魔導自動ネコ型少女人形【黒ニャミえもん】

楠本恵士

第1話・オッス!オレ黒ニャミえもんワクワクするぞ

「おっさん、変態だよ」

 オレは自分のアパートの部屋で、子どもの時から使っている机の引き出しから出てきた変な女から顔面騎乗をされていた。


(ブラック企業に勤める派遣社員で社畜の、冴えない中年男のオレが、どうしてこんな嬉しい目に)

 黒い極小ビキニで、オレの顔に騎乗している、ココア色肌でネコ耳、ネコ尻尾をつけた奇妙な女はゴリゴリとオレの顔に股間を押しつけてくる。


「うぷっ、息ができない……頼む窒息死する前に、どいてくれ」

「ウニャ、しょうがねぇな」


 オレの顔から離れた女は、床に四つ這いになるとネコのような姿勢で体を伸ばす。

「んーっ、狭い引き出しの中から出てきたから、体が固まっているぜウニャ」

 立ち上がった日焼けネコ耳カチューシャ女が、オレに向って自己紹介する。

「オッス! オレ『黒ニャミえもん』どうだ、おっさんオレのボディにワクワクするだろう」


 ことの発端は数分前──人生詰んだ感がある。派遣社員で社畜な中年男性のオレが、薄汚れた自分の部屋で気が抜けた缶ビールを呑みながら、ツマミのポテトサラダを食べていると。

 子供の頃から使っている机の引き出しがガタガタ揺れて、勝手に開いた引き出しの中から、日焼けした女の腕が現れた。

「う~ん、尻がつかえて出れないウニャ……おーい、誰かいたら引っ張って出してくれ」


 オレは得体が知れない、机の引き出しから、女の手が出ているという怪奇現象に……見なかったコトにして、机の引き出しを閉めるために近づくと、二本目の腕が出てきてオレの首筋にしがみついてきた。

 オレが悲鳴を発して尻餅をつくと。その勢いで、引き出しの中か出てきた。日焼けした極小ビキニの女がオレの顔面に騎乗した。

「ひっ!」

「おっさん、変態だよ」

 これが黒ニャミえもんと、オレの出会いだった。


  ◇◇◇◇◇◇


 自己紹介を済ませた黒ニャミえもんは、勝手に台所から。オレが食べようと思っていた魚肉ソーセージを冷蔵庫から出してきて、胡座あぐらをかくと。

 ムシャムシャと食べはじめた。

「おっさんの部屋の冷蔵庫ってロクなモノが入ってねぇな……こりゃ、最後の晩餐は寂しい晩餐になるぜ」

 オレは訝りながら、ずーずーしいドロボウネコの黒ニャミえもんに質問してみた。


「おまえ、なんなんだ?」

「見てわからニャイか」

「わからないから、聞いているんだ」

「しゃーニャイな、ウニャ」

 ソーセージを食べ終わって、立ち上がったニャミえもんが、腰に手を当てて言った。


「オレは、異世界の魔導士に作られた『魔導自動ネコ型少女人形』ニャ……こちらの世界で言うところの、アンドロイドみたいなもんだニャ。動力源は、小型原……」

「もういい、なにをエネルギーにして動いているのか知ったら、怖くなる……それで、なにしにオレの所に?」


「それそれ、実はおっさんの今の人生は間違った人生なんニャ」

「オレの人生が間違った人生……薄々そんな気はしていた。子供の時からロクな人生じゃなかった……もっと、オレの本来の人生は輝いている人生で……」

「逆ニャ、おっさんの転生輪廻人生は本当なら〝ダンゴムシ〟の人生ニャ」

「なにぃぃぃぃぃ、オレの人生がダンゴムシの人生⁉」


 ニャミえもんの話しだと、転生輪廻の女神というのがいて。オレの生まれ変わりを管理していたらしい。

「徳が低いおっさんが、本来は人間に転生するのは段階的に間違っているのニャ……単細胞生物から徐々に、レベルアップしていってダンゴムシまでステップアップ転生してきたのに、いきなり〝サヘラントロプス猿人〟から、今の人間に飛び越し転生してしまったんだぜ」


「サヘラントロプス?」

「サヘラントロプス・チャデンシスのコトニャ……最近の研究で、人類の先祖はアウストラロピテクスでは無いらしいコトがわかったニャ」

「オレは生物進化は詳しくないが、なんでそんな転生輪廻したんだ?」

「転生輪廻の女神が、デート当日で浮かれていて。二度ミスったのウニャ」

「はぁ?」


 輪廻転生の女神は、ダーツのようなモノを投げて何に転生するのか決めているらしい。

「本来は、どんな順番が正しい転生輪廻なんだよ」

「普通だったら〝ボノボ〟から、人類になるニャ……おっさんのように猿人から直接、人間は異例ニャ……だから」


 黒ニャミえもんは、腹の異世界ポケットから、異世界のオノを取り出すといきなり、オレに向って振り下ろしてきた。

「ぶっ殺……もとい、正しい転生輪廻ルートにもどすぜ!」


 オレの視界が真っ暗になった。飛んだ意識の向こう側に流れる河と、燃え盛る炎の山が見えた。

 オレが次に意識を取り戻した時──同じ部屋で仰向けに倒れていて。

 胡座あぐらをかいて、勝手にお茶をすすっている。

 黒ニャミえもんの姿があった。テーブルの上に飛び散った血痕を濡れタオルで拭きながらニャミが言った。

「失敗した……まさか、異世界から取り出したオノにタイムリープの死に戻りの魔力が、かかっていたなんて……次はちゃんと仕留め……もとい、導くニャ」


 上体を起こしたオレが、ニャミえもんに言った。

「おまえ、さっきぶっ殺すって言ったな……確かに聞いた」

「ウニャ、気のせいにニャ」

 その時、ニャミえもんのネコ耳カチューシャがピカピカ光ったのを見た。

「あっ、転生輪廻を失敗した、クソ浮かれた女神から通信が入ったニャ……なになに、そんなのありかニャ、いい加減な女神だぜ」

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