友希人と実紀人

 百合猫の部屋の前でオレは、

「コンコン入るよ百合猫‼︎」

 と、早口言葉なみに呪文を唱え、百合猫の部屋へと侵入した。

 

「なんだ、実紀人か…」

 

 百合猫は、ちょっと残念そうな顔をした。

 

 

 いやいや、オレは友希人なんだけどな…

 

 百合猫は、気が動転しているあまりにオレと兄貴の名前を間違えたのだろう…。

 

 

「百合猫…大丈夫か?」

 

 オレは百合猫を心配して顔を覗き込んだ。

 

 …

 

 そしたら百合猫は、

「うん、大丈夫だよ。」

 と力なく笑った。

 

 

 ぜんっぜん大丈夫じゃないよね⁉︎

 

 兄貴の時も百合猫は、こんな顔してたじゃないか‼︎

 

 

「百合猫…大丈夫じゃないよね?ほんとは辛いんでしょ?無理すんなよ」

 というと百合猫がいきなり

「じわる」

 と言い出した。

 

 

 ん?

 

 百合猫…今…もしかして…

 

 …

 

 オレは、百合猫の言葉を聞いて百合猫を優しく抱きしめた。 

 

 そして、

「ごめんな…オレでごめんな」

 と謝った。

 

 そしたら百合猫が慌ててオレから離れて、

「どうした、いきなり⁉︎」

 と驚いていた。

 

 …

 

 

 やっぱりオレじゃな…。

 

 

「オレじゃ代わりになんかならないよね。」

 

 

「…え?どういうこと?兄弟だからってこと?」

 

「だって百合猫…今、まじわる?って言ったんでしょ?オレで妥協するなんてよくないって…」

 と、オレが真面目に言ってるのに百合猫は、めっちゃ笑い転げた。

 

 

 ⁇

 

「えっ?なに⁇」

 

「待って、わたし…交わるなんて言ってないよ!じわるって言ったの!声が似てるから…さ。」

 

 という百合猫。

 

 

 あー、百合猫は…やっぱり兄貴が忘れられないのか。

 

 

 …

 

 そうだよなぁ。

 

 

 じゃあ、二股彼氏とは別れたのかな…?

 

 

「百合猫…やっぱり忘れられないんだな。まぁ時が解決してくれるよ。」

 と、なんとかおれなりに慰めたつもりだった。

 

 

 そしたら百合猫は、涙ぐみながらも

「うん、あんなやつ…あんなやつよりもいい男見つけてやるんだ‼︎見てろよ、友希人め」

 と意気込んだ。

 

 うんうん。

 

 ってか…百合猫…⁉︎

 

 名前間違え過ぎじゃね⁉︎

 

「百合猫さ、最近眠れてる?」

 

「え、うーん。あんまり。」

 

「だよな。じゃあさオレの写真送ってやるからそれ寝る前に見て安眠したまえよ」

 と冗談で言った。

 

 すると百合猫は、

「あー、いいね!でも実紀人じゃなくて、じゃあ家猫ちゃんシリーズ送ってよ」

 とおっしゃった。

 

 

 ん?

 

 百合猫は…遠回しに兄貴の写真送れって言っているのか?

 いま、オレの写真のこと言ったのに…

 百合猫って…最近オレと兄貴の名前勘違いしておらん?

 てか、なに⁉︎

 

 脳内が混乱中…

 

 

 オレの写真送るって言ったのに、実紀人の写真じゃなくて猫とか…さ。

 

 もう脳内兄貴だらけってわけっすか⁇

 

 

 

 …

 

 

 

 でさ、

 オレの写真…完全にスルーやん‼︎

 

 兄貴と猫のみかい‼︎

 

 

 …

 

 まぁ、オレは百合猫にとったら圏外なのだろう。

 

 

 確かにそうだよな。

 

 こんなかわいくて美人と話せるだけでも奇跡だし、ありがたいことなんだもんな。

 

 

 百合猫は、もう推し活をするのが一番いいように思う。

 

 もう二股男に騙されないように、百合猫には推し活をあっせんするのが一番だ!

 

 

「百合猫、もうさ付き合うとかそういうの抜きにして推し活したら意外と気持ちも変わるかもよ?」

 と、言いながら兄貴の写真を送った。

 

 

 すると百合猫の携帯に今送った写真が届いたようだ。

 

 

 そして百合猫は、しばらく固まった。

 

 

 ?

 やっぱり兄貴の写真をみて推し活できない。やっぱり好きなんだもんってなってしまったのだろうか…

 

「…どうした?大丈夫か?」

 

 オレの問いかけに百合猫は、

「なんで…今このタイミングで友希人からこんな写真が?これは実紀人の写真じゃん…わたしは、友希人の写真が欲しいんだけど…」

 と、つぶやいたのだ。

 

 

 そしてまたボソっと

「どっかで話聞いてる?」

 と部屋をキョロキョロしだした百合猫。

 

 

 いや、どっかにいそうとかそういうことじゃない。

 

 リアルタイムです…百合猫や。

 

 もう目の前のオレの存在すら消し去ろうとしてないか?

 

 …

 

 百合猫さん…。

 

 

 オレは透明人間的な存在なのですね。

 

 だからって…

 

 あからさまにそんな…

 

 と、どうしていいかわからなくなり…うっかりほんとに消えてしまいたい気分になっている時に、兄貴がやってきました。

 

 

 参考書いいのが机から出てきたからこれあげると。

 

 

 百合猫は、

「ふぅえぅっ⁉︎ん…なっなにっ⁉︎」

 とめっちゃオレと兄貴をみて驚いているのでありました。

 

 

 続く。

 

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