第3話 後輩
告白は倭の口から零れた。
「付き合って下さい。」
と言う素直な言葉に、糺は一緒に飲もうと言ったのかと思った。
倭の言葉足らずの物言いに糺の思考は振り回されることが多い。
然し、理論を積み重ねる様なプライド高い言い草は彼女の好みではない。
端的な物言いの倭に院内には感じられないシンプルさを糺は感じた。
この人は人を操ろうとはしない、だから信じやすいと。
社会的交換理論により自分のアイデンティティーが高まる事を認識したのだ。
日本の恋愛事情は初婚年齢が45年間で平均が5年前後も老化した。
このままでは日本は花の独身国にもなりかねない。
それを含めて糺と倭の関係は希少事例なのだ。
周囲の期待も大きい。
二人のコミュニケーションプロセスは病院と言う巨大な組織の内に取り込まれるほどの業務履歴となっていった。
「最初は、初めて会ってかわいいなって。でも私が年上じゃない、付き合って先の事を考えたらどうしようかなって悩んじゃった。決め手は倭君の性格が良かったからかな。優しいし素直だし,後,正直だから。」
同期の看護師と病院内の食堂で昼食をとっている糺は、そう二人のなり染めを話した。
同僚は糺の人を見る目の無さに感服した。
「ふうん、幸せなんだ。」
「うん。」
日本人のコミュニケーションには真実を掘り起こす様な野蛮な会話は無い。
思ってる事は口にしないのが礼儀であると教育されてきた。
西洋からすれば、はてななトークだ。
「何故本当の事を言ってあげないのか?」
糺は倭の本当の姿を知る事も無く恋愛行動を続けていった。
「今度、君ん家に行ってWi-Fi設定してあげるよ。そうだなあ、明後日シフト休み一緒でしょ。そんときに。・・・じゃぁ。」
相も変わらず倭は積極的なナンパ活動を続けている。
今回はお泊まりを狙っていた。
現代の若者は生殖活動を種捨てに使う。
子を宿すと言う人間の神秘な部分をはしょってしまうのだ。
野生の人間行動とも思われる。
国の調査では多くの若者が出会いがないとぼっちの理由を述べている。
社会的環境は大きく変わっていても、人間自体に大きな変化はない。
アニメキャラに逃げる事無く素直に家庭を持つまでのレールに乗っかれば事は済む。
倭は糺の後輩看護師と肉体関係を持った。
後輩は糺の学制時代のソフトボール部の相棒だ。
糺がピッチャーで彼女はキャッチャー。
互いの年齢を気にすることなく言いたい事を納得するまで議論し合った。
部は全国制覇を成し遂げ、糺が隠花共立病院のソフト部にスカウトされると翌年、同じように推薦でこの病院に入社した。
看護学校でも仕事の悩みなどを糺に相談しアドバイスを貰っていた。
良き先輩であり良き後輩でもある。
然し、糺と倭の噂を知っていながら、彼女は倭を実家の自分の部屋に引き入れた。
彼女には「自然な事」で、糺に対してどうこういう気持ちはさらさらない。
倭の性格は彼女には心地良いものだった。
針刺しは患者にとって痛みを伴う苦痛の種だ。
それは医療現場にも影響される。
静脈注射など上手い下手があると看護師にランクを付ける患者もいる。
針を使わない注射の開発は誰しもが思う事だ。
実際にに研究もされている。
最初の開発は空気銃の様なものだった。
だが、これは欠陥が多く出血や感染症を起こした。
年数と共に改良が進み皮内、皮下、筋肉注射等に使用可能になるまでになったのは研究者の懸命な努力の賜物だ。
一般に高圧洗浄機を人に当ててはならないとするのは針無し注射を思い出せば誰しもが頷けるのかもしれない。
空気ガスかバネにより圧力のある薬液が皮膚を穿孔するのだ。
ただし全く痛くない注射と言うわけではない。
しかし、痛みを緩和でき、針に対する恐怖心を和らげることもできる。
打手にとっても点で刺す針よりも面で押さえる針無しは重宝される。
勿論、針刺し事故は無い。
隠花共立病院でも院内感染管理者の福多部を中心に針無し注射導入の協議が続けられている。
「我が病院は優秀な医師とスタッフに恵まれており地域貢献度も高い。しかし、針刺し事故の発生率は全国一位となっている現状を変えていくには針無し注射の導入しかないと思われますが。如何ですか?」
福多部の案に医師達はこぞって賛同する意見を述べた。
「もうあの子のおむつ代えはこりごりですよ。」
内科医の瀬川の言う彼女とは勿論、糺の事だ。
「私も同様に。」と田埜倉医師も困り果てている意思表示をすると会議は苦笑いの渦に染まった。
同席の院長も立場を忘れ渦に飲み込まれた。
「今の看護師には、・・・。」
看護師長の訓示が始まりまた業務が繰り返される。
「嫌だな、また針刺しの順番が来ちゃった。」
院内では針刺しに関して経験則に応じ全員が満遍なく技術が向上する様、当番制を敷いている。
「大丈夫ですか?楽にしてください。」
糺は何時もミスするわけではない。
相手がイケメンの時は完ぺきにこなす。
その彼に憧れもするが結局元の鞘に気持ちが収まるのは倭に魅力があるからに相違ない。
そう糺は何時も考え一途な思いを募らせるのだ。
そんな糺のデリケートさを逆撫でするかのように、倭は糺の後輩と深い仲になっていった。
彼女は
遊里はキャッチャーというイメージは殊更なく華奢なメガネっ娘だ。
しっかりとした体形の糺の女房役にしては頼りなく思えるが性根は座っている。
彼女は倭には貧弱な女の子を演じている。
彼と会うときは必ずどちらかの家に行くよう二人で決めた。
糺への礼儀として?
「まあくん、今晩泊まっていい?」
遊里は倭の事を「まあくん」と呼ぶ。
彼女は部活で張りのある声を得る事が出来た。
そのおかげで就活の面接では大いに役立った。
はきはきとした娘だと評価されたのだ。
しかし、恋愛には不向きで彼女は声の大きさから大失恋を経験する事になった。
それを繰り返さぬよう鼻から少し抜ける様なしゃべりを練習しマスターしたのだ。
おかげで?倭をゲット出来た。
そう彼女は自負する。
倭は食いつくような返事で遊里との一夜を望んだ。
セックスの相性は遊里に分があるのか倭は何度も遊里の中で果てた。
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