第11話 着信
「まさくん、こっちを見て。私では駄目だったの?私は倭君の要求を拒否しなかったし、あの時だってまさくんが気持ち良くなるように一生懸命に…。」
糺は別れるつもりで自身のアパートに倭を呼びだした。
心の決断は出来ていた。
しかし、倭を見た瞬間また自分の虚像が新たな関係を構築し始めた。
恋愛結婚の普及は個人主義に走る若者のコストを大きく上げる要因となった。
見合いが社会的幇助であれば恋愛結婚は個人的責任となる。
糺と倭の関係も多分に漏れず二人の責任のもと進行するのが当たり前だ。
糺は素行不良の倭ではあるけれど一度愛した男として簡単に別れるなどとは考えたくはなかった。
「まさくん、浮気は浮気としてちゃんと反省して。そうしてくれるなら私はいいの。だって、まさくんは犯罪を犯したわけじゃないから。まだ社会人一年生だもの。心が固まらないことは私もわかる。」
倭は社会人一年で懲戒解雇という返礼を受け意気消沈しているだろう?と糺は怒るどころか慰めたのだ。
そんな優しさで自己犠牲する彼女にその後、倭の認知騒動がさらに追い打ちをかけることになる。
終始、糺の優しい言葉で終わった二人の時間が過ぎ倭は解雇になってから借りている安アパートへ戻った。
倭は、このアパートに不満を覚えている。
「きったねぇ、くそっ。」
糺の部屋に同居を進められるが女遊びが厄介になるためそれを拒否している。
悶々としているとスマホに着信が入った。
杏美と表示されている。
恋愛結婚が見合い結婚から個人主義により出来あがった様に先に書いたが、実は日本の歴史上では平安時代も恋愛による結婚が盛んだったと云われている。
然し、その後を辿れば辿るほど倭のやっている事の様な乱れた時代へと変化して行く。
政略結婚、夜這い、妻妾制(ちくしょうせい)、遊郭、一夫多妻。業を煮やした日本があみ出したのが一夫一婦制と見合い結婚だ。
好き同士では駄目、ちゃんと分相応を弁えて、一人の人を永遠に愛するのよ・・・と。
最近ではセックスレスというものもよくある日常化してきた。
恋愛と性愛は別物。
好きになり付き合って結婚し性交渉で子供を授かる、という絶対的な方程式が今崩れ去ろうとしているのだ。
糺は倭を支え続ける決心を新たにした。しかし…。
「認知してよ。あんたの子供なんだからさぁ。それと養育費払え!」
杏美からの電話は脅迫めいた声で倭に危機感をつのらせた。
「俺の子かどうか立証しろよ。知らねぇよ。お前が勝手に穴(ケツ)振ったんじゃねぇか!」
実は倭は、学生時代半グレの下っ端だった。
看護師というカーテンを張ることで隠してきたのだ。
「そう、だったら裁判よ。訴えてお前をどん底に落としてやる。」
杏美の声は恨みが籠もることで倭に恐怖心を植え付けスマホを投げ捨てさせた。
針刺し 138億年から来た人間 @onmyoudou
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