第十一死 仏◯

「そういえば…気になる事があるんですけど…テントなんて僕達持ってませんでしたよね?あのテントはどこから…?」


そう言いながら先程まで僕が寝ていたテントを指差す。


「あぁ…あのテント?葛葉さんから譲って貰ったの。」

「無理やり奪ったくせに…」  

「なにか…?」

「いえ!なにも!!」


小栖立さんは自身のきれ目めな目をさらにキリッとさせ葛葉さんを睨む。


「とりあえず!もう日も暮れるしご飯にしよ!」

「話をすり替えた…」


そうして夜ご飯の準備をして、僕達の前に並べられたそれはお肉だった。葛葉さんはそれを一掴みに頬張り始める。


「うま!うまいですねこれ!!」

「なんであなたが先に食べているのかな?」

「ピィッ!!!?」


あの二人そこまで仲悪かったっけ…?


「コホンッ……さぁ!物語くんも食べて!」

「いや僕は…」

「せっかく作ったのに…食べてくれないの…?」

「うっ…」


そんな目を向けないでくれ…


「キラキラ」

「うう…」


「キラキラ」

「……」


「キラキラ」

「分かりました!食べます…」

「やった〜!!」


両手を上げてとても大げさに喜ぶ小栖立さん。そんなに喜ぶことなのだろうか…?


まあ、餓死は結局無理そうだなって最近思ってきたし…ちょうどいいか。毎度小栖立さんの料理を食べるのを断るの、心が痛かったしな…


「いただきます」


しっかりと手を合わせお肉を掴もうとする。


すると


「あれ?ご主人食べないんですかぁ?ならいただいちゃいますね!」


葛葉さんが横から僕の目の前にあるお肉を手づかみしそのまま口に放り込んだ。


「おいし〜!」

「……」


後ろ後ろ。


「葛葉ちゃん。」

「ヒィッ!!」


どこから持ってきたのか、小栖立さんはロープを手に取り葛葉さんを手招きする。その目は笑っているが笑っていなく…


「ご主人…」


小栖立さんと同じように目をキラキラさせて助けを求めてくる葛葉さんだったが


その意図を全く理解していない真は


(あのロープ…いいな…首吊しやすそう…)


なんてことを考えていて葛葉の希望は儚くも散るのだった。



・・・・



「そうだ。そういえばあの狼は?どうなったんですか?」


横の木に縛り付けられている人はさておき…


あれから結局僕は何も食べずに夜が更け、寝る準備をしている僕達だったが、ふと気になった狼のその後を僕が気絶したあとも起きていたと思われる小栖立さんに聞いてみた。



あの狼にはもう一度噛んでもらいたいところだ。…もしかしたら死ねるかもしれないからな。


実際僕が倒れたということはそういうことだろう。これは必ずあの狼に会わないと…期待していいんだよな!


よし…名前は仏殺(ぶっころ)にしよう!


「あの狼?何言ってるの…もう…!食べたじゃないさっき。」

「え゙!!?」


そんな図太い驚きの声を上げたのは僕ではなくその横…


「えっ!チョッ…まッ!え?!あれあの狼の肉だったんですか?!!!」

「そうだけど…?」


きょとんと頭を捻る小栖立さんに対して葛葉さんは目をむき出しにして驚いていた。


「そうだけど…じゃないですよ!?えッ?!食べれるんですかあの狼?明らかに普通の狼じゃなかったですよねッ?!」

「まぁ…狼っぽいし食べれるかなぁ…と…」


そんな口論を2人が繰り広げ、葛葉さんが一方的に精神的ダメージを負っている中、僕はというと…


「仏殺……」


別の意味で精神的ダメージを負っていた。


このとき真はまた一つ学んだ…下手に名前をつけると愛着が湧いてしまうんだ…と


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