第10話
「今日からお世話になります! ルナと申します、よろしくお願いします!」
「はい、お願いします。ルナさんには教会の清掃と書庫の整理をお願いしますね」
「それにしても星教会は民間への本の貸出をしてるんですね。私もあとで本借りようかな〜」
「国の意向で国民なら誰でも読めるよう整備してくださってるんですよ。他の街の星教会も貸出を行っているので、返却もそちらでしても良いのです」
「凄い…!」
私は今、雑用の依頼を受けて教会の手伝いをしていた。アリゼさんによれば、ハロウィンが終わると星教会では帰れなかった霊たちを強制連行する措置が行われるらしい。二十数年前までは技術的に不可能だったが星の魔女カヤ・ナナホシが新たな魔法を開発し、それが星教会に取り入れられため毎年恒例の行事となったのだという。修道士たちはそのサポートに忙しくしており、低ランクの冒険者に手伝いの依頼が回ってきたのだとか。ちなみに、カヤ・ナナホシとは私のお母さんのことだ。ドヤァ!けれど星の魔女という二つ名があることは、今日初めて知った。私もそういうの欲しいしなんでお母さんは内緒にしてたんだろう。まああとで手紙にでも書いておこうっと。
「すみません! この本はどちらに置けばいいですか?」
「それは七十列目十三ブロックの上から三段目にシリーズがありますので」
「ありがとうございます!」
それにしても、この書庫は大きいなあ。とはいえ、これよりも大きな書庫を私は知っている。お母さんが持つ無限書庫だ。千列以上の本棚に、五階層もある巨大な書庫だった。十年以上も通い詰めているけど、まだ全部は読めていない。お母さんは『これからもまたまだ増えていくよ』と言っていたので、次に帰った時にはどれくらい増えたか確認してみよう。
「七十列目の十三ブロックはっと…ああ、あった」
上から三段目というのは、私の身長だと届かない。だから、大きな移動式階段を使うことになる。車輪がついているので持ち運びはできるけど、それでも運搬には少し苦労する。
「ふう、このシリーズの本はこれで全部っと…あれ、なんだろうこれ」
私はふと、隣の十二ブロックに目をやった。そこには『星隕石と星骸の謎』と書かれた本がある。興味を引かれて、移動式階段を少しずらして、その本を手に取った。
「星隕石。遥か昔、現スーランド王国最北の街であるスターズライト、通称灰の国に星隕石が飛来、落下した。その日以来、人類の中で特異な体質の者が現れたという。その特異な体質の者は強い力を手に入れたが、それはあまりにも諸刃の剣であったために存在を封印された…」
本の冒頭にはそう書かれていた。お母さんの教えでは、オークニーの西部に巨大な大穴があり、そこには絶対に近づかないようにと何度も言われていた。
「この本の内容、お母さん知っていてあんなに口酸っぱく言ってたのかな」
私は続きを読もうと、次のページを開こうとした。その瞬間――
「こら、ルナさん! サボらないの!」
「あ、すみません。この本を見つけてしまって…」
司書さんから突然声をかけられ、私はびっくりしてしまった。とりあえず、この本のことを聞いてみようと階段を降りる。
「この本なんですけど」
「この本は…!」
「どうかしました?」
「すみません、この本は回収させてもらいます」
司書さんはその本を手に取ると、私の手から引き取って、受付の方に向かおうとしていた。
「私、続き読みたいんですけど…」
「ダメです。早く仕事の続きをしてください」
「はあい、わかりました…」
一瞬だけど、司書さんの目が怖かった。鋭い眼光で私を睨んでいたし、私が本を渡す時に、強引に引っ張るようにして取ろうとしていたように感じた。まるで、この本の続きを読んではいけないかのように。
「なぜこの本がこんなところに紛れてたんでしょう…。禁書指定のこの本が…」
「司書さん、何か言いました?」
「い、いいえ。何でもないですよ」
司書さんが何を言っていたのかは不明だけれど、仕事の続きをしなきゃ。私は司書さんの後ろを追うようにして、受付まで戻った。『星隕石と星骸の謎』…ものすごく気になる。絶対に続きを読むんだ、という気持ちが心の中でメラメラと燃えていたのだった。
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