16. 『スケバン刑事』新装版1~12巻+『スケバン刑事if』〈完結〉

 1970年代に連載を開始、80年代にはTVドラマ化もされた名作少女漫画の感想です。


※同作のリメイク&スピンオフについての雑感はこちらで書いています。

https://kakuyomu.jp/works/16817330658975712480/episodes/16818093081124467063



◆『スケバン刑事』和田慎二


 新装版の発売をきっかけに、全12巻+番外編『スケバン刑事if』を読了。記憶が正しければ、同作に触れるのは中学校以来でした。



 主人公の麻宮あさみやサキといえば、現在まで連綿と続く「戦うヒロイン」の系譜に名を刻む偉大な存在です。しかし、その歩む道は数々の勝利の栄光を覆い隠すほどの艱難かんなんしんの連続なのでした。


 特に第二部から怒涛の如く押し寄せる別離、孤独、裏切りの数々には、読んでいるこちらのメンタルまでもが削られていきます。

 ですが、どんな逆境からも何度でも立ち上がるサキの不屈さこそ『スケバン刑事』の大きな魅力でもあるので、痛し痒しですね。


 サキには三平さんぺいのように男女を超えた信頼を結ぶ相手や、じんきょう一郎いちろうのような明確に愛した男性もいましたが、彼らを失ったどん底からも自力で這い上がる強さがあります。特定の男性に依存しない、独立独歩のヒロインなのです。



 一方で、サキは数多くの女性から慕われたり、それ以上に重く激しい感情を向けられたりもしています。もうお分かりですね? そうです。百合です!


 唯一無二のライバル・づち麗巳レミとの生死を懸けた愛憎劇は、もはや実質(以下自主規制)。みどりも交えたドロドロの三角関係は、第二部後半からの見どころでもありました。


 学生刑事の同僚・すずのツンデレは実に瑞々しくありましたし、序盤から長きに渡って出番のあったアグラ(爆弾でヘリを撃墜する豪傑! in 梁山泊)とのバディ感も爽やかでした。


 炎の記憶克服にも関わった亜子あこ(百合&ドM&嬉ションという時代を先取りしすぎた性癖を持つやべー女)は完全に妹分でしたし、伊賀のおまちも出会う前からのサキ信者でした。


 かといって、サキの方も一方的に迫られるだけではないんですよね。女子相手だと、息をするようにキスやハグやボディタッチしたり、無自覚イケメンムーブでたらし込んだりしていますから、文句は言えないと思います!



 こうしてざっと振り返るだけでも、濃いキャラばかりでめまいがしてきます。

 じんきょう一郎いちろうやムウ゠ミサの華々しい活躍も格好いいのですが、脇役のおじさま方からも目が離せません。


 最序盤からの登場人物の中でも、第二部最終回まで少しも存在感を失わなかったのが、ぬまじゅうぞう先生です。揺らがぬ矜持はまさに教師の鑑でした。

 アメリカではじんとコンビで暴れ回ったり、青狼会の巨漢やすをカウンターで撃沈したり、武闘派なところも魅力です。ミス・ワタナベとの不器用なロマンスも、終始ニヤニヤしながら見守っていました。


 イケオジといえば、暗闇警視の存在も忘れてはいけません。信念を持った切れ者でありながら、たまにお茶目な場面もあって意外ななごみキャラでした。



 以下、ストーリーの方にも少し触れていきます。


 全体的な印象としては、とにかく人死にが多いです! ライバル麗巳レミとの決着で終わる第一部の時点で、メインキャラを含め死屍しし累々るいるいです。一旦連載を畳む予定だったとはいえ、若干の在庫一掃セール感が……。



 第一部序盤の「誕生編2」では、サキが3-Bの生徒たちに温情をかけながらも、裏切りの恐怖と背中合わせの団結力を友情ごっこと切り捨てるクールさに心を掴まれます。

 他にも、姥捨て山の因習ミステリから意外な方向へスケールが広がる「緑の消失点」はなかなか異色のエピソードでした。



 第二部の「魔女狩り編」「シンデレラの逆襲編」は連続ものの学園サスペンスでした。

 昭和の悪役令嬢(?)今日きょうの食わせ者ぶりと、残り少ない時間で人生を登り詰めようという執念には二重に驚かされます。彼女もサキには激重感情を向けていましたね。



 しかし何と言っても「梁山泊編」のインパクトに勝るものはありません。

 ハンバーグから懲罰房まで熱いミミズ推し、そのミミズに愛憎を寄せるエンジェルの過去、癖の強い院長たちや大蛇とのバトル、「小判鮫」の正体をめぐる二重三重のミスリード……息をもつかせぬスペクタクル劇は一気読み不可避でした。



 そして最終回「卒業」。サキは本当に多くの人たちに慕われているなと、改めて感じます。美鈴が真っ先に抱きついているのを私は見逃しません。い奴!


 本作の結末は何となく知っていましたが、詳細を踏まえると令和スピンオフでのサキの扱われ方も味わい深くなります。『~Pretend』での守護霊的な立ち位置も最大限のオマージュですよね




◆『スケバン刑事if』和田慎二


 公式二次創作ともいえる外伝作品です。舞台は1990年代。PHSにプリクラ……平成文化がすでに懐かしく感じます。


 転校生の天宮あまみや祐希ゆきと生徒会長のむろれいは運命的な出会いを果たします。早い話、サキと麗巳のそっくりさんです。

 こちらの世界線でも、やはり二人の立場は相容れないものでした。一方で、共通したある過去を通じて、二人の魂は惹かれ合うのです。


 エピソードは3つ+αありますが、その全体をむせ返るほど濃厚な百合味が覆っています。直接的な描写こそありませんが、祐希と麗華は多分◯ってます(個人の解釈です)。


 詳細は控えますが、こちらのお話はハッピーエンドです。本編では決してありえない結末に、むしろ『if』であることの大きな意義を感じます。


 「哀しいひとり遊び」の象徴であるヨーヨーが寄り添う画は、切なくも美しいです。

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