第8話 特養カルロ

特別養護老人施設カルロは病院時代とは違いチームワークの面で劣る。

看護師は徹底した共同環境が作られている。

看護師寮も一つのチーム作りの一環だ。

しかし、介護師は個人の集合体であり福祉学校を卒業している者やマンパワー不足により他職種から流れ着いた者もいる為それぞれが個性を主張してしまい、流れる様な連携が取りにくい。

いろいろなキャラを束ねる施設長の中にもほかの業種を経験した者もいるのだ。

優秀な人材の寄せ集めでは角が立つことが多くトラブル、事故、犯罪まで起こり得る。

重労働と呼ばれる介護の仕事。


その中で糺と倭は病院の看護師という日本で最高のチーム組織経験者である事がベテラン介護師に疑心暗鬼を齎してしまった。


「うちらを性のはけ口だと思ってるんだよ、まさは。」


犬猿の彌恵と桃子が利用者のレク時間に二人並んで話していた。



いつものように入浴後のドライヤーかけの仕事をしている倭に桃子が


「北山君、そこは良いから。」


と言うと今度は二人のアイコンタクトで彌恵が


「利用者さんのトイレ介助を今日1日お願い。」


と倭に指示した。

彼が男性利用者ばかりをトイレ移動していると


「ほら、男性ばかりじゃなく女性もやらなくちゃ、あなた一人しかいないのよ。」


と上がって来た入浴スタッフとともに上階のシーツ交換へと消えた。

次から次へとトイレ介助をこなしていた倭だったが、色目を使う利用者や怒りだす利用者、そして間に合わずに失禁してしまう利用者にパニック状態でいるとたまたま利用者の様子を見に来た糺に助けられた。


「他のスタッフは?」


「今日は全体のシーツ交換の日だから皆が上に。」


糺は眼を見開き驚いた表情を見せた。

あり得ない事とだと思いながら気を取り直して


「じゃぁ、私も入るからまさくんは男性、私は女性で。」


糺の言葉で倭も気を取り直し、見事な連係プレイでその場を次々に乗り切っていった。

利用者の落ち着いた顔を見て


「やったね、まさくん。」


二人は小さくはいタッチした。

一人の女性利用者がその二人をじっと覗きこんで言った。


「お前達夫婦か?」


糺はドギマギしてしまい倭の顔を見たが視線が合う事はなかった。

糺と倭に久しぶりに二人の時間が訪れた。

ピンチを救ってくれた礼にお礼だと夕食をごちそうしようと頑張った倭だが、


「私が払うね。」


と糺は財布を開けた。

中身を覗きこんだ倭は給料の違いをまざまざと見せつけられた気がした。

その夜、糺の部屋のベットに二人の裸体があった。

倭の誘いに糺は拒否する仕草だけを見せ倭を焦らせる。

二人は一つの世界に入り込み1時間ほど経過し、またそれぞれの世界に戻っていた。


「まさくん、前より気持ちよかった。きっと二人の愛が近づいてきたんだよね。」


糺は愛情の深まりが気持ちよさの要因だと言った。

倭は何も言わず仰向けに眼を閉じている。

糺は心配顔で


「ごめんね、私が下手だから。まさくんは良くなかったんだよね。」


項垂れる糺を横目で見た倭は


「最高だったよ。」


と言った。

二人は間が空くともう一度深い愛情を注ぎあった。





次の日、糺は「一緒に出勤。」だと思い込んでいたが、倭は「寄る所があるから」と別々の出勤となった。


「どこに行ったんだろう?」


と糺は疑うことなくカルロへと向かった。




アイデンティティとは、漸成発達理論で提唱され、それを自我が他者に対して不変と連続性に合致することから生まれる自信であると解釈されている。恋愛成就者はアイデンティティを統合した二人となる。


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