7. 君嶋先生の昔話

7-1

「君嶋先生、前は病院連れていって頂き、ありがとうございました」


 そう言って直也は君嶋を真っ直ぐ見詰めた。


 放課後、君嶋専用の教員室に一歩入ると、直也はいきなり君嶋にそう言った。


 はじめ思いも寄らない来客に驚いた様な顔をしていた君嶋は、視線を直也から外すと溜息を吐く様に言った。


「思い出しちゃったのねぇ……」


 直也はカイルのツララ事件の時、君嶋と初めて会った時の事を思い出した。


 直也がまだ小学生高学年の時、直也と何人かの青草院の生徒でキリウの見舞いに病院に行った事があった。


 胸の辺りを包帯でぐるぐる巻きにされ青白い顔でベッドに横たわるキリウの様子に、このまま死んでしまうのではないかと怖くなり皆して泣いた事は覚えていたが、それ以外の事、場所やどうやってその場所に行ったのかは今まで曖昧だった。


 そんな記憶の中、徐々に目の焦点が合っていく様に君嶋の存在が浮かび上がってきた。


(そうだ……君嶋先生が俺達をキリウ兄の所まで連れてってくれたんだ)


 小学校から戻るといきなり院長からキリウが入院したと言われ、それを知らせに来た戦滅師だという若い女性に病院まで連れて行ってもらった。

その女性こそが君嶋だったのだ。


 そしてそれと同時に、今までただの噂だと気にしなかった一年生の担任が『自虐トリオ』と呼ばれる理由と、キリウの胸の傷が直也の中で結び付いた。


 自然と湧いて来た恐ろしい想像に、直也は本当の事を聞こうと君嶋の元を訪ねたのだ。


「で、直也君。何を聞きたいのかな?」

 君嶋は書物机から離れ、直也を座る様促しながら自分もソファに腰を下した。


 直也も君嶋の向かいのソファに座るとすぐに言った。

「教えて下さい。あの時、何でキリウ先生はあんなけがをしていたのか。何で君嶋先生は『助けてあげて』と言ったのか」


 教員室の窓の外に大きな目を向け何か考えていたのか、長い静寂の後視線を直也に戻し君嶋は口を開いた。


「来週の月曜日、午後また来てくれるかな。それまでに話す事をまとめておくから。八時くらいまでなら何時でもいいから」


「はい」

 直也は短く答えた。

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