第5話 AM4:00~
:◆ソファ。隣同士座ってスマホを観ている
「わ、これ配信されてるんだ。ほら、これ観てくれる?」
「あたしの文化祭憧れってさー、小学生の時に観たこのアニメ映画がきっかけだと思うのよね」
「知ってる? だいぶ昔のヤツなんだけど」
「そーそ。雷の女の子が、浮気性の男の子を追いかけ回す話ね」
「映画版の二作目なんだけど、文化祭を延々繰り返す話で」
「小学生の私には、親元から離れて友達同士で夜通し同じ何かを作り上げていくってことに凄く憧れがあったのね。そういう時期ってなかった?」
「でも、中学生の時の文化祭は、学校に夜まで居残りなんて許されなくて。せいぜい7時くらいまでだったかな。文化祭自体はいい思い出なんだけどさ、期待してた準備期間の方はちょっと違ったなって思って、消化不良だったのよ」
「だから、高校こそ! って燃えるものがあったわけ。でも結局、高校でもアニメと同じようにはいかなくて。ほら、うちの学校って泊まりは無理って担任から言われてたでしょ? それを聞いた時はがっかりしたんだけど、でも夜中近くまでは残れたから。なんだ、中学の時より理想に近づいたじゃんって思って、自分を納得させてたわ」
「三年の時の文化祭は、うちらのクラスって模擬店だったじゃん? メイド喫茶やろーってなってさ」
「あたしは接客しないつもりだったから。内装で頑張ろうと思ったわけ」
「だって、裏方に回って教室を飾り付けする方が、準備期間を充実して使えそうでしょ?」
「そうそう。本番なんかより準備期間の方に全振りだったわけよ。高校最後の文化祭だったし」
「……あんたはあたしを接客の方に推薦してくれてたみたいだけどさ。そ、それってあたしがメイドやれるくらい見栄えがするって思ってくれたわけよね?」※照れながら
「は?」
「あー、いい思い出のままにしとけば良かったわ……」
「確かに、ディスカウントショップで買ってきたあの安いコスプレ衣装のメイド服、胸元が結構ざっくりいってるデザインだったもんね……」
「あたしほどのモノ持ってたら、そりゃ際どいことになるでしょうよ」
「それ、あの当時に聞かされてたら、あんたのこと一発で嫌いになってるわ」
「……でも、結局そうはならなかったのよね」
「むしろ、あの時のことがあったからこそ、ただの友達じゃなくなったっていうか……」
「結局さぁ。今に至るあたしっていうのは、あの頃にはすでに出来上がっちゃってたってわけよね」
「あたしなりに正しいと思って、理解してもらおうとして何度も意見を詰めて。でも、そういうのって相手からしたら鬱陶しいだけなのかもね」
「『それなら和紗が一人でやんなよ』ってなって、結局一人で作業するはめになったのよ」
「ワンオペじゃ終わるかどうかわかんない作業量で」
「でも、あたしもあたしだよね。『やる気ないならやらなくていいよ。あたしが全部やるから』って強がっちゃった」
「……強がったなんて言えるくらいには、今のあたしは自分のことを冷静に見れるようになってんのかな? あの頃は、どうして正しい方のあたしの意見を聞いてくれないんだろうとか思ってたから」
「ま、結局今でも同じようなこと繰り返して、ここにいるんだけど」
「でも、あの時は……ううん、あの時も、あんたがいたのよ」
「あんたって文化祭本番のことばかり考えてて、最低限の作業だけやったら居残りなんてしないでさっさと帰ってさ」
「あの日も、あんたもとっくに家に帰ってる時間帯のはずだった」
「みんなでわいわい賑やかに作業してる他クラスの子たちと違って、一人も黙々作業するだけのあたしに楽しさなんてこれっぽっちもなくて」
「あたしが思い描いてた理想の文化祭とは遠くなっちゃったなぁって思ってたのよ」
「でもなんか、来たんだよね。あんたが。あたし一人しかいない教室に」
「『お前、こんな時間に何してんの?』なんてとぼけて」
「何も言えないあたしを放って、あんたは黙って塗料の容器に刷毛突っ込んでさ」
「……それで、最後まで手伝ってくれたでしょ?」
:◆声 少しの間沈黙。気持ちを吐き出すために深呼吸する和紗
「だから、あたしが今こうなってるのも、全部あんたのせいなの!」
「他の子とトラブって、もう無理ってところにあんたが来て優しくしてくれたから!」
「……あたしがまたマズいことやらかしても、あんたが来てくれるかもしれないって……」
「大人になっても、そんなこと考えててさ」
:◆声 反省するような沈黙
「……わかってるわよ。勝手なこと言ってるって」※拗ねるように
「大学からは進路別々で、あんたとの関わりもなくなってたっていうのに、いないはずのあんたに期待してるあたしがヤバいってことくらいわかるってば」
「でもさぁ、なんか、あたしのこと見捨てない人がいるってわかって」
「あんなに嬉しく思ったこと、あの時までなかったから……」
:◆鼻をすすりながら。以降涙声:開始
「……ごめん、ぐすっ、深夜なのになんでテンションぶち上げてんのって話よね……」
「……うん。壁薄そうだし、うるさいって隣から怒鳴り込まれそう」
「だから、あたしはあれからずっとあんたのこと――」
:◆鼻をすすりながら。以降涙声:停止
:◆SE 和紗。ぐぅぅぅ~っと腹の鳴る音
「 (恥じらう沈黙) 」
「い、今のは……!」
「な、なんでもないったら……!」
:◆SE ソファから体を起こすリスナー
「は?」
「えっ? い、今から?」
「……わかったわよ。行くってば」
「腹が減ってはなんとやらで、あたしも後ろ向きになっちゃったのかもね……」
「ていうか、お腹の音じゃないからね!?」
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