については……あー……そうだなぁ……」
淡島は少し口ごもり、やがて諦めたように溜め息を吐いて。
「ま、ここまで来たら隠す意味もねえわな。いいぜ、話してやるよ。おれたち【協会】がここで何をしようとしていたのかを」
オユランド淡島の話を要約すると、以下のようになる。
・白銀さんの様に特殊な能力を持った人や物、事象は『│異なるもの《ディスパル》』と呼ばれている。
・【協会】という組織は、『異なるもの』を確保し、保管・研究を行っている。
・オユランド淡島を含む、生放送の3人組はその【協会】の下っ端である。
・この白い地下は【協会】の九頭竜村支部である。比較的小さな支部なので、現在は生放送の3人組のみがここで働いている。
・『異なるもの』には【都市伝説化】という共通した特性があり、多くの人にその存在が知られたのち、その異常が否定され、あるいは認知の外へと追いやられた時、『異なるもの』は弱体化する。
・【協会】は『うけい様』を弱体化させるため、九頭竜村の村おこしを盛り上げつつ、わたくしに全ての秘密を暴かせようとしていた。
「っつー訳だ、分かったか? ……なんだ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「いや、内容にも驚いてはいるのですが、随分あっさりと秘密を喋ってくださるのだな、と」
「お前が聞いてきたんじゃねえか……いや、まあそうだよな。おれが同じ立場だったらそう思うだろうさ。けどなぁ」
淡島はそこで言葉を切り、力なく頭を掻きながら、
「ま、もうどうでもいいんだ。全部終わったことだしな」
どこか遠くを見て、そう言った。
「どういう意味ですの、それ」
「さっきの爆発で『異なるもの』の一体、『│
淡島は相変わらず軽薄そうな笑みを湛えながら、面倒くさそうに肩を竦めた。
「さ、これで理由はわかったろ? ここからはお前たちには関係ない。さっさと回れ右して帰んな」
「……」
淡島の言葉に、白銀さんは何事かを深く考え込むような仕草をして……やがて、意を決したように口を開いた。
「……帰るわけには行きません」
「あ?」
「だってそんなの、私のせいじゃないですか。私があんな所で爆発なんて起こすから……!」
「……地下にこんな危ないものがあるなんて知らなかったんだから仕方ねェだろうがよ、ガキが余計なことまでしょい込むんじゃねえよ」
「それに!」
白銀さんは叫ぶ。
目を逸らそうとする淡島の顔を、その両手でしっかりと掴み。
虚ろに歪む、彼の目をまっすぐに見据えて。
「どんな理由があったにせよ、一緒に村おこしを頑張った仲間じゃないですか! ……関係ないだなんて、寂しいこと言わないでください」
「だから言ってるだろ、おれたち【協会】はその村おこしを失敗させようとだな……」
「知りません!」
「いや、だから……っ!」
「知りません!!!」
「話を聞けって……っ!」
「知りませんったら知りません! 私にとってのオユランドさんは、いっつも斜に構えてる癖に芦川さんのお尻に敷かれてて、頼みごとが断れなくて、情けないけど真面目で……!」
白銀さんはそこで言葉を切り。
ぽろり、と一粒の涙をこぼした。
「そんな人だっていうことを……私は知っているから。知ってしまったから」
そんな彼女の様子を見て、淡島は面倒臭そうに頭を掻いたあと。
「……はぁ、ったく……これだからガキは嫌なんだ」
溜め息を吐きながらそう呟くと、白銀さんの手を無理やりに振りほどいて。
「まんちいーん、お前これの保護者だろー? なんとかしてくれ」
「あら、わたくしも白銀さんの意見に賛成ですわよ。こんないい子を泣かせるだなんて、大人の風上にも置けませんわね」
「そうですそうですー! かざかみー!」
「チッ……」
「第一その『家族計画』とやらは少し特殊な狼みたいなものなのでしょう? 狼位なら勝てますわよ、わたくし」
「……確かにお前なら狼を倒しても不思議じゃないし、なんなら独りでマンモスを狩るくらいのことはやりかねないが……それでも危険すぎる。だから、」
「あら、心配してくださるのね。でもご安心を、わたくしこれでもそれなりに強いので」
「そうですそうです! 満智院さんはもう、本っ当に強いんですから! 戦った私が言うんだから間違いありません!」
「あ゛ー……ったく、なんなんだお前らは! 面倒臭いったらありゃしねぇ!」
淡島は苛立たしげに舌打ちすると、懐から無線機を取り出し。
「進太さん、淡々ちゃん、アレをやるぞ」
『まあ仕方ないね、そうなる気はしてたよ』
『男見せろよ~! ざこざこ超能力者く~ん』
「うるせぇ! お前らも先にくたばるんじゃねえぞ!」
淡島は無線機の通話をブチリと切ると、こちらに向き直り。
「お互いの意見は平行線。じゃあもう単純にこれで勝負をつけよう」
そう吐き捨てて。
淡島は懐から未開封のトランプと一枚の紙を取り出す。
「超能力ハンター満智院最強子、おれはお前に勝負を挑む。おれが勝ったらアンタらは全部忘れてここから出て行く。お前たちが勝ったら好きにしろ」
彼が取り出した紙は──そう、あの時生放送で黒沢凛が出したものと同じ。
『うけい様との契約書』
「この世は不思議で溢れている」
そこまで言って、にやりと笑い、続けた。
「科学はいつだって正しくて万能、そんな事を言う輩がいるがそれは大きな間違いだ。大抵のことは科学で説明がつく、科学で説明できないことも世の中にはまだまだ沢山ある」
目の前に立つ男は、そう言って挑発的にトランプの箱を翳してみせた。
「例えば、おれの超能力者とかね」
《異なるもの》
ケースNo,0028:『うけい様』
非現実度:2
現在判明している、異常は──
「さ、引きな。どれを引いたっていい、どんズバリと当ててやろう。おれの《
契約の、絶対順守。
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読んでいただきありがとうございました。
オユランドを動かしてるとき、いつもやれんのか?やれんのかオイ!という気持ちです。
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