第25話 仲間と強敵は戦士にとってセットです
あれから我に返った私は、
笠羽ちゃんに異様な光景を目の前で見せてしまったことを謝る事にした。
「ごめん……怖いもの見せちゃったね」
「いえ、謝らないで下さい! わたしがした話のせいですし、
むしろ怒ってくれた方がありがたいです!」
笠羽ちゃんは焦りながら申し訳無さそうにそう答えてくれた。
あぁ、なんていい子なんだ。
スイーツで得られる一時の幸せよりも、
こんな子が側に居てくれる方が嬉しいに決まっている。
私が仮に笠羽ちゃんの立場だったら、
急にテーブルをスイーツでギュウギュウ詰めにして、
食い散らかした女にそんな感想は抱けないだろう。
こいつやば……って絶対なってるし、そう言ってる。
───いや、もしかして笠羽ちゃんもそう思ってるけど言わないだけ……?
こ、怖くて聞けない。
「……怒る訳ないでしょ?
笠羽ちゃんは私の為に辛い過去を話して、
理不尽に怒られる覚悟もしてきたんだから。
私は感謝しかないわ。本当にありがとね」
「佐藤さん……そういって貰えて、私。凄く嬉しいです」
「ふふっ、良かった。はぁ〜、それにしても、
こんないい子が私の友達になってくれるとか、
今日はなんて良い日なんだろうねぇ」
「あっ、友達……」
あ、やばっ。
つい、その気になって友達って言ってしまった。
さっきそう呼ぶのは早過ぎたかもしれなかったから、
気を付けようと思ってたばかりだったのに。
訂正しようか悩んでいると笠羽ちゃんは少しでも俯き、
膝の上で手をモジモジとし始めて呟く。
「えへへっ。友達……わたしの、初めての……えへへへ」
頬を赤くして噛み締めるようにそう呟いた様子はとても愛らしく、
私は今すぐ笠羽ちゃんを抱きしめたくなったが、
先程反省したばかりなので、流石に自重する。
なんて可愛い子なんだ……!
「佐藤さん、私もスイーツ頼んでいいですか?」
「良いわよ、どんどん食べなさい」
「あ、一応言っておきますけど奢って下さらなくて大丈夫ですからね?」
「えー奢らせてよー」
「駄目ですよ。私のほうが多く賞金を貰ってるんですから、
これ以上は受け取れません」
笠羽ちゃんは私のスイーツを貪っている様子を見て小腹が空いたのか、
ショートケーキとモンブランを注文して、美味しそうに食べだした。
そういえば笠羽ちゃんが一位になったから私の倍の金額貰ってるんだったな。
「賞金といえば……笠羽ちゃんは結果的に
私の味方になった訳だけどガチャアイテムは貰えたの?」
「はい。これを貰いました」
笠羽ちゃんは持ってきていたカバンから、
バッチのようなものを取り出してテーブルに置いた。
弁護士バッジみたいな見た目のバッチで、
中央には鷹の頭を横から見たような意匠が刻まれている。
一見すると何の変哲もない物に見えるが、これがそのアイテムなのだろう。
「これは?」
「これは〈鷹の目〉という名前のアイテムです。
効果としてはこれを身に着けるだけで、
スコープや双眼鏡の様な機能が目に追加されるって感じですね」
「目に……追加?」
「はい。このアイテムは服に装着するだけで、
マグネットみたいに付けられるアイテムで、
身に付けた瞬間から普段よりもかなり遠くの景色を見れる上に、
意識して注視すればその見ている場所を拡大して見る事も出来ます」
「おぉ……凄いわね」
「まぁ、確かに凄いんですけど……。
わたしも佐藤さんのように身体能力が上がるアイテムが欲しかったですね」
「えっ、どうして?」
「だってこれは遠距離での戦いや、指示役にとっての武器ですし……
そういう役割だと佐藤さんの近くにいられないから、嫌なんです」
「抱き締めていい?」
「ええっ!? い、良いですけど!?」
許可を頂けたので席を立った私は遠慮なく笠羽ちゃんをハグした。
あぁ~〜、ずっとこうしていたいわぁ〜。しあわせ〜。
「あ、あの、そ、そろそろぉ……」
「あぁ、ごめんごめん」
暫く抱きしめられていた笠羽ちゃんは顔を真っ赤にしてそう言ってきたので、
私は抱き締めるのをやめ、自分の席に戻った。
人目がある場所で抱き締められて恥ずかしかったのか、
笠羽ちゃんは若干涙目になっている。
そんな様子を見てもう一度抱き締めたくなったが……うん、止めておこう。
これ以上やったら流石に怒られそうだ。
「こ、コホン。ま、まぁ佐藤さんの役には
立てる物ではあるのでそこは良かったと思います」
「あははっ。ありがとね。これからもよろしく。私のパートナーさん」
「はい! ……私、頑張りますね! パートナーとして!」
そう言った笠羽ちゃんはとびきりいい笑顔をしていた。
その後、私達一緒に映画館に行ったり、買い物をしたり、ご飯を食べたりした。
そうして丸一日、笠羽ちゃんとデートして楽しんでいたら、辺りはもう暗くなっていた。
私達はまた次の日曜日に同じカフェで待ち合わせの約束をして、今日は解散する事にした。
名残惜しそうな笠羽ちゃんを駅まで送って、お別れの挨拶と約束を繰り返す。
「じゃあ、また来週。楽しみにしてるわね」
「はい、わたしも楽しみにしてます。じゃあ……おやすみなさい」
「うん! おやすみ〜」
こちらとチラチラと振り返りながら、
駅のホームに消えていく笠羽ちゃんを見送った私は、
得難い友達と相棒を同時に得たという実感をひしひしと感じていた。
家の最寄り駅まで帰ってきた私は鼻歌を歌いながら家路を歩く。
これ程上機嫌になりながら帰宅するなんて事あっただろうか。
だって、しょうがない。
あんなに可愛くて私のことを想ってくれる友達が、
今日この日に出来たのだから。
あぁ、次の日曜日が楽しみだ。
カフェだけじゃ満足出来ないだろうし、次は何処に行こうかな?
定番なのは映画だけど、いっそのこと遊園地にでも──
「────いい夜ね。佐藤真知子」
私の真横でそう、声が聞こえた気がした。
そして、聞こえた声がした気がする方向に顔を向けた瞬間。
私の目の前には"何か"が迫っていた。
「──!?」
間一髪で頭を後ろに振りその"何か"を躱す。
迫っていたその"何か"は血で染められたかのように赤黒く、
私の身の丈程もある巨大な大剣だった。
それをいきなり振るってきたのは、
白を基調したゴスロリを着た不気味な少女だ。
少女は大剣を横薙ぎに振るった態勢のまま、
膝裏まで伸びている長い黒髪を靡かせ、
淀んだワインレッドの目を私に向けて薄く嘲笑っている。
「やっぱり……躱したわね。
うふふふふ。聞いてた通り強いわね、貴女」
「……あんた、だれ?」
私が動揺しながらそう聞くと少女は口を三日月に歪ませて、
大剣をコンクリートの地面に突き刺した。
そして、スカートの裾を摘んでお淑やかに礼を執り、こう言った。
「挨拶が遅れたわね。初めまして。
ワタクシは甘音 クチル(あまね くちる)。
貴女の"敵"よ。どうぞ、お見知り置きを」
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