第16話採取とゴブリン

 次の日もソランはついて来た。

 宿に泊まって一戦して冒険者ギルドに納品して、そのままその日も採取に出ることにしたのだ。


 まずい、ちょっとつまむだけのはずだったのに!


 ソランはゲーム開始時とは雰囲気がまるで違う。

 3年先の未来ではもっとお色気魔法使いという位置付けだったのに。


 その3年間でうぶで陰気だったソランを誰が変えてしまったのだ!


 俺か、俺なのか!?

 えっ、俺はゲームに登場していないモブの中のモブだよね!?


 ソランがまがりなりにも王都の採取経験者だったから連れて行って、おつまみして……普通について来た。


 俺が未成年だとわかったからそのまま逃げるかと思ったが、ごくごく普通について来た。


「クスハさん、あそこに木の実がありますよ!」

「あー、ありがたいね。採取してドライフルーツを作ると保存食はかなり助かるね」


 そしてごく自然に仲間風になった。

 おかしい。


 後ろめたくないはずなのに、イルマに見られたらどうしようと考えてしまうのはなぜだ!

 これは浮気ではない、浮気ではないのだよ!


 それはさておき、王都の人よりも効率が良いとはいえ、採取はあまり大きな金にはならない。

 よほどレアな薬草や木の実を取らないと金にはならない。


 食べられるそら豆も見つけたが、それをじっくり採取していては一食分は助かるが、お金にはならない。

 なのでパッと見て取れる分だけ採取する。


 昨夜はソランが魔力のある薬草を見つけたので、それがそこそこの金になった。

 今日も採取を行い、次回までには背負いナップサックを手にいられるはずだ。


「クスハさん! これも魔力草です!」

「うんうん、クスハでいいからね?」

「いえ! クスハさんで!」


 君、なんでか懐いてない?

 抱いちゃったから心が近くなったのかな、やり逃げする気だったんだけどなぁー。


 スッと手を横に出してソランを静止させる。

 緊張を滲ませながらソランもその指示に従う。

 たった1日で度胸がついたのか、心境の変化でもあったのか、今度は悲鳴をあげる様子はない。


 ゴブリンが2匹、昨日よりも距離が近い。

 やり過ごしても良いが、その場合、今日の採取場所を諦める必要がある。


 ゲームでいえばサクッと殺して経験値稼ぎをするのが妥当だろう。


 しかし、どうにもこのゲーム世界は殺してさっくりレベルアップとはいかない感じだ、当たり前なんだけど。


 レベルアップシステムよこせ。


 魔石から力を吸収できるという説もあるが、それはもっと遥かに上位の魔物を倒したら、の話だ。

 ゴブリン程度では電池一本分の魔力もないだろう。


 さすがレベル1の敵。


 俺は指でゴブリンを示し、ジェスチャーと口パクで始末することを提案すると、緊張を滲ませた目でソランは頷く。


 リラックスを促す意味で微笑んでやると、ソランは赤い顔で照れたあとに柔らかく微笑み頷いた。


 イイ〜顔ね?

 今日も一戦ヤリたくなるわ、さすがメインヒロインの1人。


 おっと、いけない、いけない。

 メインヒロインに手を出すと、面倒ごとに巻き込まれるのは間違いない。

 ソランとは今回限りにしておかなければならない。


 飛び出しゴブリンの不意をつく。


 どんな戦闘もそうだが、殺し合いであるので不意打ちは当然。


 身体は大きくても未成年の俺は、不意打ちが失敗すれば撤退も視野にいれつつ立ち回らなければいけない。


 ナイフに炎の魔力を纏わせてゴブリンの喉を切り裂く。


 吹き出す血を避けるように切り裂いたゴブリンの背に回り、もう一方のゴブリンから距離を取る。


 もう一方のゴブリンがこちらに意識を全集中したところで。

「ウィングエッジ!」


 スパッと緑色した風の刃がゴブリンの首を刎ねる。

 大した威力だが、不意打ちだからこの威力なのだ。


 人も魔物も魔力耐性がある。

 身構えていれば武器で弾くことも不可能ではない。


 ゴブリンにはできない技量だけど。

 ちなみに魔力を剣に纏わすことも普通の人はできない。

 ゲームの中で魔法剣士の上級技の一つだ。


 別に俺が魔法剣士のジョブを手に入れたとかではない。


 そもそもスキルとかレベル同様、ゲーム的なジョブなんてものがあるのかどうかすら疑わしいとわかった。


 微妙なリアル感なのが悲しい。

 その代わりにではないが、俺はゲームの技を制限なく使えるようだ。


 来たよ、コレ。

 当然、子供なので全てを使える体力魔力技量がない。


 体感レベル7で全技使用可能、ただ魔力などがまったく足りない。

 チートのはずなのにチート感がまったくない不自由感。

 これからに期待だ。


 王都ではゴブリンの魔石をギルドに提出すれば、少ないながら報酬金が発生する。


 そうすることで王都周辺は自然と安全地帯が広がると共に冒険者の生活も成り立つ。

 金があるからこそできることだ。


 冒険者ランクとしてはS、Aから始まり下から2番目のDランクの仕事ではあるが、今回は上々の収入と言えよう。


 そしてホクホクとしながら冒険者ギルドをソランと2人で出て来たところで。


 イルマに見つかった。

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