第10話ロキシ村壊滅

 魔物を殺せばレベルが上がるという世界がある。

 ゲームでもそうだった。

 レベルシステムがあれば、そうするのが1番効率が良いしゲーム性も高まる。


 現実ではどうか?

 1人斬り殺せば2段という話も聞いたことがある。

 それだけ生命を奪うという行為は重い。


 大量虐殺すれば経験値を得てレベルがあがる。

 確かにそれほどに生命を奪った者の精神性は何かが違う。

 そこまでいけば新たに相対する生命を奪うことに今更何を思おうか。


 どれほど簡単に生命が失われるかを肌で知ってしまうというべきか。

 だから能力値が上がるというのは何かおかしい気もするが、あくまでゲームだからで通じる。


 何が言いたいかといえば、この世界もゲームと同じ魔物を殺してレベルアップするならば、今頃俺はニンゲンを辞めている。


 体感として、魔物をたくさん殺したからといって大きく変わった気がしない。

 多少ではあるが戦い慣れしたし、殺し慣れもした。

 魔物と命懸けで戦うことで生きるための対応力もつく。


 イルマも俺にくっついているので、そうは見えないが魔物慣れした。


 危険な森に入るにあたり、イルマの命を背負うことはできないが、勝手について来るので仕方がない。

 自分の命をどう使うかはイルマの自由だ。


 どうせゲームエンディングでは主人公と一緒に生首だろうし、それまでどう生きるかはそれこそ俺の関与することではない。


 だが、村を囲んでいる100を超える魔物を相手に無双はできそうにない。

 まあ、そもそもしないけど。


 畑の方が燃えているのか、火の粉が見える。

 ゲームでも辺り一面の家々が燃え盛っていたる描写はよくある。


 でも、ちょっと待て。


 人同士の戦争でもあるまいに魔物の侵攻でなぜ家が燃えているのだと、俺などはツッコミを入れたものだ。


 火を吹く魔物も存在はしているが、今回の主な魔物はゴブリンやオークなどがメインだ。

 火は吹かないし松明も使わない。


 つまり人間が自分で火をつけたのだ。

 魔物の侵攻を遅らせるためだろう。


 そのついでで俺は村のウィリアムとかいうオッサンの家は燃やして……ゲフンゲフン。

 それはともかく。


「ここはワシに任せて先に行けぇぇえい!」


 そんなわけで村は大ピンチです。

 すでに村の中にまで魔物が入り込み村長の家に村人が避難する。

 村人たちを逃がすためクワを持って村長が獅子奮迅の活躍をしている。


 見た目にはわからない剛腕でゴブリンを一刀両断。


 魔物たちはゴブリンだけではなく、コボルトや身体のでかいオークも混じる混成軍なのは魔王の影響なのかもしれない。


 ゴブリンなどの魔物に村が襲われることはよくある。

 開拓村などはそれこそ毎日のように襲われて、村人全員が喰われたなどという事件まである。


 第3次セボク開拓村の惨劇などは今でも語られる恐ろしい事件だ。

 日が暮れて一軒一軒すり潰すように魔物に殺されていったという。


 第3次は大惨事だいさんじとまで言われ、以来、どこでも第3回目の開拓村は護衛を多数用意するようになったとか。


 ところが一般の村で壊滅するほどの魔物の襲撃はそうそうない。

 少ないだけでないわけではないけど、そうなる前に大体は気づく。


 魔物の監視をしなかったせいだけではなく、襲撃があまりに急激なのだ。


 ゲーム開始時にはそれがさらに増えて日常にもなっていくことから、これもまた魔王出現の予兆なのかもしれない。


「村長ぉぉおおおお! お主だけで逝かせぬぞォォオオオ!!」


 戦斧を振り回し、見た目とは違い勢いよくダゴロクが村長の隣に並ぶ。


「おお、タゴロク! 思い出すのう、2人で腰を振りまくった100人斬りの夜のことを」

「ぬかせ! どさくさに紛れて俺の嫁を寝取ったではないか!」

「貴様こそ、ワシの幼馴染を寝取ったではないか! あの娘はワシの母になってくれるかもしれなかった女ぞ!」


 そう言って2人は戦場でガハハと笑い合う。

 その2人の益荒男ぶりを見て、村人が感動の涙を流す。


 あの2人なかなか酷い話してるけど?

 村人の女は100人もいたの?

 何人か男が混じってない?


 何年前のことか知らないけれど、ほとんどの人が村長とタゴロクのお手つきになってるよね?


 2人は返り血を浴びながら目に付く魔物を狩り、村人たちへの活路を拓く。


 ふと目があったタゴロクが俺に告げる。

「……息子よ、強く生きろよ!」

「ダディ……」


 えっ、俺の本当の父って村長じゃなくてタゴロク?

 あー、乱交文化の村だもんね!

 同時期ならどっちのタネかわかんないもんね!


 もう俺の母ちゃんの顔を真っ直ぐに見れなくなりそうなんだけど!?


 村人が一斉に2人が切り拓いた道から脱出を図る。

 追いすがる魔物。


 かつてトマソンさんと腰を振っていたメリル奥さんに、追いついたゴブリンがナタを振り下ろす。


「メリルー!!」

 そこに我が父(表向き)が割って入り、メリルをかばい抱き締める。


「ああ……、愛しいゴルドン……」

「ああ……、俺のメリル(人妻)……」

 見つめ合う我が父(表向き)と人妻メリル。


 そのゴルドンをゴブリンが刃物が貫く。

 うん、時と場所を選ぼうね?


「ファイアランス」

 俺がゴブリンを討伐。


 壮絶な最期を迎える父(表向き)は、そこでようやく俺に気づき笑った。


「あとは……任せたぞ、息子よ……」

 そう言って力尽きた。


 「ゴルドォォオオオン!」

 泣き崩れる魔性の人妻メリル。


 父よ、あんたも不倫してたのね。

 どうしてだろう、涙が出ないのは……。




 そこから3日。

 隣村から援軍の村人が到着するまで、残った村人と協力しながら魔物を防いだ。

 罠も使ったし、魔法も使ったし、練習中の剣も使った。

 それでどうにか、というところだ。


 イルマは俺に引っ付いて離れなかった。

 そんで全部終わってから俺にしがみ付いて泣いた。


 後日、焼け野原となった村では村長とタゴロクが立ったまま戦死していたそうだ。


 生き残った村人は近くの村、もしくは街で仕事を探してどうにか生きることになる。

 ロキシ村はゲーム通り滅びたのだ。


 俺の家族は父(表向き)が亡くなった。

 俺と10離れた兄が家長となり、母とまだ幼い妹と弟、これからの生活は大変だ。


 イルマの家は両親と妹共に無事だった。

 我が家はベネットの伝手で王都で仕事を探すことになった。


 俺の家族とイルマ家族を乗せた荷馬車がゆっくりとロキシ村を後にする。


 どこまでも続く草原。

 陽に照らされた山々が緑に輝く。

 遠くに見える景色も日の光を反射して色鮮やかに目に映る。


 こんなときだが世界は綺麗なのだと思った。


 さよなら、ロキシ村。

 そしてさらば、父よ!!

 俺は色々な真実をこの村に置いて行くよ。


 誰が真なる父だったかは母には絶対に聞かないでおくよ。

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