魔法少女ビビット・マジカ

雪華月夜

第1話

「やっと着いた、ここがお母さんの言ってたルティナ」


 私はとあるしがない冒険者志望の女の子。銀色の髪が腰まで届くくらい長いけど、御伽話のプリンセスに憧れてポニーテールにしてるんだ。目の色は青いけど、ただの青じゃない。夜空に広がる深い海のような青。お母さんが言うにコバルトっていう宝石の色と同じなんだって。身長はあまり高くないけど、それでも十分冒険者としてやっていける。森で鍛えた足腰はしっかりしているし、お気に入りの黒いローブが私を守ってくれる。頭にはちょっとしたアクセントとして蝶の飾りをポニーテールの結び目に、エメラルド色のペンダントを胸に身につけている。私は真宵の森にある実家を出て、貿易都市ルティナへとやってきたばかり!今日から冒険者として生きていくんだと決意を胸に抱き、ルティナの入り口を通過するのだった。


「うわあ、すごい!街ってこんな感じになってるんだ」


 ルティナの街は、私が育った森とはまるで違う。賑やかな通り、大勢の人々、そして石畳の広場――そのすべてが私には新鮮だった。入り口で門番さんが親切に冒険者協会の場所を教えてくれた。そうして私は今、冒険者協会の扉の目の前に立っている。


「ごくり」


 私は生唾を飲み込み、冒険者協会の重厚な扉を開ける。そこには様々な武具を身に着けた冒険者たちがひしめいていた。少し緊張しながらも受付に向かって歩み寄った。


「ぼ、冒険者登録をお願いします!」


 大きな声で挨拶をすることとお母さんから言われていた為、元気よく大きな声で挨拶をした。すると声を掛けた先には、女性の受付嬢が優しい微笑みを浮かべて立っていた。肩くらいまでの柔らかい栗色の髪が、彼女の優しげな雰囲気にぴったりで、どこか温かさを感じさせる。彼女の瞳は穏やかな茶色で、まるで暖かい日差しの中にいるような安心感を与えてくれるんだ。背丈は私より高く、スラリとした体型だけど、どこか親しみやすい感じ。笑顔がとても素敵な彼女の服装は動きやすそうな冒険者っぽい装いだけど、どこか品があって、冒険者協会の受付としてピッタリの雰囲気だと思った。彼女から登録書類を受け取り、私はそれに目を通した。


「こちらに記入してくださいね。登録が終わったら、クエストボードで依頼を確認できますよ」


 ルナは胸を高鳴らせながら書類を記入し、ついに冒険者としての第一歩を踏み出す準備が整った。初めての冒険者カードを手にした私は、クエストボードの前に立ち、掲示されている依頼書をじっくりと眺めた。しかし、ボードには討伐依頼や危険な任務は見当たらなかった。


「すみませんね、あまり魔物狩りとかは出回ってなくて」

「あ、さっきの人。どうもです!」

「私、アリゼ・ユーリシアって言うの。よろしくね」


 先程対応してくれたアリゼさんと握手をし、再びクエストボードを眺める。なるほど、貿易都市ルティナは平穏で、戦いや魔物討伐の必要がないみたいだ。


「せっかく冒険者になったのに…」


 私は少しがっかりした様子でつい愚痴を溢すと、アリゼさんはクエストボードの上の方に貼ってあった依頼書を手に取った。


「初めての依頼には、こういうものがいいかもしれませんね。」


 そう言って手渡されたのは、迷子の猫を探すという依頼書だった。私はそれを見て、思わず笑みを浮かべた。


「猫探しなら得意です!実家でもペットの猫のミケを探して捕まえること、よくしていましたから」


 ミケとは私の姉兼友人のことである。お母さんの相棒で、人の姿に変身して魔女狩りを手伝っていたのだと言っていた。だが勿論私は知っている。猫が人に変身するのなんて嘘、お母さんの書庫にあった沢山の御伽話には書いてなかった。よってミケは普通の猫!きゅーいーでぃー、しょーめいしゅーりょー。


「それじゃあ、よろしくお願いしますね」


 こうして私は、初めての依頼に挑むことになった。それから私は街のあちこちを丹念に探し、すぐに迷子の猫を見つけ出した。そして、依頼主に無事に猫を届け、初めての冒険を終えた充実感に満ち溢れていた。



 依頼を終えて帰る途中、ふとした拍子に裏通りへ迷い込んでしまった。賑やかで太陽の日差しが差し込む表通りとは対照的に裏通りは静かで寂しげのある薄暗い街並みだった。


「ここ何処だろう」


 薄暗く、どこか不穏な空気が漂う通りで、私は表通りに戻る道を探しながら歩き続ける。すると、向こうの方から小さな声が聞こえてきた。


「きゃあ!やめて!」


 声の方に目を向けると、酒に酔った数人の男たちに囲まれて困っている一人の女の子が見えた。彼女は聖女の衣をまとい、どう見てもこの場にふさわしくない存在だった。


「あるんだ、本当にこんな展開!」


 私は見習い魔法少女として躊躇せず、彼女を助けることを決意した。ローブの中から一欠片の魔水晶を取り出し砕き、そして詠唱を唱えた。


「Wasserqualle, umschlinge und halte fest――'Gefängnis der Meereskette'!」


 瞬く間に水のリングが男たちを包み、酔いしれた彼らの頭上にクラゲの傘が現れる。彼らは拘束している水のリングを引きちぎろうと頑張っていた。


「無駄だよ。私の魔法、アクアジェイルは対象を水の鎖で拘束する魔法ってだけじゃない。その本質は対象の魔力を吸い取って麻痺毒を植え付けるクラゲとしての特性、つまりこのままだと貴方たちは死んじゃうよ」

「わかった、降参だ!だからもう解除してくれ!」

「私ぃ〜。解除の仕方、わからな〜い☆」

「ふざけんな!」

「助けてくれよ!」


 お母さん直伝、かわい子ぶる少女は何やっても許される攻撃。ただし時と場合を選ぶ。対象は可愛さにやられてノックダウンするらしい。知らんけど。


「大丈夫?」

 

 私は急いで聖女に声をかけた。彼女を見て私は可愛らしい人だなあと見惚れていた。彼女の金髪は私の髪くらいの長さで、毛先にいくにつれて翡翠のグラデーションが映えている。髪が彼女の腰部あたりまで優雅に垂れていて、そのたびに柔らかな光を反射していた。彼女の目…私と同じ青い色なんだけど、私の青とは違って、もっと神秘的で、まるで星空を直接見つめているみたいだった。多分サファイアっていう名前なんだと思う。そんな彼女を見ていると私は何故か胸がドキドキしていることに気づいた。なんだろうこんな気持ち。私、こんな感情知らない。


「ありがとうございます。本当に助かりました。」


 聖女様はまだ少し震えているようだった。その様子に気づき、優しく手を取った。


「もう大丈夫だよ、聖女様。でも、どうしてこんな危険な場所に一人で来ていたの?」

「実は、教会の仲間たちのために食料を買い出しに来ていたのですが、道に迷ってしまって…。私まだ見習いでこの街に来たばかりで。だから聖女じゃなくて修道士です」


 修道士さんは少し恥ずかしそうにうつむいた。


「そうだったんだ。それじゃあ、私も手伝うよ!」


 私は明るく声を上げた。すると修道士さんは驚いたように顔を上げる。


「そんな、お手間を取らせてしまっては…」


 修道士さんは遠慮がちに言ったが、力強く首を横に振る。


「気にしないで!私、今はまだ冒険者になったばかりで、手持ち無沙汰なんだ。それに、一緒に行動すれば道に迷う心配もないし、何かあった時もすぐに助けられるから安心でしょ?」


 修道士さんは私の言葉を受け、少しの間考えてからゆっくりと頷いた。


「それでは、お願いしてもよろしいですか?」

「うん!任せて!」


 修道士さんは感謝の気持ちを込めて微笑んでいた。私はその笑顔に応えるように、元気よく答えたのだった。

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