第2話目的は大事

 さて、物事を整理するうえで最も大事なことは何か。

 それは目的を定めることである。


 冒険者になるのに村で農業の知識だけ蓄積しても意味がないように、正しい目的のうえで物事を整理しなければならない。


 俺の目的はただ一つ。

 楽しく生きる、これだけである。


 まあ、魔族に人が滅ぼされたら、楽しいも何もないんだが。

 そのために俺が苦労するのは何か違う、いや、明らかに違う。


 どうせ、2度目の人生だし?

 2度目があるなら3度目もあるかもだし?

 なんだか1度目より気持ち良ければ後はどうでも良いや、という気分である。

 誰もハジメテだけは大切なので2回目以降はわりと雑だ、色んな意味で。


「イルマー」

 幼馴染のイルマは俺が書いたイルマの名前を指差し声に出した。


「そうそう、これがイルマの文字だぞー」

 頭を撫でるとえへへーと嬉しそうに笑う。

 2歳だとまさに可愛い盛りである。

 ゲーム開始時ぐらいの年齢になると別の意味で可愛いけれど。


 この幼馴染が今後どうなるのかは成り行き任せである。

 アドバイスはしてやるが、絶対に運命を変えてやるというほどではない。


 人それぞれの選ぶ道がある。

 それが地獄であろうと強制はしない。


 自分のことでさえそこまで興味は持てないのだ、人のことについても同様だ。

 転生とか、そんなもんよ?


 だが、である。


 だからこそ、現代社会というしがらみを全て忘れて楽しまなければならない!

 これは重大にして最大の使命である。


 そのためにはまず……。

 俺はすくっと立ち上がる。


「クスハー?」

「うむ、イルマよ。まずはイルマの家に行くぞ。そこで俺たちは魔法を手にするのだ」

「まほー」


 俺の家に魔法の本はない。

 それどころか本がない。


 我が家は皆、農村に生きる家族相伝が全てなのだ。

 つまり口伝オンリー、技は盗め、学ぶとはなんだの世界である。

 脳筋とも言う。


 大体の村人が同じ考えで、本がまともに揃っているのは村長宅か、イルマの家ぐらいだ。

 他にも本を持っている家はいくつかあるが、その2軒がダントツだ。


 イルマの家はイルマママのベネットが元魔法使いという理由でそれなりの蔵書がある。


 成長過程において筋肉を幼いときにつけ過ぎると成長が阻害されてしまう。

 世界が違うから肉体もちょっと違うかもしれないけれど、多分きっと同じだ。

 ゆえに魔法だ。


 精神は無限大である。


 なお、このあとステータスとかデータとか、能力とか鑑定とか口に出してみたけど、能力値がゲーム画面みたいに出てくることは一切なかった。


 現実は厳しい……。


 能力値がわかるというのは、ゲーム展開を知っていると同じぐらいに大きなアドバンテージである。


 わかりやすいし、何をどうすれば効率良く育つかわかるし、なにより成長することは楽しいものである。


 ゲーム世界の基準でいえば、ラスボス魔王討伐適正レベルが40〜60。

 60を超えるとラスボス余裕になりレベル99が最大。

 実際に現実がレベル99で止まるかは知らん。


 楽しく生きるためにも魔族四天王ぐらいは余裕で対処できるようにはしたい。

 もっとも人類は未だに魔王四天王1人に勝ったことはないらしいけど。


 ゲームでも四天王を避けてから不意打ちで魔王倒している。

 んで、その後に生首にされている。


 誰に生首にされたかは不明で余計にモヤモヤがたまるエンディングであった。

 続編計画も頓挫してるし、制作陣は実に罪深い。


 家の扉を開けると、広がる農園とすぐ隣の家の前でイルマママのベネット。

 作業をしていたベネットは家から出て来た俺たち2人に声を掛ける。

「あら、クーちゃんどこ行くの?」


 このニコニコと慈愛の満ちた美女ベネットに俺はクーちゃんと呼ばれている。

 その響きだけでワクワクムラムラするのは仕方がない。


 いつかその微笑を大人のベッドの中で眺めたいものである。

 添い寝では見たことあるけど。

 俺の童貞はベネットに貰ってもらうと決めている。


 とりあえずいまは魔法である。

「本見たい」

「あらあら、良いわよ〜。はい、どうぞ」


 そう言って、ニコニコ笑顔のままイルマ家のドアを開けてくれる。

「ありがと」

「どういたしまして。クーちゃんがイルマの面倒を見てくれて助かるわ〜」

「あい」


 俺は子供らしく愛想を振りまく。

 大人の男の顔をするには3歳では早すぎるのだ!

 早くオトナになりたい!(意味深)


 イルマも俺に続いてベネットの言葉に頷く。

 豊かな村とはいえ、農村で子守りをする余裕はない。


 なので、大体は働けなくなった老人か、兄弟や近所の10才ぐらいまでのお姉さんが子供たちをまとめて面倒みるのだ。


 中世ヨーロッパほどではないとは思うが、子供は10才まで育つのは難しい。

 病気や怪我にゴブリンや魔物、動物の脅威があるからだ。


 なので一家で4〜5人の兄弟はザラだし、この村の性質上、血縁だけの意味なら兄弟はその倍はいると考えて良い。


 そんな中、3才の俺が2歳児を面倒見るのだ。

 まさに神童である。

 なんなら10才のお姉ちゃんでさえ、俺は面倒をみてやるほどだ。


 イルマも普通の2歳児が文字までわかるのはかなりの神童だが、俺の影に隠れているので今はその能力はバレてはいない。


 しかし俺もまだせいぜい神童レベル。

 俺の楽しい人生計画のために今は力をたくわえるときなのだ。

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