第5話森での採取は命懸け

 7歳になったある日。

 今日も野草取りと称して村の子供たちと共に大冒険の最中である。

 俺含めて5人。


 なお、この大冒険というのは誇張ではない。

 毎年、この日々食うための野草取りで誰かが死んでいる。


 いくら慣れ親しんだ森でも、魔物までいる森を子供たちだけで野草取りなど命懸け以外の何物でもない。

 それでも食うためには危険もやむなしなのだ。


 装備は野草を入れるカゴとナイフ一本、水袋に油に火付け石とロープ。

 お弁当に蒸したジャガイモ(自然の味)である。


 ナイフについてはこの村唯一にして腕の良いペンディアム親方作であり、俺とイルマ以外の3人はそれの廉価品れんかひん


 俺とイルマの分は肉との闇取引により手に入れた鋭く丈夫な特注品だ。

 鍛治ともなれば究極の力仕事。

 人よりも肉が必要だが、その肉は村でも限られている。


 ゆえに俺が密かにゲットしているウサギや鳥の肉にて交渉した。


『親方、肉欲しくない? 肉、いるよね?』

『おお……肉、オデ、肉ホシイ』


 あまりの肉不足に親方の口調がおかしくなっていたが、うちの村の鍛治師ってトロールなのかな?

 とにかく需要と供給のバランスが取れてwin-winである。


 弟子入りして鍛冶師の技を盗むという手もゲームでは遊び方の一つだが、現実だとまともなナイフを作るのに何年もそれだけに専念しないと不可能だ。


 なので、2、3年で聖剣作るやつとかいたら、ニンゲンを辞めている。

 現実との差に注意しよう。


「俺、こっちだからお前絶対こっち来んなよー! イルマは来ていいからなー!」

 やんちゃ盛りの村長の息子グレッグくん8才が俺に向かってそう叫ぶ。


 別行動をする彼はホラー映画ならテンプレ通りに死亡する役である、ナムナム。


 そんなグレッグくんを心配してか、それとも次代村長を忖度そんたくしてか、取り巻きイー君とアル君がその後をついて行く。


 秘密だが、きっと俺の兄……いや、そもそもグレッグくんが実は村長の血を引いていない可能性もあったり。


 村ではよくあることなので気にする俺の方が特殊なのだろう。

 呼びかけられたイルマはグレッグくんの呼びかけを無視して、変わらず俺のそばで野草を摘んでいる。


 イルマも大人になれば、そんな村の風習に染まるのかと思うと……なんというかムズムズする。

 その前に王都に出て行くかもしれないけど。


 ブレイク物語にヒロインの貞操がどうかなんて出てこないし。


 ゲームシステムが売りだから、そんなの関係ない。

 ラストがキツいバッドエンドでも関係ない!

 でも俺はその世界にいるからバッチリ関係ある!


 村の近くに広大な森が広がっている。

 山も広がっているんだが。


 その森は数々の動植物に奥に行けば行くほど魔物もいる。


 十数年に1度は冒険者を雇ってゴブリンの巣を駆除したりもするが、それでも流れのゴブリンが洞窟などに住み着く。

 そして繁殖して村を襲うのだ。


 それらの危険により年に数人は犠牲になる。

 豊かな森は危険も豊かなのだ。


 俺とイルマは狩人のトマソンさんに罠の仕掛けや森での活動方法を教わったが、今年の初めにはトマソンさんは森で死亡した。


 村の3番人気のメリル奥さんと一緒に、彼女の旦那が農作業をしている間に森に入って、腰を振っていたところを熊に襲われたのだ。


 なお、メリル奥さんは彼女の旦那の勇猛果敢な活躍により助け出され、トマソンさんはメリル奥さんを襲おうとした不届き者として解決した。


 絶対、同意の行動であることは旦那さん以外は全員気づいているが、旦那さんにだけは秘密である。


 それらの危険を避けながら、今宵の食事となる野草や貴重な甘味となる果物を採取するのだ。




 しかし、俺は行き詰まっていた。

 このままでは10才になり家の手伝いをさせられる。


 この村は豊かではあるが、食うに困らないだけで村民は1人残らず1日中働き詰めである。

 労働が免除されるのは動けなくなった老人か、いつ死ぬかも分からない10才未満の子供だけである。


 女に至っては12歳には嫁入りしたりもする。

 相手はバラバラだが、大体は2倍3倍の年の差だ。


 その意味では美童であるイルマはかなり危険だ。


 もっともイルマは本編ストーリーに参加のため王都で剣聖になるはずだから、村ルールからは解き放されるかもしれない。

 貞操がどうなるかはわからないが。


 さてそれよりもモブ確定の俺だが、体感でレベル1にもなっていない。

 あらゆるゲームの勇者でさえレベル1でようやく旅に出るほどだ。

 旅にも出れない7歳児では当然だ。


 その期間に魔法をマスターして裏でこっそり魔物を倒して、裏でこっそり強くなって、裏でこっそり好き勝手生きるのだ。


「ゴ、ゴブリンだぁあああ!!」

 そう泣き叫びながらグレッグくんが薮から飛び出してくる。


 ちなみにゴブリンさんは間違っても戦闘経験のない子供が初対面で遭遇しても、サクッとヤレちゃう〜なんて夢は見ないように。


 ゴブリンって、子供からしたら全滅レベルの危険生物だから気をつけよう!


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