第7話 第一イベントの始まりです

『繰り返します。これより、第一イベントを開始致します。

 イベント内容は配布した資料をご参照下さい。

 それでは皆々様、御健闘をお祈り申し上げます』


そう言って、声は聞こえなくなった。

資料なんて持ってないんだけど……と思っていたら、

上にある巨大ガチャの排出口から大量に何かが落ちてきた。

その何かはこの自然公園の広場に落ちたみたいだ。


そこに行った方がいいのかと、私が動き出そうとする前にその何かはやってきた。

その何かとはどうやら、30cmくらいの大きさになった”ガチャ”だった。

そのミニガチャにはデフォルメされた小さい手足が生えていて、

可愛らしいマスコットのような雰囲気があった。


ミニガチャは自分の排出口に手を突っ込んで、スマートフォンを取り出してくる。

そして、そのスマホを校長先生が卒業証書を渡すような手振りで私に差し出してきた。


…………このスマホを開けばイベント内容がわかるのだろうか。


一先ず差し出されたスマホを受け取る。

受け取った後、ミニガチャは届かない手を前で重ねようとする仕草をしつつ、

その固そうな身体を折り曲げた。

恐らくお辞儀をしているのだろう。


随分長い間そうした後、ミニガチャはどこかに去っていった。


私は受け取ったスマホを開いてみる。

すると、直ぐにイベント内容と思しきものが目に入ってきた。




【第一イベント内容】


・本イベントはバトルロワイアルです。

 ルールは簡単で、参加者の方々には

 三回分の攻撃を防いでくれるバリアが張られていますので、

 参加者の方々は、他の参加者の方に張られているバリアを破壊して頂き、

 イベントの最後までバリアが残っていた方が勝者となります。


・バリアを破壊された参加者の方はイベント会場から退場となり、

 参加頂く前にいらっしゃった場所に送還されてしまいます。


・バリアとは参加者の方々に配布済みの不可視の球状の膜です。

 参加者への攻撃によって生じる痛みと怪我を三回分防ぎます。

 また、バリアはイベント参加者の攻撃のみで破壊されます。

 何らかの自然現象、もしくはご自身での転倒や、

 自傷行為なども防ぐ事はなく、破壊する事は出来ません。

 また、バリアへの攻撃判定基準は弊社で定めたものとなりますが、

 一般的に『攻撃』と見なされる行為が該当致しますので、

 皆様にてご考察とご配慮を頂ければと存じます。

 詳細をお聞きになりたい方は下記電話番号にお問い合わせ下さい。


・本イベントにて勝ち上がり、上位三名となった方々には景品として賞金が贈呈されます。

 賞金金額は以下の通りとなります。


 一位 100万円

 二位 50万円

 三位 10万円 

 

 また、イベントに参加して頂いた皆様にはもれなく1万円を進呈致します。

 皆様どうぞご気軽にご参加下さいませ。

 ※佐藤真知子様は弊社にとって特別なお客様のため、賞金額が二倍となります。


・イベント参加者には参加賞として、

 ステータスを調整する事が出来るスマホアプリを進呈致します。


・当イベントに参加したくない場合は、こちらのイベント内容説明ページの

 最後に『退場』というボタンがございますので、

 そちらをタップして頂ければイベント会場から退場し、不参加にする事ができます。


・誠に勝手ながら、佐藤真知子様は弊社にとって非常に重要なお客様の為、

 ご自身の意見に関係なく、当イベントに参加して頂く運びとなっておりますので、

 大変申し訳ありませんが、自主退場する事は禁止とさせて頂きます。

 また、わざと脱落する為にご自身を攻撃しても、

 バリアの破壊カウントには加算されませんので、予めご了承下さいませ。

 重ね重ね申し訳ございませんが、ご理解とご協力の程、宜しくお願い申し上げます。




「──ふざけんじゃないわよっ!!!」


私は怒りのままに配布されたスマホを地面に叩きつけた。

人の事を何だと思っているのか。只でさえ苦しんでる時にこの仕打ちだ。

馬鹿にするのも限度があるだろう。


私は息を荒くしながら、地面に転がったスマホを拾った。

そして忌々しげにスマホを見る。

カバーもない素肌の状態だったのに、画面には傷一つついていない。


私はまたスマホを地面に叩きつけようかと思ったがやめた。

そんなことしても意味なんてないし、むなしいだけだ。

重要なのはこれから私の恐れていた事態が起きるという事だ。


誰かが襲ってくる。

このイベントに参加している普通の人間じゃない人達が、

お金欲しさに私を……傷付ける為にやってきて、私を──


「……おぇ……」


恐怖の余り吐き気がしてきて、ついその場に膝をついてしまう。


なんで私だけ強制なの? 

他の人達が不参加でいれるのなら私だってそうさせてほしい。

どうして私だけが……?


ふと、手に持っていた剣が目に入る。

私はこれで戦わないといけないのだろうか。

確かに普通の人間、ガチャを引いておる人間よりも

ステータスというものが上がっている私は強いのかもしれない。

しかも、自分が知らない間に剣の振り方まで覚えていた。

確かに特別扱いされても、おかしくはないとは思う。


でも……でも、心まで強くなった覚えはない。

例え戦いに適した人間になったとしても、

戦士と呼べる力を手に入れているとしても……

つい、この間まで普通のOLだった私に急に戦えなんて言われて、出来る訳がない。


私には、このイベントを怖いと感じる事しか出来なかった。


「……嫌、嫌だ……誰か……誰か助けてよ……」


迫りくる恐怖に怯え、私は泣き始めてしまった。

もう嫌だ。家に帰りたい。あの平凡な毎日に戻りたい。

助けて。誰か、誰でもいいから私を……。


そうして泣き続けていくらか時間が経った。

あれから、森のざわめきや鳥の鳴き声は聞こえなくなり、

代わりに金に飢えた獣の叫び声が、あちこちから聞こえるようになった。

きっと賞金は俺のものだと言い争っているのだろう。

なんでこんな所に閉じ込められないといけないの……?



ふと、誰かの足が自分の目の前にあることに気がついた。



もしかして私を助けてくれるの? 

そう願って顔を上げると、そこには────




私の頭に向かって、金属バットを振り下ろそうとしている男がいた。



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