第13話

「うわあ、すごい!教会の食堂ってこんなに広いんだ!」


 私はリーゼと並んで、教会の食堂の扉を押し開けた。中はあたたかな雰囲気で、修道士たちがすでに食事を楽しんでいる。空腹がピークに達していた私たちは空いている席に座り、メニューを開くのだった。食堂の中はふんわりと香ばしいパンの香りや、温かなスープの匂いが漂っていてお腹がくうくうと鳴り始めてしまった。


「ふふふっ、ルナさん可愛い」

「ねええ、可愛いって言わないで?恥ずかしいから」


 こんなに顔が熱くなるのはいつ以来だろう。お母さんと森にいた頃にも似たようなことあった気もするけど、忘れてしまったようだ。


「じゃあ私、メニュー選んできますね」

「私、リーゼと同じの食べたい!」

「ふふふっ、わかりました。では行ってきます」


 リーゼがカウンターの方に注文をしに行く後ろ姿を眺めながら私は食堂の雰囲気を楽しんでいた。


「どんなご飯がくるのかな〜♪炒飯、酢飯、油淋鶏?それともフレンチ、イタリアン?どーんなものでも大好物♪」


 るんるんとリーゼの帰りを待っていると食堂の窓硝子が割れるような音が鳴り響いた。


「何!?」


 私は音が鳴った方に振り向いて状況を確認する。床に突き刺さっているのは矢のようなモノ、何処から射ったんだろう。私は取られてもいいような空のポーチを置いて席を立ち、事件現場へと走り出した。


「何処から射ったの…。この弓の角度からすると多分あっちの方向!」


 射られたと思われる方向を見てみると教会別棟の屋根の上に人影があった。再度矢を確認すると矢尻には風の魔法が付与されていた形跡が見られた。


「えっと…時間ないから詠唱省略!Zeillichthex!」


 標的との距離は約百メートル。よし、マーキング成功!追撃しに行こう、なんとしても捕まえなきゃ。詠唱を省略することはお母さんから禁止されていたけれど、今はそれを守っている暇はない。ごめんお母さん。


「みんなは教会の人に報告を、危ないかもしれないから一応避難して」

「あ、貴女は…」

「私は魔法少女ビビット・マジカ、悪い人を退治する正義の味方だよ」


 私はステッキを取り出し軽く振った。光に包まれた瞬間、モードチェンジをした。


『モードチェンジ、スピードモード』

「Besenzauberion!詠唱省略!」


 ステッキの上で魔結晶を砕き魔力を吸収させる、そしてステッキを魔法箒へと変化させる。この魔法も詠唱省略で。時間ないし本当お母さんごめんなさい!割れた窓から外へ出ると奴は屋根から降りようとしているところだった。


「逃がさない、絶対に!」


 箒に跨り、私は箒に炎と水の力を纏わせていく。必要量のエネルギーを溜め込んだ箒は爆発的なエネルギーを放出しながら飛んでいくのだった。


「いっけええええ!」


 別棟の屋根上にものの数秒で到達するも力を溜め込み過ぎたせいで少し高く飛び過ぎたみたいだった。


「ごめんステッキさん!飛び降りるね!」


 私はステッキに語りかけながら箒から飛び降りる。標的は既に地上に降りているようだった。


「待って!」


 私も飛び降りて必死に追いかけた。どのくらい追いかけていたのかはわからないけれど、途中から霧が出始め道に迷ってしまったようだ。ふとその場に立ち止まり、辺りを見渡してみると霧に覆われてしまっていた。いつの間にか自分ステッキも手元に戻ってきていたようでステッキさんに話しかけてみる。


「ステッキさんおかえり。ねえこれって、故郷の森の結界と同じだよね」


 周囲の魔力反応をステッキを通してやってみるが情報量が多すぎて頭が痛くなってきた。ステッキさんが肩代わりしてくれているのにこの膨大な術式を処理しきれなかった。


「うわあ!ちょっと何するの!」


 急に何かに引っ張られるように霧の中へ呑み込まれていく。故郷の森の結界にこんな機能はなかった。多分この結界は森に迷い込んだ者を強制的に外に追い出す術式も組み込まれている。迷い込んだ人が怪我をしても関係ないかのように。お母さんの結界とは決定的に違っている。こんな結界は星の魔女の弟子として、一人の魔法少女として認められない。そう考えていた束の間、強引に現実世界に引き戻された。背中から硬い壁に激突する衝撃のせいだった。


「ルナさん!大丈夫ですか?」

「あいてて…ここは?」

「勝手に動き回らないでください」


 リーゼから軽くデコピンを喰らう。その衝撃にはびっくりしたけれど、リーゼの顔を見てデコピンをした理由に納得がいった。リーゼは未だか弱い修道士だ。私とは違って力があるわけでもない純粋な普通の女の子だ。私もそんなに力はないのだけれど。でもまあそんな子を泣かせてしまうのはナンセンス、だよねお母さん。


「リーゼは泣き虫さんなんだね」

「ルナさんのせいなんですからね?」


 リーゼの頭を撫でながら状況の確認をする。どうやらここは私が入っていった森の入り口みたいだ。


「リーゼ、この森の奥って何があるの?」

「何かあるんですか?私たちには特に聞かされてませんでした」

「じゃあどうして迷い霧が…明らかに誰かが奥にいる。悪意を持った誰かが」

「そういえば、ここ数週間で修道士が数人行方不明になっていて憲兵に依頼を出してるって聞いたことあります」

「関係ありそう、だよね」

「そうですね。私、教会長に話してきます!」

「私も行くよ、その方が説明しやすいだろうし!」


 私たちは教会内に戻り、事の顛末を報告することにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る