第7話
「南君、どうしたんだ。また悪い癖が出たか。」
スタッフのデータは事務方から貰っていた。
綿好の表情は言葉通りではない。
怒り心頭、暴言も吐きかねないほどの怒り顔の綿好がついに切れた。
「患者を殺す気か!心肺停止を乗り切った直後に針刺し事故なんて論外だぞ!」
糺は身体が小刻みに震え涙を幾筋も流していた。
「君は無線の対応に回ってくれ。私の横にはふさわしくない。」
糺は怖さと慄きと悔しさでその場に倒れた。
この時の綿好の対応がパワハラに当たるとし綿好は減給処分を受け、そして糺はなんと特養カルロへと転属となった。
縁というものは、一度繋がると離れる事はないのである。
それは腐れ縁というものなのかもしれない…
糺にとって倭は俗に言う赤い糸と言う事になるが、倭は
彌恵とは手を握られたその日にハピホテで彼女がキープしたホテルで。
何故か自分の家族構成をひたすら喋っていた。
バツイチをとにかく強調し結婚願望を全面的に出して喘いでいた。
「結婚してよね、まさくーん。」
桃子の方は健全な付き合いから始まった。
彼女に仕事帰り「飲みに行こうよ。」と誘われた。
他の職員も一緒に居酒屋へ行った。
彌恵は桃子とは犬猿の仲なので来なかった。
盛り上がる飲み会になったが、桃子は倭の傍から離れない位置に常にいた。
そして時々、分からないように倭の太股に手を掛けた。
飲み会が捌ける時、他の職員が打ち合わせた様に桃子と倭を同じタクシーに二人きりにさせた。
「今日は、子供を実家に預けちゃった。家来るよね。」
倭に否定する根拠はない。
そのまま、一夜の夢に誘われた。
糺は悲しみのどん底にいた。
「私はやっぱりダメな子なんだ。カルロでの実績次第で再び病院の方へ移動させるって、福多部さんに言われたけど単なる慰めだよね。看護師辞めちゃおうかな?でも、まさくんいるし頑張ろう。」
院内感染管理者の福多部は人事ではないが、院長に出来の悪い糺と倭の管理を仰せつかっていた。
その福多部の計らいで救急センターへ異動でき、今また倭とは違う二人目の看護師として特養カルロに配属されたのだ。
福多部は糺の人柄を買っている。
それは倭の行動が彼女に影響を与えていると判断し、病院側にも責任があるように思えたからだ。
カルロでの倭の行動はまだ耳に入ってはいない。
「あいつもあそこに居れば異常に強い性欲も無くなるだろう。」
と福多部は鷹を括っていたのだが…。
「それでは朝のミーティングを行います。南さん、皆の前に。」
施設長の言葉に従い職員の前に立つ糺。
その視界から外れるように倭の姿がある。
「今日から、もう一人看護師さんが一緒にお仕事する事になりました。南 糺さんです。さあ、自己紹介を。」
周囲が自分の事をどれだけ知っているか不安なまま糺は簡単に自分の名前と趣味を語った。
「さすがね、自分の事より業務優先。南さんは救急センターから此処へ抜擢された優秀な方なんですよ。」
糺は自分の顔が青ざめていくのが肌の感じから分かるほど後ろめたさを覚えた。
施設長は更に
「あっそうそう、北山君とは同じうちの病院で同期なのよね。」
倭は関係がばれないよう無言で頷いた。
彌恵と桃子は二人同時に後ろの隅に立つ倭を見て何かを感じた。
「こいつらできてんの?」
女性の触覚には男性には無いアンテナがある。
彌恵と桃子の口から周囲には聞こえないほどの「ちぇっ。」が聞こえ、倭の三半規管を大きく揺さぶった。
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