3-6


 スクリーンには、フルガ仲裁師四人、ルッサ仲裁師四人、国連より派遣された公式審判兼証人一人、計九人が審判を挟む様に向かい合っていた。


 フルガ仲裁師は思い思いの様式の服に、フルガの国旗にちなんだ青の腕章だけ統一させていた。

 一方ルッサ側は、国旗にちなんだ暗い赤色のローブを全員着用し、顔を隠す様にフードを目深に被っている。


 審判により宣誓が行われ、両国とも陣営を組みだした。

 スクリーン右にフルガ、左にルッサだ。

 フルガは御犬と春雪の前衛二人、キミドリと遊馬の後衛二人を、正方形を描く様に配置した。

 一方ルッサは、中央をわずかに後方に下がらせた前衛三人、それに守られる様に配置された後衛一人という陣形だ。


「フルガがまんま『正方の陣』で、ルッサが『杯の陣』ってやつだ」

 そう面倒臭そうに言いながら立ち上がると、笠間はスクリーン隣のホワイトボードに陣の名を書き出した。


「正方の陣は標準的な陣形で、攻撃、防御のバランスに優れる。杯の陣は守りに長けた陣形で、一般に攻撃力が強く防御力に弱い心術使いが守られる様に後衛に着く」

 ホワイトボードにバランス優、防御力特化とそれぞれの陣形に付け加えられた。


「この試合の見所ぁ、ルッサの魔女と呼ばれるミラの心術と……」

 笠間はローブに包まれた後衛を指し棒で示し続けた。

「……フルガ仲裁師の動き全部だ。はっきり言ってこの組み合わせ、俺の知る限りフルガ最強だ」

 右の口元だけ引き上げ、何故か得意そうに笑う笠間を見て、直也は今までで一番熱心な笠間先生を見たなぁと思った。


「十の至宝の一人。忍術使い、御犬仲裁師」

 正方形を描いているフルガ陣の前衛左側の仲裁師を指した。


「フルガ屈指の魔術系心術使い、キミドリ仲裁師」

 御犬の真後ろ、後衛にいるベールを被った小柄な仲裁師を指す。


「滅多に拝めねぇ特殊能力を持つ心術使い、遊馬仲裁師」

 キミドリの右側後衛、黒いローブで顔まですっぽり覆う中肉中背の仲裁師を指す。


「そしてフルガ剣術の使い手、春雪仲裁師」

 遊馬の前方、御犬の右に位置する烏面を被り袴姿で凛と立つ仲裁師を指した。


「まあ、今日の授業で俺が言う事は以上だ。次の授業で細かい解説すっから、今日のところは試合をようく見とけ」

 そう言うと笠間は、スクリーンに向き合う様に足を組んでどっかり座りこみ、手元のリモコンを押した。


 再びスクリーンが動き出し、試合が始まった。


 直也の記憶では、実際の試合時間は二十分もかかっていない。

ただ、仲裁師の動きが速すぎ、色々な技が花火の様に織り交ざり、体感時間では二十分を優に超えていた。


 やはり授業で見てもそう感じた。

 けれど今回はなんとか全体の動きを捉える事ができた。


 まず、審判の合図と共に、御犬と春雪が飛び出す。

 続いてルッサ前衛三人がローブの下から銃撃を開始。

 それに勢いを阻まれる事なく、春雪は向かい合ったルッサの一人の銃をフルガ刀で跳ね飛ばす。流れる様な動きでさらに頭部へと回し蹴りを放つと、そのルッサ仲裁師は頭部の勢いに持っていかれる様に場外に落下し、その場で気を失った様に動かなくなった。


 御犬はというと、春雪が右手のルッサ仲裁師に向かっている際、そこを攻撃しようとした中央のルッサ仲裁師と左手のルッサ仲裁師向かって同時にクナイを放っていた。

 クナイは吸い込まれたかの様に中央の仲裁師の手首に刺ささったが、左の仲裁師へのそれはギンッという金属音と共に銃で弾かれた。御犬はクナイを放つ際も足を止めておらず、左の仲裁師が再び銃口を向け様とした時、すでに次のクナイを構えそれをルッサ仲裁師のローブから微かに見える首に突き立て様としているところだった。


 それが止められたのは、ローブ姿の別のルッサ仲裁師が音もなく、いつの間にか御犬とルッサ仲裁師の間に現れたからだ。

 御犬が指示を受けてか――ほとんどの国の仲裁師は片耳にイヤホンをし、仲間と連携を取れる様に、参謀の指示を聞ける様にしている――陣形を作る様に元の位置に戻った時には、舞台は数十人に増えた赤黒いローブをまとったルッサ仲裁師達に埋め尽くされていた。


(えっ、なんで?!)直也は驚いた。

 直也が会場で見た時はこんな事は起こらなかったからだ。

 確かに何故か御犬はここで陣形に戻った様な記憶があるが、直也はそれを、術を発動しかけているキミドリを守るためだと思っていた。


 ここで突如映像が止まり、笠間が話しだした。

「これがルッサの魔女が得意とする術、シャトー・オー・カレードスコーだ。訳すと、万華鏡の影ってところか? 名の通り万華鏡の様に味方の姿を増やすが、実体をもたないただの映像みていなもんだ」


 直也はすっかり訳が分からなくなっていたが、ここでそれを言うと恥をかく様な気がして黙っていた。

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