第二十八死 お金を稼ごう③

「どぉーしてですか!!普通ここは私が『俺TUEEEE』するとこじゃないですか!?」

「葛葉さん、どうどう…」

「私は馬じゃない!!」


寝っ転がって駄々をこねる姿はさながら、おもちゃを買ってもらえず駄々をこねる子供のよう…


彼女はプライドなど、とうに捨て去っていた…


「あの…葛葉様のステータスはひどいと言うか―」

「――終わりました」


シロネの言葉に覆い被さるように小栖立のステータス確認が終わる。


「この紙にステータスを書けばいいんですよね?」

「はい。」


小栖立さんが書いているうちに僕は水晶玉に触れる。


うわ…光った。


「書けました。」

「はい、では拝見しますね」


そうしてシロネは紙を見るのだが、これまた凄いと驚く。


「こ、これは…凄い…小栖立様のステータス、全ての能力値が恐ろしく高いですよ…」

「それってそんなに凄い事なんですか?」

「凄いなんてもんじゃないですよ!!」


シロネは身を乗り出し、顔を近づける。


「私、これでもかなりの年数受付やってるんですけど、これほどの能力値、私は滅多に見たことがないですよ!!」


先程の静けさはどこへ…シロネはキャラが変わったかの様な興奮ぶりだった。

 

「ボソ…それにこのスペック…もしかしたらにも……」

「何か言いました?」

「いえ、何も?」


怪しい…と小栖立さんは少し目を細めるが…


「終わりました。」


タイミングが良くも、悪くも、真の登録が終わったことにより話は中断された。


「は、はい。それではこの紙に記入をお願いします。」


・・・・


「書き終わりました。」


持っていたペンを置き、紙を渡す。


「はい、では拝見しますね……」


(あれだけ驚いた後だし……もう何が来ても絶対に驚かないわ)


そんなことを考えながらも受け取った紙に視線を落とす。


「……へ?」


だが出てきたのは驚きではなく困惑、


見ると目の前の紙には一言しか書かれていない。


だけどシロネにとってその一言は困惑するに値するほどのものだった。


…?」


シロネさんを見ると紙を眺めたまま、動く気配が一切ない。


「あの…」

「え?あ、あぁ…はい、問題はないですね。」


しばらくしても動き出す気配がないため、声をかける。するとシロネさんは何事もなかったかのように、僕たちに笑顔を向け話を進める。


「以上で冒険者登録は終わりとなります。皆さん、渡した冒険者ライセンスを絶対に紛失したりしないでくださいね。」

「紛失したら何かペナルティーとかあるんですか?」


貰った冒険者ライセンスを眺めながら葛葉さんが尋ねる。


するとシロネさんは先ほどまでの笑顔からは一変、重く、苦々しい表情になり、暗い雰囲気を纏いながらその口を開いた……


「いえ……私の残業が増えます。」

「「「……」」」


「よし、物語くん行こうか。」

「待って待って!!冗談ですって!」


……なんかこの人だんだんとキャラが変わってきてないか…?


「こ、コホンッ、それでは気を取り直して…冒険者協会へようこそ!!そして皆さんの門出に幸あらんことを…!」



・・・・


「何の依頼を受けようか…」


あれから、左神原くんは魔物の買取をして貰うため別室へ……何でも、討伐した魔物の数が多すぎてここでは出せないとのこと。


「二人は何か案とかありますか…?」


そう言って意見を聞くために横を向くと、そこには誰もいない。


「二人…どこ言ったんだ?」


疑問を持ちながらも、まあいいかと再び依頼書が貼ってあるボードに目をやる。


「おい…」


うーん何にしようか…


「おい………」


なるべく高難易度の依頼を受けたいところではある、死ぬ方法が見つかるかもしれないし、


「おい……!」


お!この依頼とか良さそう、なになに…


「おい!!」

「?」


突然、後ろから肩を掴まれる。あまりにも強い力だったので驚いて振り返ると、そこにはいかにもと言った感じの人相の悪い筋肉質の男が立っていた。


「さっきから呼んでんだろうが、無視してんじゃねえ!!」



え、誰?


・・・・


「あ゙ぁ゙ん?」


とまあそんなことがあって現在強面の男に絡まれているのである。


「おいガキ、聞いてんのか?」

「……」


背、でかッ


こんなでかい人に殴られたら僕なんか即死だな。


……試しに殴ってもらおうかな。


「ギャハハ!桜花オウカ無視されてやんの!」

「うっせえ!!兄貴と呼べ!兄貴と!!」


途端に協会内で笑いが起こる。


「テメェら笑ってんじゃねえ!!」


男が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ガキ、お前もさっきから黙ってっけど口が聞けねえのか?あ゙あ゙?」

「……あの…」


―それは突然のことだった―


男にしては女のように透き通っていて高い声、小さく華奢な体、そして極め付けはこの世のものとは思えないほど現実離れな色素の抜けた真っ白な髪。


その全てが彼の貧弱さを物語っていた。


―だから―


「何だ、喋れんじゃ―」


だからこそ、あまりにも自然に出てきたその言葉に男は動揺を禁じ得なかった。


「僕を…殺してくれませんか?」


桜花を見つめるその瞳は何処までも暗い闇が広がっていた…


・・・・


場所は移り、ここは冒険者協会付近の裏路地。


血だらけで地に倒れ伏す男と、それを冷たい目で見下ろす一人の少女がいた。


「お、俺が悪かった…!もうお前達には二度と関わらない。」

「……」

「だ、だから命だけは―」


「バキッ」


そんな鈍い音が響き渡る。


男の声はもう聞こえない。


だが、少女は倒れて動かない男の腹に再び蹴りを入れて―


「―そこまでだ。」

「……」

「…少し、やり過ぎなんじゃないかな…?それ以上は死んでしまうよ。……………………ねえ、小栖立さん…」

「…チッ」


第三者が話しかけてきたことで足を止める……わけも無くとどめと言わんばかりに男に蹴りを入れた。


男は「うっ…」と呻き声を上げ、意識を失う。


「…なッ!?」


それを見た左神原は慌てて男に近づき、生死の有無を確認する。


「…気絶しただけか…」

「……」


それから左神原は小栖立の方を見る…が小栖立はすでに背を向け歩き出していた。


「待ってくれ……ここまでする必要はあったのか?」

「…見ていたならわかると思うけど、そいつは物語くんを襲おうとしていた。それなら死んで当たり前だよね?」


足を止め、振り向く。


暗い裏路地に光が差し、彼女の顔を薄らと照らす。


その顔は何処までも綺麗で、空から差す光が長い黒髪を輝かせ彼女の美しさをより際立たせていた。


「君は…」


左神原は思わず息を呑む。それは彼女が美しかったからか…いや違う。彼女の瞳が殺意と冷酷さをはらんで自分を見ていたからだ。


「もういい?私早く物語くんの元に戻らないといけないから。」


そう言い背中を向け再び歩き出す。


「一つ…いいだろうか…君…地球にいた頃そんなキャラだったか?」


小栖立さんの足がぴたりと止まる。


「…………さあ。」


そうしてそれだけ言うと小栖立さんはその場を去っていった。


・・・・


「僕を…殺してくれませんか?」

「…………は?」


あたりが静まり返る。先程まで賑やかだったギルド内の面影はもはや何処にもない。


「お前…何を言って…」

「……あ…い、いやすみません。やっぱり何でもないです…今言ったことは忘れてください。」


そう言って頭を下げる。


(いや、やめよう。殴打系はあの巨人で試して駄目だったからな…)


僕だって人に迷惑をかけたいわけじゃないんだ。僕を殺すことによってこの人が犯罪者になることは避けたい。


目の前の男は何も言わない。それどころかあれほど騒いでいた冒険者の人達も今は鳴りを潜めていた。


それから気まずい沈黙が続く…


その間、男の鋭い眼光は僕を真っ直ぐに貫いていた。


「……チッ」


やがて男は目を細めると、突然背を向け何処かへ歩いていく。


「……?」


一体何だったんだと思いながらも再び依頼のボードに目をやろうとすると、先程の男がまた戻って来る。


「いい依頼を紹介してやるよ。」


突然そう言って、男が目の前に出した紙にはとある依頼が記載されていた。


「あの…これは…?」


いまいちどう言うことかわかっていなかった僕はその意図を聞いたのだが、


「突然変な絡み方をしちまったお詫びだとでも思ってくれ。いや〜悪かったな。」


男はあっけらかんと笑いながら謝る。ただ声や動きが物凄くぎこちない。


「は、はぁ…」


というか背中をバシバシと叩いてくるのはやめて欲しいんだが…むず痒い。


「物語くんッ!?」


そんなことを考えていると扉の方から見知った声が聞こえて来た。 


「あ、小栖立さん。」


丁度良かった、小栖立さんにこの依頼のこと決めてもらお。


そう思い手を上げ小栖立さんを呼ぼうとすると、その瞬間には既に小栖立さんは目の前にいた。


「物語くん大丈夫ッ!?」


うん、自分でも何を言ってるのか分からない。


いやでも実際に目の前で起こったことなんだけども!?


え?どゆこと?瞬間移動?んなバカな。小栖立さんのスキルは瞬間移動じゃない。となれば…


チラッと小栖立さんを見る。 


単純な身体能力だけで一瞬のうちにこの場所まで来たってこと…デスヨネ…


「お前…物語くんに何してる!!」


小栖立さんが怒気を孕んだ声で男を睨む。


「おぉ怖い怖い。お前は確か…そこのガキと一緒にいた奴だよな…勘違いすんな俺はそのガキに何もしてねえよ。」

「あ゙ぁ゙?」


男の煽る様な笑みに小栖立さんはより一層、目を鋭くする。


「少し話してただけだって、なぁ?」


男の同調に僕は頷く。


「ま、そういうことだ。」


『てか…』と男は言葉を続ける。


「遠目だとわかんなかったがよく見るとお前…いい女だな。」


顔を近づけ、小栖立さんをまじまじと見つめる。


『ピキッ』


ん?今なんか小栖立さんの方から音がしたような…


「…ッ、は、話は終わりだ!俺はもう行く!じゃあな。」


それだけ言うと足早に何処かへと消えて行った。


やけに急いでたな…どうしたんだ?


「なあ、物語くん。何かあったのかい?」

「左神原くん…?いえ、先程までここに変な人がいて…」


というかいつからいたんだこの人…?

 

「はぁ…酷い目にあった…」


そんなことを考えていると、トボトボと肩を落としながら、やけにテンションが低い葛葉さんが何処からともなく現れる。


「葛葉さん、今まで何処に行ってたんですか?」

「え゙!?えっとですね…少しお花摘みに…えへへ」


目をグルグルと回し、頭を掻く葛葉さん。


「そういえば小栖立さんもいつの間にか居なくなってましたよね?」

「んん゙ッ!い、いや私は少しお掃除をしてて…」

「お掃除……?」


二人とも怪しすぎないか…?




かくして僕たちは冒険者登録をすることが出来た…だが、桜花と呼ばれた男から貰ったこの依頼書がきっかけであんなことになるなんて…

 


―この時の僕たちは未だ知らない―

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