第二十九死 お金を稼ごう④

「おぇぇぇぇ……きもぢ悪い…」

「もう…行く前にあんなに串肉を食べるから…」


『ガタンガタンッ』


僕たちは現在、依頼書に書かれている場所に行くために馬車に揺られていた。


あの時、強面の男から渡された依頼書…なかなか報酬が良かったので受けることにしたのだが…


これがなかなかに癖のある依頼で、何でもドルキュラの森といわれている場所の調査をして欲しいとのこと…


依頼書に書かれた説明では、最近ドルキュラの森付近で不可解な現象が多発しているらしい。例えば干からびた状態で死んでいる動物やモンスターが多数発見されたり。森の奥から何者かの声が聞こえてくるなど、


何それホラーじゃん怖ー


「おじさん………あと何分くらいで着きますか?」

「十分はかかりますよ。」

「うぇぇぇ…あと十分もですかぁ……」


そう言って馬車から上半身を乗り出し、吐くのをひたすらに耐えている葛葉さん。


あと十分か…


ドルキュラの森には馬車で三十分、徒歩で一時間はかかる。ギルドでそれを聞いた時、お金もないので徒歩で行こうかという話になったのだが、小栖立さんが

 

『私持ってるよ、お金。』

『え?何処でそんなお金手に入れたんですか…?』

『さっき親切な人が譲ってくれたんだ!』

『いやそれさっき男から強奪し―』

『……』

『……な、何でもない……』

『イケメンくん急にどうしたんですか?……まあともかくこれで馬車に乗れますね!!実は私一度でいいから馬車に乗ってみたかったんですよ!……え?車酔いぃ?するわけないじゃないですかwwお!串焼き!美味しそう!!』


「うっぷッ……ふーふー葛葉未来お前はできる子吐いちゃ駄目吐いちゃ駄目…ウッ!うぉえ゙――」




――只今不適切な映像が流れているためしばらくお待ちください――





とまあそんなこんなで馬車に乗って向かうことになったというわけだ。


すると一部始終を聞いていた馬車を運転しているおじさんが正面を向いたまま笑い出す。


「はっはっは!!お客さんたち馬車乗るのは初めてでしょう?」

「そうですね、僕は乗ったことがありますけど他の三人は乗ったことないと思います。」

「笑い事じゃ―うぷッ」

「初めてのうちは慣れないもんですよ。」


おじさんは『いつか慣れる』と軽快に笑う。


「そうですね……気持ち悪いなら一つ、気分転換に話をしましょうか。」

「話…?」


小栖立さんが怪訝そうな表情を浮かべる。


「私の村に伝わる話でしてね、【慈悲姫】と言うお話です。」

…ふむ、面白そうだね。」 


姫ってことは童話みたいなものか?慈悲に姫って、あんまり聞いたことのない組み合わせだな。


「…これは、ある悲劇の少女のお話……」



遥か昔、この世界は突如現れた魔王と呼ばれる存在に支配されていました。


人々は蹂躙され、街も何もかもが破壊され尽くし、やがて人類の生活圏は四つの国を残すところとなり……

 

もはや人類に希望はありませんでした。





……しかし誰もが絶望する中、一人の勇敢な少年が魔王を討つべく立ち上がる。


少年は戦いの中で仲間を集め、魔王を倒す旅を続けた。


そして何年にもわたる旅の果てで少年は仲間達と共に遂に魔王を討ち取った。


それから世界には平和が戻り、人々は平穏に暮らし少年はやがて人々から【勇者】と呼ばれ、一国の王女と結婚し幸せに暮らしたとさ…




「これで終わりですか?」


慈悲姫の要素は何処へ…


そんなことを思っていると、


「いいや、これからがこの話の本題なんですよ。」


そうしておじさんは話を続ける。




そうして時は流れ……少年は青年に、青年から大人へと成長し、


やがて王女と勇者…二人の間には大変可愛らしい娘が生まれました。





時が経つにつれて、娘は両親譲りの大変見麗しい少女へと成長し、宝石のようなその美しさからジュエルと呼ばれみんなから愛されていました。

 

しかしそんな幸せも長くは続かなかった…

 

突如として少女と少女の母は原因不明の病に侵され、寝たきりになってしまう。


勇者はあらゆる方法を試して二人を助けようとしたが、その努力虚しくも王女は帰らぬ人となってしまった。



失意の中、勇者は娘だけでも助けようと遂には魔王の遺産に手を出してしまう。

 

結果少女は助かったが、勇者は悪い心に飲まれ怪物へと変貌を遂げてしまった。…もはやそこに少女の父の面影はどこにもなく、世界には再び混沌と破壊が訪れた。


しかし、少女にはそんな怪物に立ち向かえるほどの才能があった。そして少女は父だったを討つと、かつて父がそうしたように世界に再び平和をもたらした。


だがそれと引き換えに、少女にはもはや家族と呼べる存在は誰一人として残っていなかった。


一人ぼっちになってしまった少女は死にたい…そう何度も思った…だけど死ねない。


やがて少女は自分を殺してくれる者…を求め彷徨い続けたという……




「いや…話重ッ!!」

「どうでした?いい気分転換にはなったでしょう。」

「むしろ気分悪くなったんですが!?」

「なるほど、それで姫なんですか。」

「まあ、私も子供の頃聞いた話なんであまり詳しくは知らないんですけどね。」

「え?無視……」


そう言いながら頭をかくおじさん。


「でも、自分の家族を自らの手で殺すって…なんだか後味の悪いお話だったね。」

「私なら立ち向かわずに逃げる一択ですけどね!」


そんなことをドヤ顔しながら言う葛葉さん。


なんだろう…容易に想像できてしまう。


「お客さん、もうそろそろ目的地に着きますよ!」

 

そう言われ、外の景色を見ようと馬車から顔を出す。


すると目の前には巨大な木々に囲まれた森が広がっており


「うわ……!」


初めてみるその光景に僕は驚きを隠せなかった。


「凄い……」



「なになに、物語くんどうしたの…?」


小栖立さんも僕の横から外を見ると、


「わぁ……!凄い…こんな大きさの木なんて初めて見た……」


そんなことを言いながらキラキラと目を輝かせて驚く。


「さあ、お客さん着きました。ここがドルキュラの森です。」

「ヒャッフー!一番乗り!!」


そう言って停車した馬車から真っ先に降りていく葛葉さん。


「呆れた…さっきまであんなに具合悪そうにしてたのにもう元気になってる……」

「はは…」


苦笑いを浮かべながら僕も小栖立さんに続いて馬車から降りようとする。…ふと、後ろを振り返ると左神原くんが何故かまだ席に座っていた。


「左神原くん…?どうかしたんですか?もうみんな降りてますよ。」

「え?あ、あぁ…いや、すまない今行く。」

「……?」


疑問に思いつつも前を向き、馬車から飛び降りようとすると…目の前に両手を広げた小栖立さんが立っていた。


「あの…何してるんですか…?」

「物語くんの身長で飛び降りるのは危ないと思って…降ろしてあげるね。」

「………いや、だいじょう―」


「降ろしてあげるね。」

「だい―」


「降ろしてあげるね。」

「……はい。」


……きっと僕はこの時のことを一生忘れないだろう…子供のように抱き抱えられながら馬車を降ろされ、それを見て馬鹿みたいに爆笑する葛葉さんを……僕は忘れないからな!






「お客さん、降りないんですか?」

「あ、あぁ…すいません。今降ります。」





「…勇者……か。」




・・・・


「うわぁああ!!近くで見るとよりデカく見えますね!!」


確かに…これ、普通の木の数十倍は大きいんじゃないだろうか。


「これだけ大きいと巨大な化け物とか住んでそう。…もしかしてこの森で起こってる異変もその化け物のせいだったりして……」

「ちょ、恐ろしいこと言わないでくださいよ。」

「なに〜?ビビってるの?」

「び、ビビってないし!」


葛葉さん……足がものすごい震えてるけど。


しばらくそんな会話をしていると、突然遠くから左神原くんの呼ぶ声が聞こえた。


「みんな!!少しこっちへ来てくれないか!!」


声が聞こえた方へ行くと、左神原くんがしゃがみ込みながら地面にある何かを観察していた。


「これを見てくれ。」


そう言われ、左神原くんが指を刺した場所を見てみると、


「……これは…」


全員の視線の先、そこにあったのは魔物の死体だった。しかし、その死体は全身がミイラのように干からびており、まるで……


「…身体の血が全部…吸い取られてる……?」

「うん、どうやらそうみたいだ。僕も今さっき気づいたんだけどね。」


目の前の光景に多少動揺しながらも、冷静に分析する小栖立さん。左神原くんにいたっては微塵も動揺していない。


……ちなみに葛葉さんは、


「……帰りません?」


完全に足が森と反対方向を向いてしまっている。


「うーん……だけど依頼には森の調査と書いてあったし、これだけじゃなんとも……」

「うぇぇぇ……」

  

そりゃそうだ。




……それにしてもさっきから思ってたけどこの森、何かおかしくないか……?


いや、木の大きさとかそういうのは置いておいて、なんというか僕たち以外の人の気配が……


『ガサガサ……』

「……?」


森の中から…音……?


『た…す…』


いや違う、人の声だ。

 

…気配は…あっちか!


気配を辿りながら、森の奥へと走って行く。


声がした方からは戦闘の音が聞こえてくるが、むしろ足は速くなっていた。


そう、僕の考えが正しければ今回の異変の原因はだ。いや、というか考えるまでもない、血を吸うと言ったらもはやしか思いつかないし。


普通ならありえないけどここ異世界だし。



そんなことを考えながら、目的の場所に近づくにつれて戦闘の音がどんどん大きくなってくる。


はは、……いくら僕でも全身の血を抜かれたら流石に死ねるだろ。


そんな期待を胸にしながら走っていると……


「へ?」


突然僕の視界は上下逆さまになった。

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