第14話

「ルナさん、緊張しないでくださいね。教会長はとても優しい方ですから」

「うん、大丈夫。リーゼがいるから安心してるよ」


 教会長の執務室へと着くと少し緊張気味の私の雰囲気を感じたのかリーゼの優しく微笑む姿に少し緊張がほぐれる。ノックの音が響くとすぐに、教会長の低く温かい声が中から聞こえた。


「入っていいぞ、リーゼ。それにそちらは?」


 中に入ると、教会長は柔和な表情を浮かべ、重厚な木製の机に座っていた。教会長はこの教会の長としての風格があり、彼の存在自体がこの場所を守っているように感じさせる。


「はい、教会長。魔法少女ビビット・マジカことルナ・ナナホシです。お時間いただき、ありがとうございます」

「ルナさんか、前にリーゼを助けてくれたそうだね。その節はありがとう。それで、ご挨拶だけではないのでしょう?」

「そうなんです。実は」


 教会長の声に促され、私はこれまでの出来事を一つ一つ説明した。迷い霧の出現と、その中で感じた悪意の存在、さらには矢が撃ち込まれたこと。矢には風の魔法が込められていたこと、そして森の中に何か異常があると感じたことを。リーゼも横で補足を加えながら、真剣に説明を続けた。


「なるほど…。最近修道士の人数が少ないと思ったらそんなことが…」


 教会長はしばらく黙考し眉をひそめる。


「ルナ君、この森には何かが潜んでいる。森を抜けるとノクナレアへと続く道へと続いている。物流の道としても使われる陸路だ」

「わざわざ誰も通らない教会裏の森からノクナレアへの通り道に結界を貼る理由…」

「教会としてはまだ具体的な情報が少ない以上、全面的な調査は難しい。君たちが発見したものが鍵を握るかもしれない」

「なら、私調べます! この森で起きている異常を突き止めてみせます。絶対に放っておけない」


 私の言葉に、教会長は驚いたように少しだけ目を見開いた。けれどすぐに、彼の顔に柔らかい微笑みが戻った。


「その勇気に感謝する。しかし君は魔法少女という英雄的存在ではあるが、大切な仲間そしてまだ小さき子供でもある。大人にも意地を張らせてくれ」


「…でも、リーゼや他の修道士が危険にさらされているなら、私ができることをやらなくちゃ。お母さんも、きっと同じことを言うと思います」


 私の真剣な目を見て、教会長は静かに頷いた。


「わかった。君がその決意なら、私は止めない。ただし、必ず他の仲間と連携し、無茶をしないように心がけてくれ。私たちはいつでも協力を惜しまない」


 リーゼが嬉しそうに私を見ている。彼女も私のことを信頼してくれているのがわかる。これで、次の一歩を踏み出すための準備が整った。


「ありがとう、教会長。絶対に無茶はしません!」

「よろしい。君が戻るまで、この教会は君の帰る場所であり続けるよ」


 教会長の言葉を胸に、私はリーゼと共に執務室を後にした。これから待ち受けるのは、さらに厳しい冒険になるかもしれないけれど、今の私は少しだけ強くなれた気がしていた。


「お腹減ったね、ご飯食べに行こうか」

「もうお腹ぺこぺこです。ルナさんよく平気でしたね」

「え?もう死にかけてるよ?」


 そう、お腹が空きすぎて最早限界を迎えていた。頭も働かず、フラフラと足取りが重かった。リーゼが緊張が逸れたかのように笑みを浮かべながら軽く嗜めるのだった。


「リーゼの腕にしがみついていないと倒れそうだよ〜」

「はいはい、食堂行きましょうね」


 私たちは空腹を癒すために食堂へと向かうのだった。午後三時を過ぎた頃であった。

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魔法少女ビビット・マジカ 雪華月夜 @snow916white

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