第55話 難易度は高い筈なのですが
ソラちゃんと情報交換をして得た情報は以下の通りだ。
・目覚めた時に置いてあったガチャアイテムは
自身が持っていた戦闘用のものしかなく、
〈回復薬〉といった補助系のアイテムは用意されていなかった。
・ダンジョン内に配置されている部屋に入ると、
見えない壁が周りに張られ、モンスターを倒すまで部屋から出れなくなる。
・部屋内にいる全てのモンスターを倒すと宝箱が出てくる。
・ゴブリンを倒した時に出た宝箱の中身はお互いに〈回復薬〉だった。
・今のところ、お互いが散策しているダンジョンは洞窟であり、
明らかに違う場所に飛ばされている訳ではなさそう。
・イベントのクリア条件は不明。お互いに事前情報は貰っていない。
・連絡が可能となる条件も不明。
ソラちゃんも私に都度連絡を入れていたが繋がらず、
洞窟の通路を移動している時に私から連絡が来て初めて連絡が取れた。
ソラちゃんは部屋の脱出条件を調べていたらしく、
例えば壁を移動させたり、壊せたりするのかとか、
モンスターを倒さず〈粘水〉や〈重水〉で戦闘不能状態にして、
部屋から脱出出来るか等、色々と試してみたらしいが、
どれも意味はなく、結局モンスターを殺すしか脱出方法はなかったらしい。
それを聞いて私の罪悪感は浅ましくも少し和らいだ。
しかし、同時に酷く自分に苛立ってくる。
まったく、いつまでうだうだと悩んでいるのか。
あの化け物の命を奪ったのは私だ。
例え運営がそう仕向けたとしても、殺したのは私なのだ。
ならば、私が出来る事は悔む事ではなく、進む事だ。
それが、"私"に私が言った事だろう。
心の奥底から責めるような声が、頭の中で響いてくる。
…………その通りだ。
私が考えるべきはソラちゃんと合流する事で、
やるべきは全速力でこのダンジョンを駆け抜ける事だ。
それ以外は考えている暇はない。先へと進むんだ。
そして、私達は引き続きダンジョンを攻略しつつ、
一部屋ずつ攻略する毎に連絡を取り合うように決めた。
もし、戦闘していたりして出れない時は無理をせず、
電話が掛かってきても戦いを優先するようにして、
繋がらない場合はまた一部屋を攻略した後に連絡する予定だ。
『じゃあ、マチコさん。お互い頑張りましょうね!』
「えぇ、ソラちゃん。そっちも頑張ってね!」
「はい! それでは、ご武運を!」
そうしてソラちゃんとの通話が切れるが、
相棒の安否を確認出来て気が抜けたからか、溜息が出てきた。
……今更ながら、どうして私達は
こんな事に巻き込まれないといけないのだろうか?
第一イベントが終わった後に、SNS等で知ったのだが、
〈花の候補者〉や〈枯葉〉に選ばれていない人、
つまり一般人はイベントの参加不参加を自由に選べていたらしい。
このイベントもどうせそういう仕組みなのだろう。
ルール内容だって恐らく、その人達には知らせてる。
でも、私達は勝利条件すらも分からず、
賞金や賞品が何かも知らされてない。
その上、一緒に参加する為の"入り口"だってバラバラにされる。
挙句の果てに化け物を強制的に殺させられるとか、
まるでコロッセオに出場させられる奴隷になった気分だ。
こんなイベントが楽しい訳が無い。
「……せめて、ソラちゃんと一緒ならなぁ……」
そうぼやきつつ、私は急いで先に進む。
変わり映えのしない薄暗い道を暫く進んでいくと、
またドーム状に広がった部屋があり、そこで化け物が待ち受けていた。
ゴブリンが四匹と、真っ黒な大型犬が三匹。
新顔である黒い大型犬の目は、化け物らしく赤く発光しており、
身体つきも普通の犬とは違って非常に筋肉質だった。
また、常にグルグルと唸りながら涎を垂らしており、
鋭い歯を剥き出しにして獲物を探している。
……犬はどんな犬種でも好きなんだけど、
これはとてもじゃないが飼いたいとは思えない。
まぁ、取り敢えず見た目的にそれっぽいし、
あの犬は"ヘルハウンド"と呼称しよう。
そして、ヘルハウンドとゴブリンは私の接近に気付いていない。
てっきり犬だからある程度距離があっても
匂いで察知してくるかと思ったが、どうやら違うらしい。
何にせよこれなら先手が打てる……いやでも、もしかすると──?
私は脳裏に過った予想を確かめる為、
敢えて攻撃を仕掛けずに、部屋に入る直前で立ち止まった。
もう部屋にはあと一歩踏み出せば入れる。
モンスターとの間の距離だって二,三メートルしかない。
けれど、モンスター達は私に見向きもせず、何かを探しているだけだ。
……やっぱり、そうか。
あのモンスター達は部屋にイベント参加者が入らないと、
その人がいると気付かない"仕様"になっているんだ。
だとすれば、先手なんていくらでも取れる。
しかし、それはきっと高望みだろうと思い、
私は試しにヘルハウンドに向けて〈衛種剣モラスチュール〉を投擲してみた。
そして、投げつけた剣は見えない壁に弾かれた。
カァンと激しい金属音が鳴ったが、それでもモンスター達は気付いていない。
思った通り、部屋に入らないとお互いに攻撃出来ない仕様になっているようだ。
地面に転がった剣を拾いつつ、私はどう攻めるか考える。
これはメリットにもデメリットにもなる仕様だ。
上手く使えば色々と出来そうだが……あいにく私は剣しか持っていない。
だから、作戦はいつも通りといくしかない。
「……ふぅー……」
彼らを殺す覚悟をした後、
私は部屋の中に一気に突入し、機動力がありそうなヘルバウンド二匹へと、
両手に持った〈衛種剣モラスチュール〉を投げ付けた。
それにより部屋のモンスターが全員私に気付いたが、反応速度は思ったよりも遅い。
私の先制攻撃を避ける前に二匹のヘルバウンドは頭を貫かれて絶命した。
「グギャッ!!?」
急に仲間を失い、統率を乱されたゴブリン達はまだ戦列を立てられていない。
私は一番近いゴブリンの首へと、ズボンから〈スクワダ〉を取り出し刃を斬りつける。
ゴブリンの首が飛び、紫色の鮮血が舞う。
残りはゴブリン三匹とヘルバウンド一匹。
その残った4匹が陣形を立て、私へと殺到してきた。
後退しようともせず、臆せずに攻めてくるか。
引こうとすれば苦戦もせずに後ろを切れただろうが、
引いてしまえば死ぬと、モンスター達は本能で感じ取ったのだろう。
私よりも余程勇敢で心強い戦士だ。
こんな強い人材もとい魔物材を作れるのなら、私なんて必要ないだろうに……。
勇猛果敢な4匹によって敷かれた陣は、
ヘルバウンドが先陣を切り、ゴブリン達3匹が
遅れて後ろから扇状に攻めかかるというものだ。
そして、これもフェイントを入れてきている。
ヘルバウンドは後ろのゴブリンとの距離を一定に保って移動し、
足の遅いゴブリン達はヘルバウンドに追い付こうと必死に見える。
しかし……それはそうだと見せかけているだけに過ぎない。
恐らくヘルバウンドは私との距離をある程度詰めた後、
不意に足を止めて待ち構えた私の虚を突き、
後ろのゴブリン達を先行させて相手取らせるつもりだ。
そうして不意の出来事に狼狽えている私の首を、
ヘルバウンドは噛み砕こうとしているのだろう。
やはり、少ない手段を出来る限り使い、戦術を考えているらしい。
これがモンスターの数が10や20になり、
小隊規模まで隊列が組めるようになったらと思うと末恐ろしいものがある。
しかし、幸いな事に今はたった4匹だけだ。
私は敵の作戦を潰す為、私は前方へと飛んで、
ゴブリン達の真後ろへと回り込んだ。
それにより逆に虚を突かれたゴブリン達だったが、
なんとか反応し、棍棒を私に振り下ろそうとしてくる。
だが、碌に力が込めておらず、動きも鈍い。
私はその三本の棍棒を剣で打ち払って地面へと弾く。
そして、三匹の首を容赦なく切り払った。
「グ、ギャ……」
小さな断末魔を聞きながら、私は残ったヘルバウンドを見据える。
ヘルバウンドは作戦が破られた事にも怯まず、私に飛び掛かってきていた。
しかし、私は万全な態勢を維持している。
落ち着いて私はヘルバウンドの腹部を〈スクワダ〉で引き裂き、その命を終わらせた。
「キャイィン……」
「くっ……」
生き物を、命を殺したのだと理解させられる断末魔が部屋に響いた。
そんな声で鳴かないでよ……。
とにかく、これで全ての敵を倒す事が出来た。
自分の身を守る為とはいえ、
やはり生き物を傷付けるのは本当に気分が悪くて、気持ちが悪い。
早く、イベントを終わらせたいな……。
それから間もなく、モンスターが淡い光になって消えて、宝箱へと変わった。
カラーリングが赤いのも、見た目の装飾も先程の宝箱と同じだった。
その宝箱を慎重に開いて中身を見てみる。
中に入っていたのは──何故か私が今着ているシャツブラウスだった。
……着替えを用意してくれたって事?
斜め上の気遣い過ぎて反応に困るんだけど……?
怪訝に思いながらブラウスを持ち上げると、
その下にハガキサイズの紙が置いてあり、このブラウスに関する説明が記載されていた。
【N(ノーマル)女性用仕事着 ブラウス】
カテゴリー:仕事着シリーズの一つである女性用仕事着は
一般的に流通している品よりも格段に強固で上質な素材を下に作られた服で、
鉄の鎧と同等の防御力を備えています。
全ての部位を装備すれば、セット効果として使用者のステータスが上昇します。
……セット効果とか、ますますゲームじみてきたな。
まぁでも防具が貰えるというのは非常に有り難い。
しかも見た目はただのスーツなので、普段遣いするにも助かるアイテムだ。
……全身タイツじゃなくて本当に良かった。
早速着ていた物を脱いで、〈ブラウス〉に着替えてみる。
見た目は元の服とそこまで変わらなかったが、
袖を通した時点で素材の良さが分かってしまった。
まるで、シルクのような肌触りだ。
これで鉄並みの防御力があるなんてとても思えない。
ブラウスを着た腕に頬を当てて、その感触の気持ち良さを味わう。
いいなぁこれ……後3着は欲しい。
──あっ、元のブラウスはどうしよう。
悩んだ挙げ句、私が着ていたブラウスは宝箱に入れて持っていく事にした。
こうして宝箱に入れると、このなんてことない服もお宝のように思えてくる。
まぁ、私の服を欲しがる人なんて、ソラちゃんくらいしかいないだろうけどね……。
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