第28話 造花が二輪、生けられました

それから五日が過ぎた、日曜日の今日。

笠羽ちゃんと合う前にガチャをは引いて置こうと思った私は、

またもやガチャ筐体の目の前にいる。


そして、手慣れた手付きでガチャのハンドルを握り回す。

変化のない演出を眺め終わり、カランと出てきたアイテムは〈成長玉〉だった。



【R(レア) 成長玉 ATK+4】

成長玉はステータスUPアイテムです。

ステータスUPアイテムはお客様の身体能力を高めるアイテムとなります。

使用するとアイテム名に記載されている各ステータス値の横にある数値分、

お客様のステータス値(身体能力)を上昇致します。

ATKの場合、お客様の物理攻撃力と腕力が増強されます。



──相変わらずガチャから出るものは、〈成長玉〉ばかりだ。


あの〈スクワダ〉とかいう護身用の剣を引いた以降は、全部それだけだった。

別にガチャを引く行為に楽しみを見出してるわけではないが、

これだけ代わり映えのしない物ばかり出てくると、流石に飽きてくる。

強制的に金を払わせて引かせてるんだから、せめて楽しませる努力をしてほしい。


「……クソ運営」


私はそう呟きながら〈成長玉〉が入っているカプセルを開ける。

〈成長玉〉が光になってわたしの身体に消えていく。


この最初は幻想的だと思っていた光景も、

気付けば帰り道の夜に行き交う車のライトみたいに、

ありふれた日常になり始めている。


そんな特に何とも思わなくなった光を見届けた後、

私はポケットからスマホを取り出して、ステータスアプリを開く。

引いた後にこうするのも、日課みたいなものだ。



ATK 31

VIT 10

INT 0

MGR 0

AGL 20

LUK 0



……いや、いくらなんでも偏りが酷すぎるでしょ。

これは完全に、アクションゲームなら近距離特化型にしたキャラのステータスだ。

運営が私に魔法を使わせる気がないのか、

それとも私自身に魔法適正が無いのかわからないが、

ここまで魔法関係のステータスが上がらないというのは悲しく思えてくる。


どうせなら魔法使ってみたいのに。

まぁLUKはどうでもいい。

運営が操作してるガチャのレアの排出率とか気にするだけ損だし。

あ、そういえば、笠羽ちゃんはどういうステータスなんだろうか──?







「私のステータスはこれですね!」


ガチャ空間から出て、待ち合わせ場所に先週と同じカフェで笠羽ちゃんと会い、

気になった私は笠羽ちゃんにステータスを見せてと頼んだのだが……。

個人情報になるだろうから嫌なら見せなくていいと続けて言おうとする前に、

笠羽ちゃんは携帯を開いて快く私に見せてくれた。



ATK 3

VIT 2

INT 5

MGR 2

AGL 5

LUK 8



私と比べると……言ってしまえば全体的に低いステータスだ。

事前イベントではステータスを上げるような取り組みはされて無かったのだろうか。

っていうか、INTって知力も含んだステータスじゃ無かったっけか?

笠羽ちゃんが一桁とか思えないんだけど……?


「笠羽ちゃん。このステータスの値って、

 なんか笠羽ちゃんの実力に見合ってない気がするんだけど……」

「あはは。そういって貰えて嬉しいです。

 けど、このアプリはステータスアップアイテムの〈成長玉〉で

 どれだけステータスが上がっているのかを示すだけのものですからね。

 これだけ見ても、その人の元の実力がどのくらいかを知る事は出来ないので、

 佐藤さんは違和感を感じるんだと思います」


あー、そうだった。

第一イベントの時の説明分に、そういえばそう書いてあった。

でも、それでもどこか低いように感じる。


「笠羽ちゃんは〈成長玉〉を使ったことがあるのよね?」

「そうですね。偶にガチャから出るので使ってます」

「……偶になんだ。私はしょっちゅう出てくるから面白味がないのよねぇ」

「えっ、そうなんですか?

 ……佐藤さん、ステータス見せて貰うことって出来ます?」

「勿論。どうぞ」


私はスマホを渡して、笠羽ちゃんに自分のステータスを見せた。

笠羽ちゃんはスマホを受け取る時にお礼を言ってからステータスを見る。

すると、笠羽ちゃんは凄く驚いた顔になり、

私とステータスが写っているスマホ画面を交互に二度見し出した。


それで察したが、私は非常にステータスが高い人間らしい。

しかも、私のステータスの伸び具合はゴリゴリのパワータイプだ。

その高い値と私の身体とのギャップに、笠羽ちゃんは驚いているのだろう。


だけど、そんな余りにもゴリラなステータスの割には、

私の身体は今までとさして変わらない。

確かに以前よりも身体はかなり引き締まったが、

肩に小っちゃい重機を乗せているようなマッチョになったわけではなく、

あくまで普通の女としての、女性らしさが強調されたプロポーションになっている。


だからこそ笠羽ちゃんは綺麗な二度見をしたのだろう。

私だって同じ立場ならそういう反応になると思う。

けど、やっぱり女として、そういう反応をされると若干……いや、かなり悲しい。


「あー……えっと、す、凄いですね!

 ここまで桁が違うステータスだとは思ってませんでした。

 流石、佐藤さんです!」

「……私も、自分のステータスがここまでゴリラだとは思ってなかったわ」

「い、いえ! 別にそんな風に思ったりはしてませんよ!?

 佐藤さんは綺麗でスタイルも良くて格好いいです!

 同じ女性として憧れます! 落ち込まないで下さい!」

「ありがとう。その言葉で救われた気がするわ……」

「そうですよ! ステータスの事なんて気にしないで下さい! 

 佐藤さんは充分に魅力があって、可愛いって私は思ってますからね!」


鼻息を荒くしてそう言ってくれる笠羽ちゃんは私にとって天使に見える。

相変わらず優しい子だ……温かっくて涙が出てくるよ。


「あ! 可愛いと言えば佐藤さんってもう春服って買いました? 

 もし、買ってなかったら、今日は私が好きな古着屋に行きませんか?

 お勧めしたいです!」

「おー古着屋かぁ。私は自分ではあんまりとこだし、

 おすすめされちゃおうかな?」

「はい! ぜひ! えへへ。佐藤さんの古着コーデ……楽しみです!」


笠羽ちゃんは嬉しそうにそう言って、両手で頬を抑えながら私を見つめた。

今、笠羽ちゃんの頭の中では私は着せ替え人形にされているのだろうか。

私ってそんなに着せ替え甲斐がある見た目なんだろうか。だとしたら結構嬉しい。


だけど、私は逆に笠羽ちゃんの色んな新衣装を見れそうなのが嬉しい。

笠羽ちゃんが今日着てきた服は花柄のキャミソールワンピースに

カットソーを組み合わせた可愛らしい格好だ。

髪型もそれに合わせてか、緩くふわっとパーマをかけている。

こんな可愛らしい娘がまたガラリと服装を変えたら、より一層可愛く見える事だろう。


お互いに着せ替えを楽しみにしながら、私達はカフェまったりと寛いだ後、

笠羽ちゃんがお勧めする古着屋に向かった。

そこは個人経営でやってるお店のようで、全く聞いたことがない店名だった。

ヨーロッパ風に整えられた店の外見は華やかでありながらも可愛らしく、

店内もその要素を取り入れた空間造りが為されていて、

設置されている小物一つとっても店長のこだわりを感じられる。


「めちゃくちゃオシャなお店ね~」

「そうでしょう? そうでしょう? 

 初めて見た時可愛いー!って叫んじゃいそうでしたもん!

 早速、服選んじゃいますね!」


そう言って笠羽ちゃんは店の奥に消えていった。

あの迷いの無さ、もしかして事前に着せたい服をチェックしてたとか……?

ま、まさかね。


……私も笠羽ちゃんに着せたい服を選ぶか。

かなりの種類があるから選ぶのに時間がかかりそうだ。

でも、この選んでる時が一番楽しいのよね。


「あっ、このジャケットとか可愛いし似合いそう」

「本当ね。きっとあの子にも似合うと思うわ。

 でも、こっちの方が可愛いと思うわよ?」

「えっ? ご、ゴスロリ!?

 確かに似合うかもしれないけど、ちょっと攻め過ぎじゃ──って!!?」


まるで一緒に来た友人かの様にゴスロリ衣装を私に手渡そうとしてきた人は、

なんと、私を殺そうとしてきた少女……甘音クチルだった。

あの時と同じくゴスロリを着て不気味に微笑んでいて、

しかも、手元にはデザインがそれぞれ違うゴスロリを二着持っている。


「御機嫌よう、佐藤真知子。

 まさか、こんなにも早く再会するなんて、奇遇よねぇ」

「……な、なんで……あんたが、ここにいるのよ?」

「どうしてか、ですって? 

 それは当然ワタクシがこの店の常連だからよ。

 日曜日にはこの素敵なお店に赴いて、

 可愛らしい衣装を買うのがワタクシの日課なの。

 うふふ、素敵でしょう?」

「……っ」


さ、最悪だ。なんて最悪な偶然なんだろうか。

折角笠羽ちゃんが紹介してくれたお店なのに、

もう絶対に行けない店になってしまった。


って、そんな事を考えてる場合じゃない。

こいつがもし襲ってきたらまずい。

今回は笠羽ちゃんもいるっていうのに───


私が分かり易く動揺していると、

その様子を見た甘音は肩を竦めて不満げに溜息をついた。


「はぁ……まぁ、本当は偶然なんかじゃないのだけれどね。

 今日は貴方に忠告しにここに来たの」

「!? ち、忠告? な、なんであんたが」

「ワタクシは貴方に死んでほしくないからよ。

 理由は勿論……知ってる筈よね?」


そのじっとりした目線に怯み、思わず逃げ出したくなるが、

近くに笠羽ちゃんがいる事を思い出した私は寸前で踏み止まる。


このゴスロリ催促女は強敵だ。

笠羽ちゃんが私の代わりに襲われたら、あの子の身が危なくなる。


だから、私が守らないと……駄目だ。


震えそうになる足を叱咤し、私は笠羽ちゃんを守る為に、

甘音をしっかりと見据えて、持ってきていた〈スクワダ〉に手を伸ばす。

その行動に何故か甘音は興奮し、叫びそうになっていたが、

口を手で押えて声を押し殺した。


「ふーっ、ふーっ……うふふふ。

 危うく感極まって叫んでしまう所だったわ。

 このお店を出禁には成りたくはないしねぇ……うふふふふふ」


手で抑えた顔を真っ赤にしながら息を荒くし、

こっちを潤んだ上目遣いでこっちを見る様は、

一部の層にはグッとくるのかもしれないけど、私にとっては只々不気味だった。

気持ち悪いわぁ……。


「ふぅ。さて、忠告の内容だけれど……」


呼吸を整えて興奮を抑えた後、

甘音は薄く笑いながら忠告の内容を話し出す。

その内容は甘音がわざわざ私を訪れる理由として、余りにもハマりすぎていた。


「ワタクシ達"庭師の庭"はあと数日後に〈枯葉〉達に

 〈花〉の候補者達を襲わせる計画を立ててるの。

 だから、貴方の下にも必ず〈枯葉〉の人間が襲撃に来るから、

 どうにか殺されない様に気を付けてね?」


「……はぁ!?」

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