第11話 純粋だからこそ、必要なのです

──さっきまでの一部始終を、

ただの女子高生がやってのけたなんて誰が信じられるだろう。


普通に考えてありえない。

あの演技力と戦略。それに銃の腕。

どれもが完成されていた。


特におかしいのはあの豪胆さだ。

一般的な女子高生なら、誰かに襲われるという状況はとても怖いものの筈。

なのに、この子はそれを全く意に介さず、淡々と作戦を遂行した。

私とは違うベクトルで異常な人物であるのは間違いないだろう。


私の質問を聞いた笠羽ちゃんは最初キョトンとした顔をしていたが、

直ぐにニコッとした顔になって答える。


「別に慣れてるわけじゃないですよ。

 ただ相手の位置がわかってて、いつ攻撃されるかも予測出来たから、

 落ち着いて対応出来ただけだと思います」

「……それだけ?」

「ほんとですよ? 見た目通りわたし、普通の女子高生ですので」


笠羽ちゃんはそこそこある胸を張り、何故かどや顔してそう言った。

……疑問は残るが、これ以上詮索して藪蛇になるのは避けたい。

この子を敵に回すのはやめた方がいいというのは、

さっきの手際を見ればよくわかる。


「他に質問ってありますか? なんでも答えちゃいますよ」

「……そうねぇ」


戦闘経験については聞かない方がいいとなると、

どうしてそんなに強いのに仲間が欲しいのかが気になってくる。

私を仲間にしたい理由は聞いたが、何故仲間が必要なのかは聞いていなかった。


彼女が持っている〈敵感知アプリ〉。

それと高い判断力と精神力。どれもこのイベントにおいての強みだ。

特に〈敵感知アプリ〉で敵をサーチ出来るのは明らかなアドバンテージであり、

本来敵である参加者にそれが出来ると教えて、

その優位性を無くすような真似をするのは愚策に思える。


私がそう疑問に思いながら、笠羽ちゃんを見る。

笠羽ちゃんは投げたスマホを回収して、動作確認をしていた所だった。

……あのスマホがデコレーションされてる理由って、

まさか投げた時にスマホが壊れないようにする為だったり……?

いや、まさかね……。


「……ねぇ、笠羽ちゃんはそんなに有能なアイテムと、

 凄い戦闘力があるのに、どうして私と組みたいの?」


私が少し質問する事を躊躇しながらもそう聞くと、

笠羽ちゃんは〈敵感知アプリ〉を開き、

他に敵がいないかどうか確認しながらも答えてくれた。


「佐藤さん。確かにこのアプリは凄いです。

 ですが、四六時中スマホの画面を見ているわけにもいかないですし、

 このアイテムのレア度はSRなので、持ってる人は少ないとは思いますが、

 いないとは限りませんので、絶対な利点とは成り得ません。

 それにもしかしたら、このアイテムの効果を無効化出来るアイテムを

 敵が所有している可能性だってあります。

 これだけで無敵とは到底言い難いんですよ」


……ついさっき、私は無敵だと考えていたが、

甘い考えだったみたいだ。

言われてみればガチャアイテムというのは

本当に多種多様なものばかりみたいだし、

そういった妨害アイテムもあってもおかしくはない。


「それに敵の場所がわかっていても、

 わたしの攻撃手段はこの〈水鉄砲〉しかありません。

 相手の位置が分かって、一回先制攻撃した所で、

 イベントのルールが『三回攻撃を加える事で相手に勝利する』

 というものである以上、たったこれだけの攻撃手段で

 勝利し続ける事は余りにも難しく、苦しいものがあります。

 だから、わたしには仲間が必要なんです」


笠羽ちゃんはスマホから目を離して、

真剣な眼差しで私をじっと見つめてくる。


──どうして、そんな風に強く、

このイベントに優勝したいだなんて思えるのだろう。

私はこんな所から早く出たいとしか思ってないのに……。


「笠羽ちゃん……どうして、こんなイベントで優勝したいの?

 お金が欲しいから? それとも……?」

「……佐藤さん。これからの未来って予想した事ってありますか?」

「えっ……? いや、あんまりないけど……」

「今の世の中って佐藤さんが持ってる鉄の剣とか、

 わたしが持ってる凄い水鉄砲とか、危険な道具で溢れてるじゃないですか。

 そんな無法地帯になり始めてるのに、このまま平和だと思い込んで、

 呑気に生き続けて大丈夫だなんて、わたしには思えなかったんです。

 だから、このイベントに参加して、

 少しでも変わっていく世界に適応しようって考えたんです」

「──!」


──私と似たような理由だ。

ただ、この子は私なんかよりもよっぽど勇敢で心が強い。

私はこのイベントから解放されればそれで良かった。

しかし、この子はその先を見据えているんだ……。


「佐藤さん。改めてお願いします。

 わたしと仲間になってくれませんか?

 佐藤さんが前衛となって、私が後衛として働いたら、

 絶対いいコンビに成れると思うんです。

 そうすれば、きっと優勝も夢じゃない筈なんです!

 だから……どうか、お願いします!」

「………笠羽ちゃん」

「……っ」


彼女は私の次の言葉を心配そうに待っている。

私はそんな彼女の心配を取り除こうと、ニコリと笑ってこう言った。


「私、貴方と組むわ」


私の言葉に笠羽ちゃんは両目を見開いて驚く。

そして、とても嬉しそうに返事をした。


「──っ、はい! ありがとうございます!」


……正直、不安な要素はいくつもある。

でも、それを鑑みても彼女と組むのはメリットが多いと思ったのだ。


私は持っているアイテムが剣しかないので、近距離でしか戦えない。

しかし、笠羽ちゃんがいれば敵を索敵出来る上に、遠距離まで支援して貰える。

戦闘面だけでも組む価値は十二分にあるだろう。


それに彼女の戦う理由は非常に賛同出来るものだった。

本当かどうかは分からないが、私と似たような理由だったので、

応援してあげたくなってしまったのも一つの理由だ。


まぁ、最悪裏切られたとしても……彼女の〈水鉄砲〉を

今の私が三回も避けられないとは思えない。



──それに仲間が欲しいとは、私も思っていたのだから。



「じゃあ、佐藤さん。これからよろしくお願いしますね!」

「うん、よろしく。笠羽ちゃん!」


心の支えになってくれる人が傍に出来た事が嬉しくなり、

私は頼もしい仲間が出来た事に安心して喜んだ。


彼女がどう思っているかなんて、何も気にせずに。

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