第20話 第一イベント終了です

「ど、どういう事!? 私が辛くなるって……?」


結構今でも辛いけど、まさか、これ以上に辛くなる事があるの?

いやまぁ、笠羽ちゃんがいれば大丈夫そうだけど……と思っていたら、

笠羽ちゃんは私がまるで予想だにしていなかった事を言い出した。


「もし、この状況下で他の参加者が生き残っていたら──

 佐藤さんは絶対にその人と戦う事になるからです」

「は、はぁっ!? な、何それ!? 怖すぎなんだけど!!?」


一体どうしてそんな事になるの!?

わけがわからず慄いていると笠羽ちゃんの口から、すかさず追撃が飛んでくる。


「詳しい理由はこのイベントが終わったら話すつもりですが……

 佐藤さんはガチャ運営が求めている人材に限りなく近いんです。

 そんな佐藤さんをこのイベントを勝ち進んだ強い参加者と戦わせないまま、

 脱落させるなんてあいつらは絶対にしない……いえ、"させない"。

 そんな絶好の機会を逃すなんて……絶対に考えられないんです」

「……えぇ……?」


笠羽ちゃんの言ってる事がどういう事なのか、

さっぱりわからない……わからないが、これだけはわかる。



私が運営から物凄く特別扱いされているって事が。



────ここまで嬉しくない贔屓が他にあるだろうか。

これからもまた強制的にこういう催しに

ご招待されてしまうのかと考えると、目の前が真っ白になりそうだ。


私が灰色の未来に遠い目をしそうになった所で、

笠羽ちゃんに私の手を握られた。

何をしているのだろうと笠羽ちゃんを見ると、

心苦しそうな顔をして私を見つめていた。


「本当にごめんなさい。このイベントが終わったら、

 わたしの知ってる事、全部話します。

 運営がこんなイベントをやっている理由も……

 私が佐藤さんにやってきた事も、全部。

 信じて……くれますか?」


────震えてる。


笠羽ちゃんの手が、私の手を揺らすように震えている。

きっと、私に真実を話すのが怖いんだろう。


私に嫌われるのが怖いからだろうか? 

それとも、私に辛い思いをさせるのが嫌だから?

だとしたら笠羽ちゃんには悪いけど……ちょっと嬉しい。

私の事を、そんなに気に掛けてくれてるって事だから。


私は握ってくれている笠羽ちゃんの手を、上から優しく手で覆った。


「あ……」

「大丈夫。私は笠羽ちゃんを信じてる。

 だから心配しないで、全部聞かせて貰うから……ね?」


私は笠羽ちゃんがなるべく安心出来るように、朗らかに笑ってそう告げた。

笑顔を受け取ってくれた笠羽ちゃんは少し涙目になり、

自分の手を覆っている私の両手に視線を落とした後、苦笑いを浮かべた。


「……ありがとうございます。でも、駄目ですよ。

 わたしみたいな悪人を簡単に信じたら」

「ふふっ、少なくともそんな風に心配してくれる人は悪人じゃないでしょ?」

「あははっ。もう……じゃあ、これから知って下さいね。

 わたしが"本物"の悪人だって事を」

「えぇ。存分に理解させてもらうわ。

 貴方が"偽物"だって事を、ね?」


そう言い合って、私達は二人で笑いあった。

暫く笑い合った後、私達のどちらが脱落するかを決める流れになったが、

私は相棒と争うつもりなんてさらさらないので、

さっさと脱落して笠羽ちゃんを一位にしようと提案する。


「じゃあ、私が落ちるわ。元々優勝したいわけじゃなかったしね」

「な、なっ!? 何言ってるんですか!? ここはわたしが落ちます!

 佐藤さんは生き残って高い賞金を貰うべきです!」

「いやいや、私だけじゃ絶対に生き残れなかったし、

 ここは年長者である私が譲るって!」

「嫌です!! それを言うならわたしだって佐藤さんがいなかったら駄目でしたよ!

 後、年上だからとか関係ないです! わたしに精算させてください!」

「いいから! 恩返しもしたいし私にやらせてよ!!」

「いえ、わたしが!!」

「私!!」

「わたしが!!!」

「絶対!! 私!!!」


お互いにむーっと睨みあう私達。

あぁもう、なんでこんな頑ななんだ。

その膨らんだ頬を両手で突っついてやりたい。


「もう! これじゃ埒が明かないです!

 こうなったらジャンケンで決めましょう!」

「ジャンケンで!? わ、わかった!」

「はい! 最初はグー! ジャンケン!」


────ここだ!!


「「ポン!!」」


そして結果は、笠羽ちゃんが出した手はパーで、私が出した手はチョキだった。

結果を見た笠羽ちゃんは地面に膝を付け項垂れる。


「ま、まけた……」

「ふふーん。らしくないわね笠羽ちゃん。私にジャンケンで挑むなんて」

「? ……はっ! まさか私の出した手が

 分かった瞬間に超スピードで手を出した!?」

「ご名答!」

「ずるい! ずるいです! 再戦を要求します!」

「もう駄目ー。私の勝ちなんだから私が二位で、笠羽ちゃんが一位で決定ね」

「ぐぬぬ……はぁ、わかりましたよ。もうそれでいいです」


よし。これで多少は支えて貰った恩を返せたかな。


そして私達は連絡先を交換し、また合う日時を決めた。

ただ情報を受け取るだけに会うのではなく、美味しいスイーツを食べる約束もして。

約束をした後、私は笠羽ちゃんの水鉄砲の銃口を額で受け止める。

笠羽ちゃんを一位にする為に、これから私は笠羽ちゃんに撃ち抜かれて消えるのだ。


「……えっと、わざわざ頭で受ける必要はないと思うんですけど」

「いいでしょ別に痛くないし。それにこの方が風情があると思って」

「うーん。あの時にしてた行動といい、

 佐藤さんってもしかして中二病だったりします?」

「ち、違うわよ!! ただちょっとかっこいいものが好きなだけで!」

「まぁ、いいですけど。それじゃ……また会いましょうね、佐藤さん」


銃を構えつつそう言って、にっこりと笑う笠羽ちゃんを見て、

これやっぱり止めた方が良かったかもと思ってしまったが、

今更そう言うのはダサすぎるので我慢した。


怯える気持ちを隠しながら、私はウインクを決めながら別れを告げる。


「えぇ。またね! 笠羽ちゃん!」


斯くして、私に数々の恐怖体験と頼もしい仲間を

プレゼントしてくれた第一イベントは幕を閉じた。




────数々の疑問を残して。





















【?????????????】



「社長。東京Dブロックにて、佐藤真知子と笠羽絵美のペアが優勝致しました」


「あぁ見ていましたよ。やはりこうなりましたね」


「あの"造花"は私達の最高傑作といっても過言じゃなかったからね~。

 あの候補者と組んじゃったらそりゃこうなるよね~って感じぃ~」


「そうだよなぁ……なぁ、本当にこれで良かったのかよ? 社長さんよ」


「はい。これでいいのです。これこそが、最上の結果です。

 イベント前の彼女の精神は酷く不安定な状態だった。

 仲間がいない状態でこのイベントをこなしていたら、

 彼女の心は壊れてしまっていたかもしれません。

 だからこそ、ここで安定した勝利という経験と、

 頼りがいのある仲間が欲しかった。

 仲間が出来た事で彼女の精神は充分に安定し、

 勝利した事で戦闘においての自信もある程度ついたでしょう。

 本当にいい結果だと思っていますよ」


「社長は彼女の事をかな~り贔屓してますよねぇ~」


「当然でしょう。あれだけの膨大な器に、

 高潔な精神、更には"■当たり"ときている。

 これ程の人材は他にはいない。

 まさに、絶対に枯らしてはならない"花"だ」


「ではやはり、彼女に"時計"を?」


「そのつもりです。しかし、まだその時期ではありません。

 "時計"の調整も必要ですし、

 何より第一イベントは彼女らの"顔合わせ"に過ぎないのですからね。

 この後に踊ってくれる"枯葉"達が彼女の栄養となるのを待ち、

 そして、次のイベントで私達の想定通りに育ってくれれば……

 満を持して、最大級の敬意を込めて、彼女に"時計"を進呈します」


「畏まりました。ではその時に備え、我々も最善を尽くします」


「尽くしま~す」


「……あぁ」


「くれぐれも宜しくお願いしますね──我が社員達」


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