6-3
「助けてあげて……」
君嶋は直也に、院の子どもにやっと聞こえるぐらいの小さな声でそう呟いた。
(思い出した……あの時の人だ!)
「バカカイル! バカイル! 謝れ! キリウ兄ちゃんに謝れ、俺に謝れ!」
直也はもう涙も鼻水も拭かず、辛うじて視界の先にいるカイルに向かって怒鳴った。
「お前がルッサ人だろーが、じーちゃんが何だろうが俺達には関係ないだろ! 謝れ、逃げんな!」
動きが止まり、カイルは肩を震わせ振り返らぬまま言った。
「ソフは……とてもよいヒトでした。ボクにとって」
「そんなの当たり前だろ! お前の祖父なんだから」
直也は言った。
「コオリ、モウしワケ、ございません」
ゆっくりと直也の方を振り返ると、カイルの顔も涙でぐじょぐしょだった。
「イトして、オコナったワケでは、ありません。けれど、とてもカナしいと、クヤしいと、カッテにデてしまいます」
「医務棟行くぞ!」
直也がその場を動かぬまま怒鳴ると、カイルも距離を開けたまま首の関節が外れた様にこくりとその場で頷いた。
二人の距離は知らぬ間に縮まって、キリウが治療されている部屋に入る頃には、一緒に並んでいた。
二人が中に入った時、キリウは椅子に座り、立っているリーダー格の上級生の頬を右手で思い切りひねっているところだった。
看護師が一人いたが、とりあえずの処置が終わったのか、注射器や血で染まったガーゼを片付けている。
「いはい、いはいへふ」
上級生は涙目になりそううめいていた。
(あー、あれだけの事にもこれなんだ……)
直也は久しぶりに見る光景に一気に脱力し、少し懐かしく思った。
教育者の体罰が問題視される中、キリウはほっぺたひねりは体罰に入らないと考えているらしく、なにかしら悪さした院の子どもは必ずこれをお見舞いされるのだ。
キリウは直也とカイルに気付くと上級生をつねるのを止め、一層厳しい顔をしカイルを右手で手招きした。
カイルは無言で上級生の隣に並び、キリウの前に立った。
「カイル、俺達に言う事があるんじゃないのか」
「……すみませんでした、モウしワケございませんでした」
カイルはそう言うと、また目をうるませ両手の指を胸の前で組んだ。
「誰か死んでいたかもしれないんだぞ」
キリウは真剣な目でカイルを見据え言った。
「ジュツをツカうツもりはなかったのです。しかし、カナしくて、クヤしくて、それでアタマがミたされて……キがツいたら、デてしまっていたのです、コオリが……」
カイルはそう言うと、キリウの前にひざまずき両指を組んだまま首を差し出す様にうなだれた。
直也は『ルッサ式土下座だ!』と思った。
『すっごく楽しいルッサ語』のルッサ豆知識にそう載っていたのを思い出した。
「……分かっているならいい」
それまでの真剣な顔を崩し溜息を吐きながらも笑うと、キリウは続けた。
「これで勘弁してやる」
そう言うと素晴らしい速さでカイルの左頬をつまむと、後で歪みが残ってしまうのではないかというくらいつねりにつねった。
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