第9話 求め合う

糺は倭との結婚を意識の手元に置く事にした。

彼から得られるものはまだ見つかってはいない。

ただ倭に対しての愛を知って自分の理想を倭に投影している。

だけどそれが糺の彼氏、そしてそれが彼女の恋愛だった。


企業が求めている人材。

それには協調性、主体性等がある。

それでは最も求められている人材はどういう人物か?

それはコミュニケーション力のある社員だ。

それから考えれば、倭は面接では不可になる人物。

なのだが何故か女子には好かれる。

一昔前には、告る殺し文句は当たり前だったが、彼の場合はまず話す言葉はゼロに等しい。


「ああ、・・・んん、・・・そう。」


その言葉が初対面の時からずっと続くというのにだ。

冷めた夫婦の会話の様だ。

しかし、何故好かれてしまうのか?

一つは医療関係、そしてイケメン、背が高い、もう一つ何よりも19歳これだ。

あとは倭の周りに集まる女性陣の好みだ。

医療関係、イケメン、背が高い、そして若い。

マッチングアプリでも「いいね」が来る。


そんな倭はカルロでのアバンチュールに陰りが見えると合コンに参加するようになった。


「まさくん、この後、家で飲もうよ。」


糺の新たなる刺客、瀬戸内せとうち 優璃ゆうりが倭を獲得すべく女子力で破壊を始める。




増加する針刺し事故による病原微生物の感染。

ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルスなどがある。




カルロで業務を行う糺と倭に早くも変化が起こる。

病院復帰。

病院内で血液暴露による感染で欠員が出たのだ。

針刺し暴露事故を恐れるあまりストレスと抑うつに苛まれ異動願いを出す看護師が二人出た。

それと入れ替わる形でカルロと病院のトレードが行われた。

再び糺と倭は院内業務と相成った。

当然二人に対する看護師のチームワークが復活を果たし、さらに診療報酬にも加算される感染防止対策も徹底された。

ストレスマネジメント、リラクセーション法、個人特有研修の実施などあらゆる努力を積み重ねた。

結果、糺も倭も無事故で業務がこなせるようになった。

しかし、アクションスリップは必然的に起こる。


「いてッ、あーやっちまった~。誰もいねぇから内緒にしとこう。おっと医療用手袋着用っと。」


倭は注射針の廃棄時にまた医療用手袋なしで行い、使用済み注射器による針刺し事故を起こしてしまった。

しかも、今回は報告を怠った。

この時、彼がヒト免疫不全ウイルスに感染したなどとは思ってもいない。

倭のHIV感染が判明したのは、義務的に看護師に行われる血液検査のときだった。

表皮に異常は認められず倭は安心して検査を受けたが、自分がエイズだと知るとショックは隠せなかった。

倭は今までのどの女かと疑心暗鬼にもなったが糺の手前、言うに言えない。

記憶をたどり針刺し事故を自分が隠蔽していた事を思い出し、決死の覚悟でカミングアウトした。

当然、隠花共立病院、院内感染管理者の福多部劫樹にこっぴどく怒られ自宅謹慎を言い渡された。

たが、そんな事ではくじけない倭は抗ウイルス薬レジメンを打って一週間もしないうちに現彼女、瀬戸内優璃とのセックスに及んでいるとはだれも思いもよらない事だった。

優瑠は外資系の職員であって院内で起こっている状況など知る由もない。

倭が何も言わなければ分からないまま求めあうのは必然。

愛し合う妨げは優瑠には何もないのだから。

あるとすれば彼だが針刺し事故の隠ぺいを図る輩にそんな常識は通じない。

それ以上に優瑠は倭に御衷心だった。



恋愛という概念が生まれたのは古代ギリシャ時代に遡る。

神は人間を作り崇めさせようとしたが人間は身勝手な振る舞いばかりを繰り返し、怒った神は人間を真っ二つに切り裂いた。

半身となった人間は完全な身体を求め合うようになる。

そこから恋愛の原点は生まれたといわれている。


その後も恋愛は同性でしかありえない時代が続き、女性の性器が汚らわしいと言われる女性蔑視の時代となった。

そして永遠の処女という言葉が女性のあるべき姿となり、聖母マリアという概念が構築されたのもこの時代だ。

完全なる体を美とするあまり子供の体が性の対象となっていく。

男女が互いを美化し惹かれ合い求め合うようになったのはプラトンの饗宴がきっかけだとされている。


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