第60話 宝箱に直接は入らないので
戦いが終わり、少しの間だけ身体を休めた後、
私はまだ思うように動かない身体を引き摺りながら、出現した宝箱を開いた。
中身は〈回復薬〉と〈解毒薬〉がそれぞれ3つ入っていたが、
それとは別にガチャから出てくる、"あのカプセル"が入っていた。
…………いや、風情無っ。
なんで宝箱からカプセルが出てくるのよ。
こういう外装は普通一つだけで充分でしょ……手抜きにしか思えないんだけど?
溜息をつきながらカプセルを手に取って中を観察してみる。
中身は〈成長玉〉と同じ様に外観はスーパーボールとほぼ同じだった。
でも……これは何となく〈成長玉〉じゃ無い気がする。
もっと別の性質を持った何かだと直感的に思った。
「……開けるか」
僅かに緊張しながらカプセルを開けると、
中に入っていたスーパーボールが青白く光って形が変化していった。
それから見る見る内に姿形が変化しつつ大きくなっていき、
最終的に日本刀になって、私の手元に落ちてきた。
私はその刀を落とさない様に慌てて受け止める。
「おっとっと……っ、これは……!」
────なんて綺麗な刀だろう。
鞘は雪のように真っ白で、艶やかに輝いている。
けれど、漆や塗料で加工したようには見えない。
鞘に使われた木そのものが仄かに光を纏っているかのように、雅やかな美しさがある。
また、鞘の先端と柄には上品な質感の赤紐が括りつけられており、
純白の鞘と赤紐のコントラストが刀全体を飾り、鮮やかに調和を齎している。
更に、花を模した白い鍔もまた美しい。
意匠の元になった花の種類は分からなかったが、
均等に広がる細い花びらの形を精巧に縁取っていて、
一つのムラも繋目もなく、刀の完成度をより引き上げている。
まさに一つの芸術品のような刀だ。
その美麗さに心を惹かれて、私は鞘を抜いて刃を鑑賞し始めてしまう。
抜き放った刃もまた見事な物で、清廉な泉のように澄んでおり、
美しさに唖然となっている私の間抜けな顔をよく写していた。
「……めっちゃ綺麗……」
〈衛種剣モラスチュール〉も綺麗だったが、
これは使う事すら勿体ないと感じてしまう程の綺麗さだ。
ふと地面にメモがある事に気が付いた。
恐らくカプセルから出てきていたのだろう。
私はそれを拾い内容を確認する。
【SSR(スペシャルスーパーレア)冠天羅】
冠天羅(かんてら)は精巧な技術で作製し、
とても強靭で鋭利な刃を持ちながらも、
白と赤の装具で芸術性を持たせた珠玉の一振りです。
冠天羅の柄頭にある3つの窪みは
刀に特殊な能力を付け加えることの出来るアイテムである、
灯り石(あかりいし)を埋め込むスロットとなっております。
スロットには最大3種類まで灯り石を埋め込む事が可能で、
埋め込んだ灯り石の分だけ能力を引き出し、自由に使用する事が出来ます。
SSR……!
今まで手に入れたアイテムの中で、最高のレアリティだ。
しかも、書いてある説明を見るに、どうやらこれはかなり凄い刀らしい。
だが、肝心の"灯り石"とやらが宝箱に入って無いので、
この刀の真髄は体感出来ないみたいようだ……無念。
……いや、今は刀に喜んでる場合じゃない。
とっととソラちゃんの捜索を再開しようと、
私は身体を完全に回復させる為、
手に入れた〈解毒薬〉を一気に身体に喉に流し込む。
「うぇぇ……」
身体に残っていた毒が消えていき、
感じていた痺れがさっぱり無くなった……が、余りに飲み心地が悪すぎる。
味は不味いという訳ではなく、グレープジュースのような味で寧ろ美味しくはある。
だが、そもそもこの薬の中身は真っ青でドロドロした不透明の液体なのだ。
見た目がキモすぎるし、味はいいくせして喉越しがヤケに粘っこくて気持ち悪い。
まるでグチョグチョに溶かしたぶどう味のモチを
喉に流し込んでいるみたいだった。あー、気持ち悪い。
嫌な思いをしつつ身体を全快させた私は
持ってきた宝箱に手に入れた薬と〈スクワダ〉を入れる。
そして、先程手に入れた〈冠天羅〉をズボンとベルトの隙間に通し、
その上で鞘の赤紐をベルトに括り付けた。
……ちょっと使うか悩んだが、この刀も結局は武器だ。
性能が良い武器を手に入れたのならバンバン使って
ダンジョン攻略を有利に進めるべきだ。
勿体ないからと日和って鑑賞品扱いして使わないなんて絶対に有り得ない。
使い捨てるくらいの気概で使うべきだろう。
それから私は宝箱を脇に抱えてながら、
〈衛種剣モラスチュール〉を両手に持って探索を続けようとした。
しかし、この部屋は行き止まりだったようで、先に続く道はなかった。
どうやら引き返すしかないようだ。
……っていうか、よく考えてみればこの空間の先に道があったら、
その道の先にソラちゃんがいる可能性だって充分に考えられた筈だった。
結果的には無駄骨になってしまったが、凄そうな武器も貰えたし、
こうしてちゃんと選択肢が潰れたのは逆に良かったのかもしれない。
失敗をポジティブに捉えた所で、
私は急いで道を引き返して分かれ道がある場所に戻った。
そして、また剣で棒倒しをして道を選び、今度は真ん中の道を進む事にした。
そこを進んでいくと、またもや分かれ道に辿り着く。
今度は二股の道だ。さて、どうするか……。
「うわあああ!! た、助けてくれぇええ!!」
「……は?」
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