魔法少女ビビット・マジカ

第2話

「そういえば、あの人たちは大丈夫なのでしょうか？」

　私は修道士さんの問いに対し、微笑みながら答える。

「あの人たち？大丈夫、大丈夫！後半のクラゲの要素なんて、全部ブラフだから！ブラフ、大嘘、はったり！だから大丈夫だよ」

「ふふふっ。面白い人ですね、貴女は」

　そんな他愛のない話をしながら二人は市場に出る路地を探して裏路地を巡っていた。

「そういえば修道士さん。毎回『修道士さん』って呼ぶのも面倒くさいし、名前を教えてくれないかな？」

　私はふと提案をしてみると、修道士さんは少し驚きながらも笑い、答えてくれた。

「もちろんですわ。私の名前はリーゼヴェルデ・セレスティア。リーゼと呼んでください」

「リーゼかぁ、覚えたよ！じゃあ、よろしくね、リーゼ！」

「こちらこそ、よろしくお願いします、ええと。貴女は？まだ名前を聞いていませんでしたね」

「私？えへへ、ちょっと待っててね」

　私は思わずはにかみ、数歩歩いてからわざとらしく振り返る。お母さん直伝のご挨拶を披露する時が来たと感じた。これまで練習してきたこの挨拶を使う絶好のチャンスは逃してなるものか。

「人々を救済し、悪を断罪する正義の味方！魔法少女ビビット・マジカ、ここに参上！」

　裏路地に響き渡る声で叫んだ。その瞬間、冷たい海風がルティナの街角を通り抜け、ルナの頬をかすめた。その寒さに少しだけ気圧されたが、彼女は気にせず、胸を張り続けた。

「ビビット・マジカさん？ふふっ、あまり聞いたことのない名前ですね。」

　リーゼはその名乗りに少し戸惑ったようだったが、微笑を浮かべたまま聞き慣れない名前を呼ぶ。

「ああっ！えっと、違くて！」

　私は慌てて手を振った。違うの、そういうことじゃなくて。

「えっと、違くはないんだけど…私の本当の名前はルナ・ナナホシ。でもビビット・マジカは、魔法少女としての名前なの！」

「そ、そうなんですの？」

　リーゼは魔法少女という聞き慣れない言葉に戸惑いながらも納得したように頷いた。

「じゃあ、よろしくお願いしますね、ルナさん。」

「ねえ、差し支えなければ、歳も教えてくれる？」

「さ、さし…なんですか？」

　私は思い出したかのように聞いてみると、リーゼは少し不思議そうにしていたがすぐに笑顔を浮かべて答えてくれた。

「えっと、歳ですか？私は十二歳ですわ。」

「うそぉ！？私も十二歳だよ！偶然？それとも運命！？運命の女神様が私たちがここで出会うことを予見していたんじゃないかな！」

「運命の女神様、ですか？ルナさんも教会に所属しているのですか？」

　リーゼは不思議そうに尋ねる。そりゃあ聞いたことのない単語だもんな。

「ううん、運命の女神様っていうのは、お母さんの書庫にあった御伽話に出てきた神様、フォルトゥナのことだよ」

「そんな神様もいらっしゃるんですね、知りませんでした。」

「あは、あははは…そういうことじゃないんだけど」

　リーゼは、感心したように頷き、私は少し照れながら苦笑いをしていた。後から聞いたんだけどどうやら私たち二人は、同時に同じことを考えていたようだった。『この人、本当にちゃんと生きていけるんだろうか』と。