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 直也が見て一番驚いたのは図書館で、図書館は中学の図書室とは比べものにならない程大きかった。

 五階建ての白い豆腐の様な建物で、地下三階まである。

 セキュリティゲートがあり、仲養生や職員、関係者に配られたカードを持っていないと入れない様になっている。

 地下三階には禁書が置かれ、そこには教員を含め許可された者しか入る事ができない。

 無理やり入るには、銀行の金庫室に入り込むくらいの覚悟が必要らしい。


 館内には色々な分野の本が置かれ、年代も手書きの物から携帯電話に差し込んで読む電子媒体の物まで様々だった。


 図書館を出ると、他のクラスの新入生を案内しているらしい団体に会った。


「ようっ」

 笠間は軽く右手を挙げ、教員らしき三十代前半の男性に声を掛けた。


 その男性は頭に底の浅い碗の様な白い帽子を被り、その下から短いが真っ直ぐな黒髪を覗かせている。

 服装は神父が着る様なゆったりとした緑を基調とした服を着ている。

 背丈は平均よりやや高い位だが、ゆったりとした服のせいで大柄に見える。

 そんな体に乗っかる頭は体と比べると小さく、顔の彫りが浅く唇も薄くて控えめな印象を受けるが、その切れ長で深い眼差しの両眼からは高い知性が覗える。


「あぁ、こんにちは。笠間先生」

 男性はそう言うと引き連れた生徒に向かってのんびりとした声で言った。

「こちらは一年三組担任、笠間先生です。あなた達はすぐに『基本戦術』を教わる事になりますので、ご挨拶して下さいねー」


 生徒達はばらばらと「よろしくお願いします」と挨拶した。


 笠間も自分の生徒を振り返り言った。

兎留場うるば先生だ。一年一組の担任をしている。おめーらは『基本術概論』を教わる事になる」


 笠間のクラス、三組の生徒達もぽつぽつと兎留場に向かって挨拶をした。


「あいつが『自殺』かな?」笹梅が直也にこっそり言った。


「うーん」

 直也は兎留場をよく見たが、柔らかくのんびりした口調から、人嫌いにも自殺未遂をした人間にも見えなかった。


「どっちにも見えないよね」

 直也もこっそり言った。


 笠間が引き連れた三組は一組と分かれ、校内案内を続けた。


 直也は学校の敷地の広さとその設備の充実さに驚き、わくわくした。

 笠間の話しだと敷地は壁伝いに歩くと一周するのに一時間位かかる程広く、高い色々な建物が多くあるのにも関わらず広々としていた。


 歩いていくうちに大体校内を一周し、最後に学生寮に着いた。

 直也は昨日はここに泊まって今朝入学式に参加したので、既に学生寮を知っていた。


「ここが学生寮だ、って言わなくてもおめーらの殆どが昨夜はここに泊まったんで知ってっかとは思うが」

 笠間はそう言って続けた。

「寮については後で寮長から説明あっから。じゃ、教室戻るぜ」


 笠間は生徒を引き連れて教室に戻った。

 生徒全員が席に着くと、笠間はホワイトボードに張りっぱなしのスケジュール表を見て言った。


「で、次は今後の流れか」

 笠間は、それぞれの机に既に配られているスケジュール表をそのまま読みだした。

「えー、明日は十時から学校制度のオリエンテーションだ。で昼休み後、十四時から教員紹介だ。で十八時から部活紹介だ」


 笠間はホワイトボードに簡単なスケジュールを書こうとしたが手が震え十八時の『8』を一回で書けず、SとSを左右反転させた様な形を書き、8を二回に分けて書いた。


「明後日から通常授業だ。時間割表は明日配られる」

 笠間はそこで余裕の無い目で生徒を見渡した。

「以上。後は、寮生は寮に戻って寮長の話しを聞く様に。それ以外は解散」


 笹梅は寮生ではなかったので、直也は同じクラスの寮生と一緒に寮に向かった。


 一般棟の北西にある寮は、ゆっくり歩いて五分程の所にある。

 南側に広い扇型の五階建て建物で、ベランダの所々に布団や洗濯物が干してある。

 寮は扇の真ん中に切れ目が入る様に、男子寮と女子寮に分かれている。


 直也の様に遠方から来た生徒は昨夜から寮に入り入学式に参加したので大体の荷物は既に部屋に揃っているし、寮の大部分を探検済みだ。


 一年生は二人一部屋で、直也は二組の草野くさの尽平じんぺいと相部屋だ。

 草野も昨日から寮に入っていて、お互い人懐っこい性格の二人は、すぐに仲良くなった。

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