15. 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王』11巻

 名作『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の前日譚。濃密なドラマの連続に息を呑む、第一部のクライマックス&エピローグです。



◆『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王』(11)三条陸/芝田優作


 魔王つ! 死の直前でバーンに救われたハドラーでしたが、その精神はどん底の極みにありました。

 忠臣バルトスとのやり取りはただただ憐れ。一点の曇りもない騎士道精神に痛いところを突かれ、逆上パワハラパンチをかます三流魔王の誕生です。あーあ。


 ヒュンケルとバルトスとの別れは涙なしには見られません。悲しみに沈む間もなく、父の仇アバンとの邂逅かいこう。憎しみを内に秘め、少年は魔道を歩み始めます。

 地底魔城を振り返るヒュンケルの表情は何とも言えず、胸が締め付けられる思いです。


 一方のザボエラはもう、何かさぁ……一周回って安心感。こんなの(こんなの!)に甲斐甲斐しく尽くそうとするザムザがびんでなりません。



 勇者パーティ、それぞれ故郷への凱旋がいせん。なのに「この四人が顔を揃えることは二度となかった」の史実が重くのしかかります。


 パプニカ王国では『ダイ大』本編へ続く不穏な予兆が頭をもたげます。

 ベンガーナ王国でも軍拡派が幅を利かせ始めますが、真っ向異を唱えた気骨ある人物が王宮を飛び出します。後にポップの父親となるジャンクです。そんな彼の心意気を受け止める妻・スティーヌの器量も素敵ですよね。



 そしてカール王国では、アバンの前に謎の剣士が姿を現します。新たな脅威の気配を前に選択を迫られた元「勇者」は、父を失ったヒュンケルを育てるため「先生」への転身を決意するのでした。


 去り行く「アバン先生」をフローラは快く送り出しますが……まさかこの後二人がくっつくまで十数年もかかるとは! もっと名残惜しくイチャイチャしたっていいじゃないの! 若いんだし! ねえ!?(半ギレ)



 というわけで、第一部はここまで。『ダイ大』本編を踏まえて、破綻なく組み上げられたシナリオの妙技も然ることながら、キャラクター心理の緻密さと腑に落ちる自然な描写も見事というほかありません。



 単行本おまけ、特別番外編のメタい四コマが笑わせてくれます。ヒュンケル黒歴史回収叶わず! エイミさんの純愛ヤンデレが重い……(笑)。

 原作・作画両先生のあとがきに感謝と敬意があふれそう。第二部も楽しみにお待ちしております。

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