第6話 AM5:00~

:◆SE 某牛丼チェーン店内。食事中とわかる物音。食器に箸が当たったり、食器をテーブルに置いたり


:◆和紗。隣の主人公にだけ聞こえる程度の声量で



「うわっ、うまっ」


「太るのを犠牲にしたご飯、うま~っ」


「お味噌汁も体に沁みるわ~」


「お砂糖もそうだけど、夜中の塩分って悪魔的だと思うのよ」


「体中にピリッと染み渡るっていうか」


「甘いものはほっとする癒やしをくれるイメージなんだけど、しょっぱい味は元気をもらえちゃう気がする」


「まー、さっき散々しょっぱいの出しちゃったからそう思うのかもだけど」※照れくさそうに


「……おごってくれて、ありがとね」


「あんたってすーぐ人をおちょくろうとするけど、なんだかんだで優しいのよね」


「あたしなんてロクでもないのにさ。こうしてお世話してくれちゃってるし」


「彼女がいないのが不思議なくらいよ」


「えっ? さっき?」


「いや、さっき言おうとしてたのは……」


「い、今はいいでしょ! お肉とご飯に集中させなさいよ!」



:◆SE 少しの間、店内の物音。時折、『いらっしゃいませ』や『ありがとうございましたー』など、店員の声が聞こえる



「そういえばさ」


「……昔、一度だけあんたにお弁当つくってきたことあったよね?」


「そうそ。高校三年生の春頃だったかなぁ」


「すぐ辞めちゃったけどね」


「やたらと周りがうるさくて」


「なんであんな言われてたんだろうね? お弁当つくっただけなのに」


「うちらが全然そういうことしそうにないキャラだったから?」


「それとも、あたしが似合わないことをしたからかな?」


「まあ、結局周りの空気に押し負けちゃってさ」


「あはは。普段のあたしなら、あたしの方が正しいからって言い返してただろうにね」


「似合わないことしてんなぁって気持ちが、あたしにもあったってことよね」


「今思うと、なにくだらないこと気にしてんのって感じだけど」


「あの時はうやむやにしちゃってさ、あんたの感想すら聞けずじまいだったよね」


「えっ?」


「本当に? マジでそう思ってくれてたの?」


「そ……ありがと」


「それ、あの時聞けたらあたしも毎日でも続けてただろうけどさ、たぶん、今のあんただから言えたんだよね?」


「だよね」


「高校生ってマジでガキだよ」


「あの時は大人のつもりでいたけどさ」


「今思うと、なんでそっちの選択肢選んじゃうのってことばっかしてた気がする」


「……かもね。あとで振り返ったらなんとでも言えるよね」


「ごめんね」



:◆和紗。褒めてくれた嬉しさで涙声:開始



「でも、6年越しでも、あんたから褒めてもらえて嬉しかった」


「……やっば。せっかくしょっぱいの補給したのにさぁ」


「ダメだわ、まだ涙腺緩んでる……」


「お店の中なのに……」



:◆小皿を和紗の手元に置く音



「えっ? いいの?」


「……ありがと。お新香のおかげで塩分不足にならずに済むわ」



:◆和紗。褒めてくれた嬉しさで涙声:停止



「あんたのそういう遠回りな優しさ、好きだよ」

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