第十四死 森からの脱出③

「はぁ…はぁ…ふぅ…危なかった。…悪く思わないでくださいよ委員長、ご主人。」


そう呟く一人の少女。


「仕方がなかったんですよ。」


そう…彼女―葛葉 未来は真達を裏切って逃げていた。


前に真がヤバい人と言ったが、それはこの少女が日本にいた頃、学校全体にその名が届くくらいのであったからに他ならない。


今までに彼女が行った所業は数しれず…彼女の前では自分が助かるためなら仲間を裏切ることなど当たり前だった。


「でもまあ…ご主人は不死身らしいし大丈夫ですよね。さぁ〜て私はさっさとこの場からとんずらこかないと。」


・・・・


「…最近の僕歩きすぎじゃないだろうか…」


あれからさらに1時間程あるき続けていた僕は足を動かしつつもそう文句を垂れる。


―状況はいまだ変わらず。


いや、正確にはこの状況を脱するために、あの丘以外の場所に行こうとはした…が、何故か気づいたときには元の場所に戻されているのだ。


そしてそれは…彼女…小栖立さんも同じだった。


丘に向かって歩いている小栖立さんの進行方向を試しに変えてみると彼女も元の場所に戻されることが分かった。


そんな小栖立さんだけど未だ目が覚めずといった感じだ、ずっとあの丘に向かってあるき続けている。


以上のことから僕が言えること…


つまりは詰みということだ。


「はぁ〜どうにかしてここからしないと…な…」


……ちょっと待てよ…


僕は何でしないとなんて考えたんだ…?


普段の僕なら真っ先に死ねるかどうかを考えるはず…


そんな疑問がふとした瞬間に溢れ出す。そしてあと少しで頭のつっかえが解ける…その時だった。


「おや…何で、あたしのかけたスキルが解けかけてるのかしらね…」


突如として現れたそれは敵意を感じさせない独特な話し方をしていて一瞬にして僕の目の前まで接近してくるとその姿に僕は目を疑った。


美しい容姿をしていて、一見人間のようにも見えるその姿。だけど、人間とは明らかに異なる背中に生えた翼が彼女が人間ではないことを物語っていた。


(…そういえばここ異世界だし、人間以外にもこういう種族がいるのは当たり前か…)


そんな考えが僕の頭を冷静にさせる。


ファンタジーな見た目の人が急に目の前に現れて少し驚いたけど…話から推測するに、この現象の原因はこの人ってことだよな…


「なに?そんなに見ちゃって。惚れた?」

「…貴方がこの現象を引き起こした犯人ですよね…?」

「あら…無視は傷つくわね。う〜んでも貴方、あたしの好みのタイプだから…教えちゃうわ!」


無視されたことに対して少しも表情を崩すことなく彼女は話し始めた。


「そうよ、この場所は…あたしのスキル、幻惑であたしが作り出した仮想の空間…まあ夢の世界のようなものかしらね。」


彼女は笑いながら言う。


「本物の体なら今頃寝てるんじゃない?」

「……」

「あ!そうそう貴方達の仲間!」

「…葛葉さんのことですか?」


思い出したかのように声を上げた彼女は、とたんにその顔に笑みを浮かべる。


そして



「彼女、助かるために貴方達をあたしに売って自分だけ逃げたわよ。」


その一言を告げだ。


・・・・



それを僕に言ったあとの彼女《バケモノ》はどこまでも醜悪で、邪悪な笑みを浮かべていて、僕の反応を今か今かと待ちわびていた。


だけど僕は―


「それは残念ですね。」

「………え?は?貴方裏切られたのよ…?それに対しての反応がこれ!?」

「何か問題でも…?」


僕は裏切りは些細な問題だと思っている。それこそ生き残るためならば仕方ないだろう。


だが、何を思ったのかしばらくして彼女の雰囲気がガラリと変わる。


「あー…もういいわ。萎えた…もうちょっと遊んであげようと思ったけど……貴方は精気を吸い取らないで殺すとしましょう。」


そう言った彼女の爪は鋭く尖り、僕に襲いかかろうとしていた。


普段の僕なら死ぬために身を乗り出すだろう。でもなぜか今の僕は死ぬ気にはなれない…


つまりは―


「思考の誘導…そんな事も出来るんですね。」

「何を言って…?」


そして僕はその攻撃を間一髪のところで避ける。さらにポケットに隠し持っていた手榴弾を投げつけた。


『バァンッ!!!!』


弾けるような音が聞こえた。それと同時に煙が舞い上がる。


「やったか…?」


そんなことを口走る。


しかしながらそれはフラグであり、案の定彼女は起き上がってきた。


「ふざけるなよ…人間…!あたしの顔美しい顔に…良くも…ヨクモォォォォォォ!!!」


それも凶暴化して…


うわぁ…すごいムキムキになってない…?怖いなぁ…


呑気なことを言ってるようだが実際はかなりやばい。先程とはうってかわって細身だった体がより戦闘向きな体となっている。あの攻撃を一度でも受ければ無事ではすまないだろう。


そして次の瞬間僕に向かって巨大な拳が降り注ぐ。


それを間一髪のところで僕が避けて、避けて、避けまくる。


僕すごいな!!これをなんで避けられるの!?


「クッ…チョコマカト!!」


殴っても当たらないことにしびれを切らした化け物は、真が逃げようのないくらい巨大になり、手を地面に叩きつけた。


『ドォォォォン!!』


あたりに轟音が響き渡る。


手応えを感じた化け物は笑う。目障りな蠅を潰せたと言わんばかりに。


だが化け物の笑みは焦燥へと変わる。


潰した方の自分の手が弾かれた…


そのことに遅れて気づいたと同時に―



そこには先程自分が潰したはずの少年の他に1人の少女がいた。


その顔や黒髪は艷やかでとても美しく、おとぎ話に出てくる聖女の如く…



聖女―小栖立 奈々


真を守るべく彼女は立っていた。



祝10000PV!!


この物語を読んでくださった読者の皆様のお陰で10000PV到達しました!!


ありがとうございます。


これからも皆様に面白い物語をお届けできるように精進いたします!!

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