第7話死闘!ホブゴブリン!
ゴブリンを始末した俺を脅威と思ったのか、それともイルマが美味しそうと思ったのか、あるいは両方か。
いっておくが、ゴブリンは女を攫って苗床にする習性はない。
生物遺伝子が違うんだからそりゃそうだ。
そんなのはあくまでもエロの中だけだ。
青少年よ、夢を見るなよ?
ホブゴブリンもそうだが、ホブの方が身体がでかい分、さらに凶暴で大人でも小さい人は喰われる。
ゴブリンが小鬼でホブゴブリンが大鬼といえば伝わるかな!?
森の中、周りは木や草(in毒ヘビ)、目の前にはホブゴブリン!
こいつもヨダレを垂らして木の棍棒を舐めている。
実はその棍棒はウマイ棒?
足下にはグレッグくんとアル君(泡付き)、背後にはイルマ。
魔法は残念ながら無尽蔵ではない。
いや、見栄を張った。
せいぜいあと1発だ。
チートを!!
我にチートをよこせ!
それか都合良くここで力に目覚めろ!!
力が欲しいからくれ。
……とまあ、都合良くそんなことにはならないから現実は世知辛い。
転生までしたんだからさぁ〜、そんぐらいサービスしてくれてもいいだろー、神様とか信じてないけど。
嘆いても現状は変わらない。
生きるのよ、クスハと内なる俺が呼びかける。
俺は素早くしゃがみ込み草の中からヒモ状のモノを引っ張り出し、2回転させてホブゴブリンに投げつける。
ホブゴブリンは余裕からか反応が遅れ、そのヒモ状のモノがホブゴブリンの腕に噛みつく。
「必殺! 毒ヘビアタック!」
「ガァアアアアアアア!」
効いたというより、鬱陶しかっただけかもしれない。
雄叫びをあげて、毒ヘビの毒ちゃん(前科一犯)を振り解く。
その雄叫びのせいで一度目覚めていたグレッグくんは再度気絶。
野生の王国では死亡まっしぐらの危険行為である。
俺にはあと1発だけ魔法が残されている。
それは切り札であり奥の手であり唯一の希望だ。
俺はそのただ一つの切り札をきる。
「ファイアランス!」
おそらくゴブリンVS俺の死闘(?)を見ていたのだろう。
ホブゴブリンに向けて放たれたそれをホブゴブリンが慌てて避ける。
ファイアランスを避けられた俺はさらに腰につけていた水袋を投げつける。
それはばしゃりと持っている木の棍棒ごとホブゴブリンにかかるが、ただの液体なので効果がないと分かると、ホブゴブリンは嬉しそうに口の端を吊り上げてよだれを垂らす。
ホブゴブリンは俺にもう打つ手がないことを悟ったのだろう、下品な笑みでまた木の棍棒を舐める。
やっぱりウマイ棒?
だが、それを舐めたホブゴブリンがカッと目を見開いた。
言葉をしゃべるなら、きっとこう言っただろう。
『味変か!?』
そう、俺は切り札をきったのだ。
禁断の切り札。
ホブゴブリンの背後で燃えた木が倒れてくる。
森が大火事になって大罪人となろうともいまを生きる!
「グォオ!?」
それはホブゴブリンに直接倒れかかったりはしなかった。
だが、撒き散らされた火の粉はホブゴブリンにかけられた『油』に勢いよく着火した。
「ギャァァアアアアアアアアアアアア!」
そのときだけホブゴブリンは人間と同じ叫びをあげる。
火を消そうと慌てて転がるホブゴブリン。
いまその瞬間を見逃すことなくホブゴブリンの頭に飛ぶ込む俺。
これが最初で最後、唯一の機会。
鋼のごとき筋肉に覆われていない喉の中心一点を狙いナイフをずぶりと差し込む。
わずかにでもズレてしまえば、子供の力では鋼のホブゴブリンの皮膚で跳ね返されてしまうだろう。
そして即座にゴロゴロと泥と火の粉を被りながら横に転がる。
ホブゴブリンが喉のナイフを抜こうと腕を首元で薙いだ。
あと少しでも遅かったら、ホブゴブリンの剛腕で俺は潰れクスハとなっていたことだろう。
荒い息を吐きながら、暴れるホブゴブリンから後退りで距離を取る。
ホブゴブリンは暴れ、木々に燃え移り、少しずつ火は広がろうとする。
ヤバい!
俺は走馬灯のように、これからのことを考える。
村に帰る、森燃える。
誰がやったと問い詰められる。
俺、責任をイー君かアル君になすりつける。
グレッグくんが真実をバラす。
放火は死罪相当。
俺、ロキシ村からの脱出!
俺の壮大な脱出冒険活劇が脳裏に浮かびあがる!!
「ウォータースプラッシュ」
じゃばじゃば〜っとイルマが手から水を噴出させる。
そういえばイルマも俺と一緒に魔法練習してたからどうにか魔法を使えるんだった。
攻撃魔法ではないから戦えないけど。
ハッと正気に返った俺は火元になるホブゴブリンを囲むように水を撒くように指示を出し、ホブゴブリンの上に土を被せる。
そうして必死に土をかけて、そこにイルマが水を上からかけてどうにか火は燃え広がらずに収まった。
それを確認しながら、俺とイルマはジャガイモを取り出してそれをかじった。
空腹は感じなかったがそれでも食った。
生きることは食うことなのだ。
こうして俺のロキシ村からの脱出冒険譚は幻となって消えた。
いや、良かったんだけどね。
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