第9話イルマの結婚

 俺は12才になった。

 イルマに結婚話が出た。


 1人でトコトコと村を歩いているときに、偶然を装った村長に呼び止められてそんな話を何気ないことのように告げられた。


 相手は副村長派のウィリアム。

 名前が貴族っぽいがオッサン農夫だ。

 御年35才、イルマと2回りの年の差だが村ではよくある事だ。


 これは村内政治である。

 人が3人いれば派閥ができる。


 規模は違えど、村でも権力構造は発生している。

 街から町、そして村など権力で動く人数が変わるだけで全て一緒だ。


 こういった工作や謀略はなにも貴族だけの専売特許ではない。

 どこにでもある。


 残念ながら、俺は成人ではないので政治には関われない。


 なので、これは決定事項でむしろ俺に対する踏み絵ということだろう。


 この返事次第で俺は村の中で暗殺対象となる。

 良くて村八分。


 村八分は村から追い出されるようなもの。

 家族まとめて野菜や肉の分配がなくなるし援助もなくなる。

 かなり厳しい処分。


 生まれた2人の弟と妹も餓死することになるかもしれない。


 俺はわかっているよーとオーケーを指で返すだけに留めた。

 今後はイルマに会うだけでも村人中から監視がつくことだろう。


 遠くからイルマの泣き声が聞こえたが、いつかこの日が来ることがわかっていたことである。


 あとで違う人と結婚してしまう幼馴染と泣く泣く別れるごっことかしようかと思ってたけど、あの感じでは12才の身空で村から駆け落ちか、村を廃墟にするとかさせられそうだからやめておいた。


 どっちも微妙に成功しそうなんだよな。


 村長がわざわざ俺にイルマの結婚話をしたのは2つの意味があった。

 1つは踏み絵。

 もう1つは俺への飴だ。


 何気ないふうを装いながら、多少の緊張の匂いが村長からもしていた。

 俺の反応次第では、今後の俺への対応を早急に実行に移すためだ。


 村長の子は表向きグレッグくん1人だ。

 だからグレッグくんに何かあれば村長一族は途絶える。


 それを防ぐのに予備として俺が存在する。

 俺は次男なので表向き今の家の予備でもあるし、村長一族の予備でもあるのだ。


 村長は俺に黙ってイルマの結婚話を進めてもよかったが、事前に教えておくことで俺との今後の関係を保つ狙いがあったのだ。


 これは俺自身が村長に地道に根回ししておくことで得た結果だ。


 なので、俺はウィリアム氏をコソッと始末しようと思っていた。

 無論、副村長派が騒ぐだろう。


 しかし、死んでしまえば生き返らない。

 村ではその後について考えなければならない。


 イルマという村にとって特大の宝石は誰もが望むものである。

 ウィリアム氏が亡くなれば次は自分に可能性が出てくるのではないか、人はそう思う。


 そのため次の結婚話には少し猶予ができることになる。

 犯人探しについては難航するだろうが、もしかすると俺にたどり着く可能性はある。


 そこで村長が俺を予備として維持するなら上手に話を逸らすだろう。

 そもそも俺をここで犯人として副村長派に捧げるメリットがない。


 イルマの存在も俺を操るのに都合が良いとも考えるだろう。

 仮にグレッグくんがイルマを望んだ時は、裏でこっそりと俺の排除に動けば良い。


 子供はどうしても死にやすい、だから焦っていま動く必要もないのだ。

 そんな村長の思惑があったりする。


 ま、それも予測できているし。

 本気になれば村ぐらい焼くよ。


 俺の力量を見誤った!

 それがテメェらの敗因だ。

 ……とか、復讐ごっこを考えつつ。


 内心、強くなること以外に無気力男の自覚がある俺に、そこまでヤル気が出るとは思えないけど。


 結論から言おう。


 それからすぐに村が魔物に襲われて壊滅しました。

 俺とイルマ、王都←いまここ。


 いや、ちょっと待て。

 言っておくけど、俺が魔物を引き込んでわけじゃないからね!


 俺がなにかする前にこうなっただけなんだからね!


 ま、村が魔物に襲われることがわかっていて放置していたけどな。

 それが問題といえば問題だけど。


 狩人のトマソンさんが死んでから森の魔物のチェックや動植物の管理する人がいなくなった。


 山の木と同じで魔物や動植物も管理する人が必要だ。


 俺?

 俺が森を管理するわけないじゃん、仕事じゃないんだし。

 俺が森に入るのは、肉と自分の成長のためだ。

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