第14話冒険者というお仕事

「イルマも冒険者ギルドに行く!」

「まだ登録できないぞー?」


 俺の背中に肩口を吸い付くイルマ。

 昔からではあるが、こうして懐かれると嬉しいものだ。


 顔を合わせない時間も増えて久々に顔を見ると、イルマはやはり可愛いのだと改めて実感する。


 身体も成長して来て、この3年間でさらに成長するだろう。

 透明感のある肌に柔らかくなびく黒髪に鮮やかで柔らかそうな唇。


 手付けにキスぐらいしていいかなぁ……危ない危ない!!

 存在だけで人を惑わすイルマ。


 なんてオソロシイ子に育ってしまったのだろう!

 主に俺のせいだが。


 せっかくなので連れて回りたいが。

「ん〜、着いてくるにも安全性を確保してからだな」

 登録できる1年間の間に安全を確保しておく必要がある。


「危ないの?」

 可愛らしく首を傾げる。

 あざといが狙っているわけではない、はず。


「イルマほど可愛いと、どうしても危険だからね〜」


 美人なことはいいことばかりではない。

 実際は危険な目があったり、不要なアプローチをたくさん受けたりと面倒なことの方が多いと聞く。


 割り切ってモテるアピールする方が楽かもしれないが、そうそう割り切れる人は多くないだろう。

 守れる限りは守ってやろう、最終的に美味しくいただくけど。


「む〜、可愛いは楽じゃない。それでもクスハを誘惑できるから仕方ない。将来的にクスハが手を出してくれるのはお母さんのことでもハッキリしてるし」

「ははは……」


 俺とベネットの関係バレてる?

 そういえばこの手のことって、ロキシ村の感覚では母娘の間では隠したりしないのかも。


 それでも冷や汗が出るのはなぜだろう。

 この子、とんでもない魔性の女になったりしない?


 冒険者というお仕事に限った話ではない。

 弱い者は食いものにされる。

 荒くれの中に子供が紛れ込めば、それはエサでしかない。


 ましてやイルマほどの美少女。

 その身を狙うケモノはロキシ村の比ではない。


 ゲームに限らずあらゆる物語でこの辺りは不思議で、子供の主人公がなんの問題もなく冒険者の仕事ができていたりする。

 それほど冒険者というのは社会性モラルが高いのだろうか。


 そうであれば非常に助かる。

 ゲーム世界なのだ。

 村が壊滅したり美人局に騙されたりせずに、たまには緩い社会構造になっててくれ!


 そう思いながら俺が調査した感覚では、場所によりけり、その落差はかなり激しいとわかった。

 なるほど、前世でも治安の良いところと悪いところの差は激しい。


 真夜中でも若く可愛い女が1人で歩けたりする街もあれば、夜になった途端、男女問わず街を1人で歩くこと自体が自殺行為という街もある。


 王都はやはり相当治安は良いが、それでも冒険者ギルドにより安全性はマチマチだ。

 女だけの冒険者ギルドもあるらしいが、それはそれで上手くいかないものだとか。


 学校職員からも表向きだけの友人である生徒からもオススメの冒険者ギルドを聞いて、その中で3つに絞り込んだ。


 後は最終確認をするだけだ。

 でも、面倒だなぁ。


 冒険者ギルドAにて。

 可愛い受付のお姉さんにギルドと冒険者のことを聞いて、後日、改めて登録に来ることにした。


「親父、酒を一杯」

 それからバーカウンターで冒険者始まりの記念だからとモヒカン親父に酒を注文する。


 この世界の冒険者ギルドは酒場でもある。

 人が集まり交流するためでもあるし、冒険の成功を酒で祝うためでもある。

 だから役所のようにガチガチでもない。


 酒は本来、成人15才からなんだが酒を出す店は出すし、それを注意する大人はそうそういない。


「……ガキが。ミルクにしとけ」

 そう言ってモヒカン親父は俺をひと睨みして、酒ではなくミルクを出した。


「これは奢り?」

「ママのおっぱいの代わりだ。それ飲んで帰れ」

「さんきゅ」

 俺はそれを一息に飲み干しその冒険者ギルドを後にした。


 冒険者ギルドBにて。

 受付は今時見かけないトンガリ帽子に暗い顔したお姉さん。

 ぶつぶつと小さな声でギルドと冒険者の説明をしてくれる。


 大半、よく聞こえなかったので聞き返すと、涙目になってさらに言葉がどもり出した。


 その際に整った顔と意外にも良い肉付きの身体がうかがえた。


 なので、もっといじめてベッドに連れ込みたくなったが、今回の目的はソレではないのでグッと堪えた。


 名前はソランで魔術師学園の劣等生で、アルバイトで冒険者ギルドの受付をしているそうだ。


 連絡先までゲットしたところで、バーカウンターに移動して細身かつ目が細い男に酒を注文する。


「未成年に酒はおすすめできませんが……」

 口頭だけ注意しながらも酒を出してくれた。

 それをクイッと飲んだふりをしながら、水袋に入れ替えて持ち帰った。


 冒険者ギルドCにて。

 受付嬢はまさに色気たっぷりの嬢だった。

 説明もほどほどに酒を頼むと琥珀色した高級ボトルで酒が出て来た。


 逃げた。


 結局、未成年に酒を出さなかった冒険者ギルドAで登録することにした。


 ただでさえ酒は判断力を鈍らせる。

 それをガキに出すギルドは少々信用には値しない。


 ま、それも含めて自己責任ではあるわけだが。

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