50. 『モノクロのふたり』1巻/『その淑女は偶像となる』全4巻〈完結〉

 癖の強い絵柄は好きですか? 私は大好きです。



◆『モノクロのふたり』(1)松本陽介


 会社の同僚男女が漫画でタッグを組み賞に挑む熱いドラマです。後輩主人公が背景アシスタントという珍しいポジションにあるのも、独自の魅力を放っています。


 開幕ゲロインのインパクト。直後に説明されなければ、これが職場で羨望の的となっているバリキャリ先輩とは夢にも思うまい……!

 絵を描く夢を諦めた――つもりで未練を断ち切れないどうと、現在進行形で漫画道に邁進まいしんするわかのマッチング。掴みも導線もバッチリの第1話です。



 デキる女・若葉が仕事以外ではポンコツというギャップは、テンプレであればこそ引き付けられます。とくに6話目では持ち前のコメディ力が存分に発揮されていました。

 もう一つ、(絵描きとしての)不動にベタ惚れなのもヒロインポイント高しです。


 事実、物語の流れや人物の感情をしゃくして的確に表現する、不動の絵の説得力がとんでもないです。モノクロで描かれた海の一枚絵には初見で言葉を失いました。この3話目で固定客を一気に獲得したものと、実感を持って推測します。



 4話ラスト、鳴り物入りで登場した大ヒット原作者の薔薇ばらぞの先生。これは鼻持ちならない敵キャラかと思わせての……(以下後述)。


 5話は間違いなく本巻の肝です。これまでの4話分の積み重ねをフルに活かした、素晴らしい演出に感服します。

 若葉・不動の漫画を審査する薔薇園先生の心情を、読者のそれとリンクさせる仕掛け。このダイナミズムについては、実際に読んで味わってくださいとしか言えません。



 本作のキーパーソン・薔薇園先生の人物造形は秀逸です。創作物と真摯に向き合う姿勢には、創作者としても読者としても尊敬の念が沸き起こります。発する言葉の一つ一つが、漫画や小説を書く人間にはきっと突き刺さるはずです。




◆『その淑女は偶像となる』全4巻〈完結〉松本陽介


 同作者様の前作、アイドルをテーマにした実質熱血スポ根漫画です。


 今作と同じくジャンプ+で連載されておりましたが、これからという盛り上がりを前に無念のご愛読。ですが、誰が何と言おうと私にとっては名作です。



 主人公たち3人はみな生き生きとしていて魅力的です。不屈のアイドルさくら。圧倒的光属性あるみ。そして人間味あふれるまりもには一番共感できました。


 中ボス的存在・じゃ美奈子みなこの揺るぎない信念には深い感銘を受けましたし、まりものライバル志乃しのも知れば知るほど味わい深くなる良いキャラクターでした。四天王のそれぞれが桜子に向ける強烈な想いからも目が離せません。



 読み切り時点で圧倒的支持を得た、第1話の熱量は必見。打ち切りとはなってしまいましたが、物語はきっちりとした形で終わらせてあります。『モノクロのふたり』に感じ入るものがあった方には自信を持っておすすめできる作品です。

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