第4話 AM3:30~
:◆SE テレビから聞こえてくる雑多な音声
「ていうか、この映画ってめっちゃ深夜向けじゃない?」
「眠気を誘うっていうか」
「はっきりしたストーリーがなくて、雰囲気だけで進んでいって、あるのかないのかわからないような劇伴があって、視覚的な描写からメッセージを読み取ってくださいって感じのアート系の映画、シラフなら絶対観ないよね。睡眠導入剤として観るなら許せるけど」
:◆SE 数秒の間、呼吸音
「……」
「……」
「ほら。ちょっと見逃したらわけわからなくなるんだから」
「 (しばらくの間、テレビから流れる雑多な物音と呼吸音) 」
「思い出せない映画があるんだけどさ、あんたわかる? これみたいにテレビでやってたの偶然観ただけだから、タイトルも忘れちゃったくらい記憶が曖昧なんだけど」
「んーとね。字幕で観た映画で、フランス語っぽかったからフランス映画なのかな? それで、主人公で語り手の男の人がカメラ構えてるような一人称視点で話が進むわけね」
「主人公の男の人はそれなりに地位があって、妻子ある身なんだけど、女子大生と不倫してるっぽくて。変な関係性でさ。男の方は女子大生より立場が下なの。毎日変な宿題を出されて、男は逆らうことなくこなすわけ。たとえば、『愛してる』って単語をノートが目一杯埋まるまで書かされるとかね」
「シーンはずっと夜……っていうのは、不倫相手と会う描写に絞ってるからかな? 外の風景はフィルタが掛かってるみたいにぼんやりしてて、だからひょっとしたら夢の中で観てた映画なのかな? って思うくらいで」
「……まあ、そんな感じの映画だったんだけど」
「……」
「あー、そっか。やっぱわかんないよね」
「は?」
「……なんで濡れ場のシーンを知りたがるのよ」
「濡れ場のシーンさえわかれば言い当てられるかもしれないってどういうこと?」
「あんた煩悩が溢れすぎてニュータイプになってない?」
「……ま、若さを持て余した独身一人暮らしのサラリーマンなんてそんなもんよね。色々抑圧されてそうだし」
「え? あたし?」
「……」
「……煩悩があって、抑圧されてたから、久々に会ったあんたの部屋までホイホイついてきてこんなことになってるんじゃないの?」
:◆SE 気まずそうな吐息
:◆SE トレーニング器具を紹介するCMの音声
「……あんた、もう眠くなってない?」
「眠かったら寝ちゃっていいよ。仕事終わりの飲み会帰りで、あんたの方が消耗してるもんね」
「ここまで付き合ってくれて、ありがとね」
「あたしはもうちょっとかかる感じかなぁ」
「なに? 付き合ってくれんの?」
「ふふ。高校生の頃よりは、人に合わせるってことを覚えたみたいね?」
「それなら、もっと深い夜まであたしについてきてもらうからね?」
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